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三十五話『いえ、見てて飽きないですよ』

彼女の作り方とジョイフルのお勧めメニューを教えて下さい。

 選考戦の二週間後、俺達は馬車でティシュトルへと向かう為に王城に呼ばれていた。


 都市ライレイの中央に位置する城は、街の端からでも見えるほど立派で、学園からもよく見えるため、何度か学園の窓から目にした事はあったが、こうして間近で目にすると、改めてその大きさに圧倒され思わず感嘆が漏れる。


「ユウリ・ライトロード、ルナ・ヴァンデルシア、ルーク・ヴァンデルシア、サーシャ・ブラウニー……確認致しました。どうぞ中へお入りください」


 城の門で警備をしていた兵士に、予め渡されておいた書状を見せ、中に通してもらう。

 

「よくぞ参ったな!」


 城の周囲を囲む堀にかけられた橋を渡り、門をくぐり城の敷地内へと入るとすぐ、アルが嬉しそうに腕を組んで立っていた。

 友達を家へ招くのが初めてで、待ちきれずに出て来たといったところだ。


「今回はお招き頂き有難うございます……と言うのは少し変ですかね」


 招かれた事には間違いないが、別段パーティーに来たわけではない。

 

「変ではないだろうが、余達の間に社交辞令など不用であろう……ところでユウリ、その荷物は何が入っているのだ?」


 ルナやサーシャよりも大荷物を抱えている俺を見て、アルは疑問に思ったのか不思議そうに尋ねてくる。


「クリスタルホースの角ですよ。以前、飛斑さんに頼んでおいたのです」


「何の為に?」


 ルナとルークがそう聞いてくるので、理由を説明するも、流石にこの手の話は少し難しかったらしく、二人は全く理解できずに首を傾げる。


「ユウリ様……その、申し上げ難いのですが、衣食住に掛かる費用はすべてライラット側で用意してくださるので、金の必要はないのです」


 サシャが少し言いにくそうに、困った表情を浮かべてそう言う。


「あ、そうなんですね……けど、まぁ、それとは別に、あって困る事はないでしょう」


 ライラットの方からいくらか援助が出るだろうとは思っていたのだが、まさか主催国が負担してくれるとは、気前の良い話だ。

 だが、いくら負担してくれるといっても、魔道具について学ぶ費用までは出してくれないだろう。やはり、自前で用意しておくにこした事はない。


「荷物といえばルナ、本当にそれも持っていくのですか?」


 選考戦の時に景品でもらった鳥籠に入っている卵を、未だに大事そうに抱えているルナに尋ねる。


 放っておけば興味も薄れていくだろうと思っていたのだが、全くそんな様子はなく、今日までずっとこうして大事に持っている。


「だって、いつ産まれるかわからないじゃん」

「暫く孵る事はありませんよ……」


 何度もそう言っているのだが、自分が遠出している間に孵化し、刷り込みにより自分以外を親だと思われるのがよほど嫌らしく、頑なに置いていこうとはせず、もう誰も口を挟まないようになっている。


「ところでアル、兵士の方々は随分と忙しそうですけど、いつもこのような感じなのですか?」


 俺もそれ以上は何も言わず、話題を変える為に、先程から気になっていた事をアルに尋ねる。

 城内の兵士達は、これから戦争でもするかのように大荷物……大量の武具を運んでいたり、計画書のようなものを見ながら真剣な表情で話していたりと、随分と忙しそうに見えた。


「いつもはもっと静かだぞ。ルーキの森に現れた魔族を討伐するために大規模な派兵をするらしくてな、今はそのための準備で忙しいのだ」


「へぇ」


 大量に運ばれる武具、それらの中にある槍の穂に巻かれた布の合間から、白銀の輝きを放つ鋭い刃が見える。

 ただの武器ではない事は一目見ればわかる。おそらく、魔法で鍛えられた逸品だろう。

 一本でもかなり値が張るであろう代物を、こんなにも大量に用意するとは……それだけ警戒しているということだろう。

 そして、これだけの武器を用意できる国の資産にも脱帽する。

  

「これでルーキの森の件も一件落着というわけだな……っと、この部屋だ。もう皆が待っておるぞ」


 アルに案内された部屋では、冒険者らしき出で立ちと、ライラットの国章の入った鎧を纏っている兵士ら合わせて十人が待っていた。

 俺達と同様に選考戦で勝ち上がり、ティシュトル行きの切符を手にした者らだ。


「よう、白坊主」


 その中には当然、飛斑の姿もあり、俺達に気付いた彼は声をかけてくる。


「こんにちは飛斑さん……あ、そうだ。こちらはルーク・ヴァンデルシアとルナ・ヴァンデルシアです」


 ルークとルナに飛斑に合わせて欲しいと頼まれていた事を思い出し、二人の事を飛斑に紹介する。


「嬢ちゃんと坊主は初めましてやな。選考戦、見させてもろたでー。中々強いのぉ」


 二人の頭を撫でながら、飛斑は嬉しそうな笑みを浮かべて言った。


「えへへ」

「いえ、俺はまだまだです」


 憧れ? の飛斑に褒められ、照れ臭そうにしながらモジモジする二人。 


「んなこたあらへん。もっと自信持ってええで。少なくとも、ワシが二人くらいの年は、まだ録に戦えへんかったからな」


「ってことは、私ら大きくなったら飛斑さんより強くなるってことかな」

「いや、それはわかんねーだろ」


「先の事は確かにわからんな。せやけど、このまま頑張って鍛えていけばきっとワシより強くなれる可能性は高いで。せやから二人とも頑張りぃよ」


「「はーい」」


 嬉しそうに返事をし、飛斑から離れてサーシャとアルの元に戻っていく二人。

 四人で談笑する姿を見ながら、入れ替わるような形で飛斑に話しかける。


「飛斑さんはこれまで色んな国を周ってきたのですよね?」

「おう」

「お聞きしたいのですが、ティシュトルってどんな国なのでしょう?」


 俺がそう尋ねると、飛斑は自分の記憶を探るように目を閉じて顎に手を当て低く唸る。


「……せやなぁ、大分昔の事やし、少ししか居らんかったがあんまし覚えとらんけど、随分と便利なところやったで、馬車に馬が繋がれとらんのに動いとったり、夜になっても街が明るかったり、ツマミを回すだけで火ぃ起こしたり、水が出てきたり……魔法なんか使わんでも、楽な生活ができたな。けど、飯はライラットの方が美味いわ、向こうのは貧相で敵わん」

「それは……驚きですね」


 魔道具が発達しているとは聞いていたが、それでもライラットとさほど変わらないだろうと思っていた。

 しかし話を聞くかぎりでは、それは大きな思い違いのようだ。

 食べ物が貧相だというのも、食料自給率は低いがその分、魔道具主体の工業に力を注いでいるということだろう。中世のような世界観のライラットとは違い、結構近代に近い国かもしれない。

 

「あとは、賭博が盛んやったな」

「へぇ、賭博ですか」


 賭博と聞いて、真っ先にアメリカやモナコにあるようなカジノが思い浮かぶが、この世界にはトランプなんてない。バカラやブラックジャック、ポーカーといったカジノで主流のゲームはこの世界にはない。

 ルーレットや、チンチロリンなんかはありそうだが、賭博が盛んというなら地球にはなかったゲームが色々とあるだろう。

 

「行ってみたいな」

「年齢制限あるさかい、子供は無理や」

「あー、やっぱりそうですよねー」


 この世界の賭博について少し興味が湧いたが、やっぱり年齢制限はあるらしいので、こればかりは大人になるまで我慢するしかないか。


 その後も飛斑と益体も無い会話を交わしていると扉を開けて兵士が現れ、国王が訪れることを告げる。

 それを聞いた俺達は姿勢を正して部屋の入口へと向き直った。

 少しして、再び扉が開き、すでに壮年を過ぎつつあるが、それを感じさせない威風堂々とした雰囲気を纏った国王陛下が、ゆっくりとした足取りで入室してくる。

 すれ違う際に目が合い、軽く会釈をする。国王はそれに答えるようにフッと口元を緩めて笑う。


「さて、お主らは見事に選考戦を勝ち上がり、ティシュトルで行われる決闘大会に出ることとなる」


 国王は椅子に腰掛け、集まった面々を一望すると、ゆっくりと口を開いた。


「我が国ではその大会に力を入れているわけではない事は、皆も知っているだろうが、だからといって無様な負けを晒していい訳ではない。ライラットの戦士として、誇れる戦いをせよ」


「はい」


 国王からの喝にニコニコと笑顔で答えるルナ。

 本人はいたって真面目で、国王の期待に応えようと返事を返したのだろうが、国王の覇気の乗った言葉の後に、ルナの少し気の抜けた可愛らしい返事を聞くと力が抜けそうになる。


「いい返事だ。その様子であれば、なんの問題もなかろう。では行くがよい」



◇◆◇◆


 ガタゴトと馬車に揺られ、どれ程の時がたっただろうか。

 王都ライレイの姿はもうすっかりと見えなくなり、馬車の横手に備え付けられた窓の外には見慣れない景色が広がっていた。


「しかし、このトランプというのは奥深いですね」


 俺の隣では、サーシャが配られたトランプをじっと見つめながらそう呟いていた。


「そうですね、これだけでいくつもの遊びが出来ますから」


 外の景色から目を離し、サーシャの方を向いてそう答える。


「ユウリ様の見聞は広いですね」

「いえ、そんな事はないですよ」


 苦笑しながらそう答え、再び視線を馬車の外へと向ける。

 

 俺達が乗っている馬車の他にも、二台程後ろに列を作って道を行く。それぞれ冒険者と兵士が乗っている馬車だ。

 人が多ければ、それだけで弱い魔獣は逃げていくし、こういった街道は冒険者が定期的に巡回して魔獣を駆除しているので、そもそも魔獣との遭遇率が低い。野盗も馬車に描かれたライラットの紋章を見れば、まず襲ってくる事はない。

 

 なので俺達は襲撃の心配をする必要もなく、こうして乗り心地の良い馬車に揺られるだけの快適な旅を楽しんでいれば良い。


「あ、フラグ立てちゃったかな……なんつって」

 

 俺がそう呟いた矢先、ルナが何かを見つけたように窓に張り付く。

 

「……んー、なんか気持ち悪いのが見えるよ」

「あれは……ほぅ、珍しい魔獣だな。スライムの一種で、大型の魔獣に寄生して魔力を吸いとる性質をもつヨリウムスライムだ」


 フラグ回収早すぎでしょ。


「なんか、こっちに来てるように見えるんだけど」

「気のせいではないか? あれは本能的に強大な魔力を持つものを寄生対象に選ぶ。人よりももっと大型の魔獣を規制対象として選ぶ筈だ」


「強大な……」

「魔力か……」

「ということは……」


 サーシャの説明を聞き、ルナとルーク、そしてアルまでもが俺の方をジッと見つめてくる。


「ちょっと三人してこっちを見ないでくださいよ」


 確かに俺の魔力は他と比べても多いけども、俺が狙いと決まったわけではないだろう。


「ん、しかし妙だな。確かにこっちに向かって……いや、この馬車に向かって来ているように見える」


「てことはやっぱり……」


 自分で蒔いた種は自分でどうにかしろよとでも言いたげな視線を、俺に送ってくるルーク。


「……わかりましたよ。追い払えば良いんでしょ、追い払えば」


 蒔いた覚えはないのだがと思いながらも、小さくため息を付き重い腰を持ち上げる。


「ユウリ様、このままではぶつかるかもしれません。ここは一度馬車を止めて様子を伺った方がよろしいかと」


「構いません。少し扉を開けさせてもらいますね」


 俺はそう言うと馬車の扉を開けて、サーシャに支えてもらいながら屋根に上る。

 確かに一直線に俺の元に向かって来ている。

 ドロドロとした液状に近い半固体の塊、それに蜘蛛のような足が左右に二本づつの合計四本生えており、それらを交互に動かし、這うようにして真っ直ぐと向かってくる。


 スライムと聞いて思い浮かべるイメージとは随分かけ離れている。ヨシヒコくらい雑なクオリティでもいいから、もっとファンシーな見た目がよかった。

 実際のスライムは鳥肌が立つほどに気持ちが悪い。


「あれに寄生されるとか、堪ったものじゃない」


 俺はスライムの目の前に、初級魔法のライトボールを放つ。スライムの進行方向の少し前に着弾し、少量の土煙を巻き上げる。

 これで驚いて引き返すだろうと思っていたのだが、スライムは全く動じる様子もなく真っ直ぐと向かってくる。


 できれば、危害を加えずに追い払いたかったのだが、致し方ない。


 スライムに生えている四本の足を狙い魔法を放つ。

 ものの見事に足の付け根を撃ち抜き、足を失ったスライムは動きを止める。しかし、すぐに新たな足を胴体から生やすと再び動き始める。

 しかし、今ので多少は警戒したのか、木々を盾にして身を隠しながら一定の距離を保って追従している。


「意外と高いんですね、再生能力」


 追い払えないのであれば無力化をと思ったが、ああも再生が早いとそれも難しい。

 可哀想だが殺すしかないだろう。とはいえ、急所がどこかもわからない上に、再生能力も高いとなると生半可な攻撃では仕留められないだろう。

 とはいえ、大火力で跡形もなく消し去るには距離が近い。下手をすれば馬車ごと跡形もなく……なんて事になりかねない。


「もう少し遠ければ……いや、遠くても人の目があるし、高火力ブッパは避けたいところですね」


 現状向こうから距離を詰めてくる気は無さそうだ。このまま馬車を止めずに走り続けていれば、何れ諦めるかもしれないし、暫くは様子見だな。


「ちょ、ちょっと、君。走っている途中に屋根に上っちゃ危ないよ。直ぐに戻って」


 少し騒がしかったのか、手綱を握っていた御者が驚いた表情でそう忠告してくる。


「すいません、あのスライム倒したら直ぐに戻りますから」

「スライム? うわっ、なんだあれは……」


 ようやくスライムの存在に気がついたのか、慌てて馬車を止める御者。

 

「ちょっ、今馬車を停めるのは」


 馬車が停まったのを好機と見たか、一気に馬車との距離を詰めてくる。


「ちょ、待っ……」


 ちょっとこれはマズイかも……そう思った矢先、馬車とスライムとの間に人影が割って入る。


「飛斑さんっ!」


 割って入った人影……飛斑は、人影は素早く得物である旋棍を構えると、スライムの腹の下にそれを突っ込み、そのまま上空へとかちあげる。


「やれ」


 飛斑が前の馬車にそう指示すると、上空のスライムに火球が三発飛んで来て火だるまにする。火に包まれみるみると小さくなっていき、地面に落ちてくる頃には跡形もなく消え去る。

 なるほど、スライムは火が弱点らしい。


「おう、近くをうろちょろしとるのは気ぃついとったが、まさかこっちを狙ってくるとは思わんかったわ」


 飛斑は旋棍を仕舞い、こちらを振り返りながらそう言う。


「しかし、なんでヨリウムスライムが人なんか狙って」

「あれじゃないか? 他の冒険者らがここら辺掃除したから、寄生対象がいなくなったとか」

「だとしても、我等のような騎士や貴女方冒険者ではなく学生狙うか? しかも殆どが十歳だ」


 前後の馬車から騎士や冒険者らが降りてくる。しかし、まいったな……この状況。

 一番多くの魔力を持つ物を寄生対象にするという性質のお陰で、下手をすれば俺の魔力の事が露呈しかねない。

 ここは黙って隠れておくのが吉……か。


「スライムがこの馬車狙いなんは、多分こん坊主が原因やろうな」


「なっ!?」


 思わぬ不意討ちを喰らい、心臓が跳ね上がる。

 何故、どうして、バレているのか、何かボロを出すようなことをしたのか、ならば一体どこで……と頭が高速で回転し、心当たりを探すが思い当たる節は全くない。


「ワシが坊主にクリスタルホースの角ぎょーさんに渡したからな、それが狙いやろ」


「クリスタルホースか……なるほど、魔獣の角には魔力が凝集されている。それを餌としたのか……しかし、一体どれ程の量をとったのだ」


「ざっと五十本やな」


 ……ん、五本しか受け取ってない筈だ。

 やはり、バレている? しかし……いや、だが、この庇い方は確実に事情を知っているようにしか思えない。


「集めすぎだろ」

「全く、とんでもねーなおい」

「疑問も晴れたし戻るか」


 飛斑の話を聞き、冒険者や騎士らは笑いながら自分の馬車へと戻っていく。


「あの……五十本ってどういう事ですか?」


 馬車の屋根から飛び降り、飛斑の元まで行くと声をひそめてそう尋ねる。


「そんなに警戒せんでもええで、事情は全部国王から聞いとるさかい」


 飛斑は俺を一瞥するも、すぐに視線を外し、明後日の方向に目を向けながらそう答えた。

 国王陛下から聞いた……という事は、彼が俺の監視役ということだ。

 いざというときに、腕ずくで俺を抑えられる、最悪の場合でも確実に殺せるとなると、国一番の冒険者と名高い彼が適任なのは間違いない。

 

「それならそうと早く言ってくれればよかったのに……お陰で寿命が縮まりましたよ」

「すまんすまん……ほな、ワシも馬車に戻るとするわ」


 そう言いながら、飛斑は背を向けて軽く手を振りながら馬車へと戻っていく。

次回更新予定日、今月中。

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