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三十六話『自分の立場わかってます?』

マギレコのガチャって、なんかスロット打ってる気分になる。

 その日の夜。ルナは焚き火の元に置かれた樽に肘をつき、冒険者らや新米騎士達と腕相撲で勝負し、喝采と共にお菓子を貰ってご満悦だった。

 十数人が夜空の下、こうして夜営をしてあちこちで焚き火を囲み歓談している様子は、まさにファンタジーな光景そのものと言える。


 そんな光景を、既に寝ているアルの横で、別の焚き火にあたりながら肉を片手に眺めていると、いの一番に挑み、見事に瞬殺された飛斑が酒を片手にやって来て、俺の隣に腰を下ろす。


「いやー、特異体質いうんはホンマ大したもんやな。身体強化使わんと勝負にもならんわ」

「身体強化使ってれば勝てましたか?」

「…………無理やな」


 俺の問いに、少しの間考えるようにじっとルナの方を見つめると、やがてフッと口許に笑みをたたえながらそう答える。


「しかし、勿体ないのぉ。嬢ちゃんが女やのーて、男やったらもっと凄かったやろうに」


 酒を一気に煽り、少々残念そうにそう呟く飛斑。


「僕はルナが女でよかったと思いますけどね」

「お、なんや、あの嬢ちゃんに惚れとるんか?」

「いや、そういう事では……」

「にゃにっ、ユーリ様にしゅきなからが!? わらひれすか?」


 今の会話を耳聡く聞き付けたサーシャが、酒を片手に絡んでくる。顔は赤く染まり、呂律が回らないところを見るに随分酔っているようだ。


「そうとう酔ってますねサーシャ先輩、よくないですよ」

「酔ってませんよぉ~」


 口ではそう言うも足元は覚束ず、案の定、躓いて転倒する。

 やっぱり酔ってるじゃんと呆れていると、やがてモゾモゾと動き、這うようにして俺の膝に頭を乗せる。


「姉ちゃん、戦いに身を置くんなら酒に呑まれたらアカンで……って寝てしまいよった」


 スースーと寝息をたて始めるサーシャに、飛斑も口をあけて呆れる。


「人の膝を勝手に枕にして……普通逆じゃないですかね」


 起こそうかどうか迷ったが、気持ちよく寝ているしこのまま寝かせておいてあげようと思いそっとしておく。

 ただ、吐くのだけはやめてもらいたい。


「主人の膝で寝るたぁ、この姉ちゃんも大したタマやな」


 そう言うと、飛斑は酒を傍らに起き腰から旋棍を抜く。何処からともなく取り出した小瓶を並べると、布にその小瓶の中身を染み込ませて旋棍を磨き始める。


「ん、なんや?」


 その様子を物珍しそうに見ていると、俺の視線に気付いた飛斑がそう聞いてくる。


「え、あっ、すいません。武器の手入れとかしている所を見るの始めてなので、なんだか珍しくて」


 めったに見ないような武器の手入れなんかは特に。


「さよか……まぁ、ワシの武器は面倒な手間もないし、地味なもんやで。見とっても面白おもんないやろ」

「いえ、見てて飽きないですよ」


 包丁を研ぐ動画を見るみたいに、目の前で綺麗になっていくのを見ているといつまでも見ていられそうだ。


「さて、これで終いや。夜も遅いし子供はそろそろ寝る時間やで」


 飛斑は手入れの終わった武器を納めると、道具を片付けながらそう言ってくる。


「はーい」


 俺は大人しく言うことを聞き、ぐっすりと眠っているサーシャをそっと膝から退かすと、その隣に横になり目を瞑る。

 


 ――深夜。ふと目が覚める。辺りは暗く、サワサワとそよ風が葉を鳴らす音が絶え間なく続く。

 少し離れたところで、冒険者が一人焚き火に枝を追加しながら見張りをしているのが見えた。

 明日も早いし、寝ておこうと思い目を瞑るも、慣れない野宿で寝付きが悪中々眠れない。

 体勢を変えてみたりするが、目は冴えたままだ。


「……少し、夜風に当たるかな」


 寝ている皆を起こさないように、静かに起き上がると音を立てないよう忍び足で少し離れる。


 昼間や夕食時の賑やかさとはうってかわって、頬を撫でる夜風が心地良い。


 そろそろ戻るか。そう思い踵を返した時、首筋に冷たい感触が当たる。


「おっと、大声を上げるなよ」


 耳元で、しゃがれた男の声。目だけを動かして首元をみると、月明かりにより妖しく光るナイフの刃が当てられていた。


「盗賊ですか?」


 昼間、馬車に描かれたライラットの紋章を見て襲ってくる輩は居ないという話をしていたので、完全に油断していた。


「ああ、そうだ。お前を拐うよう仕事を頼まれたんでな、悪く思うなよ」

「僕をですか?」


 はて、拐われる理由が思い浮かばない。恨まれるような事をした覚えはないし、立場的にもアルの方が狙われそうなものだが……。


「へっへっへ、自分から一人になってくれるとは有難いぜ」


 茂みの中から、盗賊の仲間であろう二人の男が出てくる。


「おい、第三王子アルバンス・ライレイってのはこいつで間違いないんだな?」


 ……ん?


「監視してましたが、立ち振舞いがど堂に入っていたのでそいつが王子で間違いないかと」


 いや、人違いだよ。

 アルを狙っての犯行か……しかし解せない。


 拐うように仕事を頼まれたと言っていた。つまりは、裏で糸を引いている者が居るいうことだ。

 しかし、アルが消えて特をする人間なんているだろうか?

 王位継承巡っての争いだとしても、アルは第三王子。第一継承権をもつのはアルの父親。

 仮にアルを拐い脅しをかけるにしても、そもそも王位継承権を持つのは三人のみ。それ以外が王になるのは無理な話だ。

 となれば、犯人は国人間ではない?


 アルの顔を詳しくは知らないということは、こいつらライラットの者ではない可能性は高い。とはいえ、アルは表舞台にはあまり姿を見せないので、顔はそこまで広くは知られていないので断定はできない。

 第一、拐うなら国境を超えてからにしたほうがやり易いだろう。

 ……推理するには少し情報が足りない。ここは彼らから聞き出すとしよう。


「これは、僕がライラットの第三王子と知っての事のようですが、目的は何で、誰に頼まれたんですか?」

「それを知る必要はねぇ。さて、大人しく付いてきて貰うぞ」

「どこに連れていくつもりですか?」

「それも知る必要はねぇな」


 むぅ、全然教えてくれん。少しばかり、手荒な方法になるが仕方ない。


「そうですか、わかりました。大人しく従いましょう……ですから、これは納めてはいただけませんか? 三対一状況ですし、逃げても無駄でしょう?」


「……いいだろう」


 俺がナイフを退けるように頼むと、相手は子供だという油断もあってか、男はすんなりとナイフを納める。


「ありがとうございます」


 喉元からナイフが離れたのを確認し、お礼を言うと同時に身体強化をし、男の腹部に肘鉄を叩き込む。

 腕力には全く自信がないが、それでも身体強化した攻撃を生身で受ければ大の大人でも悶絶させるくらいの事は出来る。


「なっ!」

「てめぇっ」


 他の二人は一瞬、表情に驚愕の色を浮かべるもすぐさま俺を取り押さえようと襲いかかってくる。


「バインド」


 それを、相手を拘束する無属性の中級魔法で取り押さえる。

 それから、魔法を喰らい悶絶している男も同様に魔法で拘束し身動きを封じる。


「さて、本来ならばこの場で殺してしまうか、そうでなくとも王子誘拐の現行犯として兵士に引き渡すか……いずれにせよあなた方に未来はありませんね」


 魔法で身動きを封じて、三人まとめて地面に転がした彼らの側でしゃがみ、リーダーらしき男の首に彼の持っていたナイフを当てながらそう告げる。

 すると、男は苦虫を噛み潰したような表情で俺を睨み付けてくる。


「そんな渋い表情しないでくださいよ。最初に本来ならばと言ったでしょう? 僕の質問に答えてくれれば、殺したりはしませんし、兵士にも引き渡したりしません」


 自分達の命か、自分達の信用か。

 どちらを選ぶにせよ、得られる情報は大きい。できれば、目の前で自殺はしてほしくはないので、前者を選んでほしい。


「……本当だな?」


 男は半信半疑な目で俺を見返しながら、小さく呟くように聞く。


「ええ、誓って。では、洗いざらい吐いてもらいますよ?」

「…………わかった」


 どうやら、前者を選んでくれたようだ。

 男は暫く悩んだ後に、眉間にシワをよせながらも首を縦に振る。


「仕事を頼まれたと言っていましたね、誰に頼まれたんですか?」


「女だ。顔は知らねぇ。フードを深く被ってたから、見えなかった。嘘じゃねえ」


「顔以外に背丈や、喋り方、体型、特徴はたくさんありますよね」


「背丈は普通だ。体型はローブを羽織ってたから詳しくははわからねぇ、喋り方は品のある感じ……あと、髪が白っぽかった気がする……後は知らねえ、それで全部だ」


「その人には、どこで頼まれたんですか?」


「……酒場だ。飲んでたら、あの女がこの話を持ちかけてきたんだ」


「対象の特徴は聞かなかったんですか? それとも、聞いたけど教えてもらえなかったんですか? 一つ言っておきますが、僕はアルバンス・ライレイではありませんよ」


「なっ、てめえ人違いじゃねぇか!」

「だって、ガキは大勢居たし、その中で一番こいつがそれっぽかったんですよ」


「喧嘩してないで、僕の質問に答えてください」


「……聞かなかったんだよ。ガキだってのは知ってたから、それで十分だと思ったんだ」


「なるほど、つまり馬鹿なんですね」


「なんだと!」

「もういっぺん言ってみろ!」


 馬鹿にされたことで頭に血がのぼったか、外野の二人が声を荒げて怒鳴り付けてくる。

 そんなに大きな声を出したら、見張りをしている冒険者か兵士に気づかれるじゃないか。


「うるさいですよ、そこ。さっきから自分の立場わかってます? 言葉は一度飲み込んでよーく吟味した上で舌の上にのせたほうがいいですよ、さもなくば……」


 男の首に当てているナイフを少し押し込む。刃が食い込み、男の首から一滴の血がナイフの刃を伝って滴り落ちる。


「お前らは黙ってろ。余計な口を開くんじゃねえ」


 冷や汗を額に滲ませ、男は他の二人にそう言う。


「物わかりの良い人で僕も助かります……それで最後の質問ですが、あなた方に依頼をしたのはライラットの人間ですか?」


「あの白っぽい髪はライラット以外じゃまず見ねぇ、言い切れねぇが、ライラット人だろ」


「なるほど、ライラットの人である可能性が高いと」


 取り敢えず、聞いたい事は全部聞いたかな。もう少し渋るかと思ったが、すんなりと全部喋ってくれたので助かった。


「ああ、そうだ。これで全部話した、俺達を解放しろ」

「……え? 解放? 嫌ですよ。襲われるの怖いですもん」


「なっ、約束がちがうじゃねぇか!」

「殺さない、兵士に突き出さないと言っただけで、誰も解放するとは言ってませんよ」

「それじゃ、つまり、このまま置いていくってのか」

「んー、そうですねぇ」


 拘束を全部解いて自由にしても、襲ってこないという保証はないし。この状態のままこの場から離れるのが最善だろうが……そういう訳にはいかないか。


「ふっ、ふざけんな! こっ、ここをどこだと思ってんだ!」


 男の顔が絶望一色に染まり、恐怖混じりの上ずった声でそう叫ぶ。

 冒険者が定期的に巡回して駆除してくれているとはいえ、街の外には魔獣が彷徨いている。そんな所に身動き一つ取れないまま捨てられるのは、絶望的な状況だろう。


「そんな顔しないでくだい。流石に身動きが全くとれないまま放置するほど鬼ではありませんから」


 俺はそう言うと、男達の拘束を足だけ自由に動かせるように解除する。


「これで足は自由に動かせます。朝になれば拘束も解けますし、後は自力でどうにかできますよね」


 魔獣と戦えずとも、走って逃げるくらいの事は出来る。

 後は彼ら責任で、俺のあずかり知る所ではない。


「もしまた同じような事をすれば、今度は脅しだけではすみません。命が惜しくば大人しくしていることです」

「……そうさせてもらおう」


 男達は意気阻喪したように、すごすごと立ち去っていく。


 それを見送りながら、彼らから得た情報を元にフードを被った女の目的を推理する。

 アルを狙ったのは政治的な理由からではなく、それ以外の理由だろう。ライラット人以外であるならまだしも、ライラット人がアルを拐う理由は思い浮かばない。

 であれば、それは政治的な理由からではない。


 私怨によるものか、はたまた国家転覆を目論んでいるのか、いっそ王族全員を亡き者にして自分が王になろうなんて企む不遜な輩……っていうのは流石に突拍子のない話しかな。


「普通に考えれば私怨が一番妥当かなぁ」


 だとするなら、国外に出てしまえば手が及ぶ危険性は格段に低くなる。同行している兵士に事情を説明し、国王に伝令を出してもらえば十分だろう。

 しかし、眠気を誘うために散歩していたのに、今の一件ですっかりと目は冴え渡ってしまった。


「これは明日がきついな」


 馬車の中で寝れるかなと思いながら、俺も踵を返して皆の元へ戻る。

 


 翌朝、どうにか起きられた俺は、眠たい目を擦りながら昨日起こった事を説明する為に一人の騎士に声をかけた。


「ん、これはライトロードのご子息殿、なにかご用でしょうか?」


 毛の一本も生えていない、肌色の頭。その下には相手を威嚇するような鋭い翠色の目。

 最低でも二メートルはあるだろう、目の前に岩が現れたのかと錯覚してしまう程の巨体に、丸太のように太い鍛え上げられた腕。

 まるで巌のような人だ。というか怖い。言葉遣いが丁寧だけど、逆にそれが怖い。

 毎年、新米騎士を出場させると聞いていたが、本当に新米騎士なのだろうか。どう見ても歴戦の猛者にしか……。


「実は……」


 俺は恐る恐る、昨日の出来事を事細かにせつめいする。しかし、流石にわざと逃がしたと言うのはまずいので、取り逃がしてしまったという事にしてだ。


「私がついていながら、王子にそのような危機が迫っていた事に気付けなかったとは……なんたる不覚っ」


 心底悔しそうな表情を浮かべ、側に生えていた木を叩く騎士。身体強化をしていないにも関わらず、木には拳のあとがくっきりと残っている。


「……で、ですので……で、出来れば次の街で駐屯している兵の方に、その、伝令をお願いしてほしいのですが……」


 それを見た俺はすっかりと萎縮してしまう。

 それでも、後半しりすぼみになりながらも、どうにか用件は伝えることができた。


「……いえ、伝令は私の使い魔を送りましょう」


 使い魔について、一体どんなものなのかと気になったが、とてもそれを聞けるような度胸はなく、お願いしますと一言頭を下げてそっとその場を離れた。

 こういう時、ルナのように物怖じしない性格が羨ましく思える。


「のぅユウリよ、セロと何の話をしておったのだ?」


 あとの事は騎士に任せ、俺は自分の馬車へ乗り込む。すると、俺の隣にアルが移動してきてそう尋ねてくる。


「セロというのは、あの騎士の方ですか?」

「うむ、あの者は余の護衛として同行しておる騎士でな、王国でも一、二を争う程の武勲を誇ると言っておったぞ」

「そんなに凄い人だったんですか!?」


 絶対に新米騎士ではないだろうとは思っていたが、まさか王国のトップ戦力だとは思わなかった。

 というか、魔族を討伐しようと大規模な派兵をしようとしている時に、国が随一の戦力を二人も国外に出しても良いのだろうか……。

  

「それで、何を話しておったのだ?」

「えっと、そうですね……内緒です」


 昨日の出来事を言うべきかどうか迷ったが、やはりアルに伝えることがのはやめておいた。

 国境を越えるまでまだ数日かかるのだし、ここで不用意に不安にさせたくはない。

 

「むぅ、教えてくれても良いではないか」

「内緒です」

「うーむ、教えてくれないなら……こうだっ」


 そう言うや否や、俺に飛びかかり服に手を突っ込み横腹をくすぐってくる。


「え、あはははは! ちょ、くすぐったいですよ」


 下町育ちでもないのに、誰からこんな事を聞いたんだ。


「フハハハハハ、ルナから聞いたのだ。こうすると笑いが止まらなくなるとな」


「ちょ、ルナ、変な事を教えないでくださいよ」

「あはっ」


 俺が笑いながら責めるも、ルナは満面の笑みを浮かべて誤魔化す。可愛いから許す。


「ええい、この、お返しですっ」


 今度は俺がアルをくすぐる。


「アハハハハハ、わかったすまぬ、すまぬって」

「このこのこの~」


 ゲラゲラと笑いながら転げ回るアル。

 そんな様子がおかしくて、つい俺も調子に乗ってくすぐり続ける。

 だが、少し手狭な馬車でそんな事をされれば、さぞ迷惑だろう。ルークは顔をしかめながら言った。


「あーばーれーすーぎー」

200連でアルティメットまどか一体しか引けなかった。悲しい。

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