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三十四話『ドラゴンって何食べるのかな?』

浸水や暑さで大変な状況なのに、そこに台風まで来るなんて。


しかし、まさか縁ある地域が被災地になるなんて思いもよらなかった。


近々、ボランティアで復興の手伝いに行こうかと考えているのだが、一口にボランティアと言っても、何をどうすれば良いのかよくわからない。

ボランティアに参加する為の手続きとか登録とかあるのだろうか?

「とても見応えのある試合でしたね」

 

 終了を告げる笛の音を聞き、俺はルナとルークにそう言う。


「そうだな。もしかしたら、勇者の方が勝つかもと思ってたんだけど……やっぱりあの人スゲーな」


 仰向けに倒れている勇者を見下ろしんがら、少し残念そうにそう呟くルーク。


「でも、途中までは勝ってたじゃん」

「いや、私には、勇者の方は軽くあしらわれていたように見えたな。だから、彼も焦って最後に詰を誤ったのだろう」


 ルナの言葉にサシャが反論すると、ルナはそうなの? と尋ねるように小首を傾げながら俺の方に視線を投げ掛けてくる。


「……途中はどちらが勝っているのかはわかりませんでしたが、僕もあそこで距離を詰めるべきではなかったと思いますよ」


 ルナの視線に気付くのが遅れた俺は、少し間が空いてからサーシャと同じような事を答える。


「そっかー。私なら迷わず同じ事するけどなぁ……突っ込むだけじゃダメなのか」

「いや、お前はそれで良いだろ」


 ルナは考え込むように腕を組んでそう呟くと、それにルークが半ば呆れたようにそう答える。


「それで、どうします? これから、飛斑さんの所に行きますか?」


 俺が二人にそう尋ねると、ルークは迷うように視線を明後日の方向に向け、少し間をおいてから首を横に振った。


「今日はいいや。向こうも疲れてるかもしれないし、急に押し掛けたら迷惑だろ。俺も今日は疲れたからゆっくり寝てーよ」


「そうですか。それじゃ、帰りましょうか」


 内心、飛斑の方は疲れてないんじゃないかなと思ったが、本人がいいと言っているのだし、機会はいくらでもあるので急ぐ必要はないと思い、ルークにそう言うと、国王に別れを言ってから観覧席を出る。



「ねぇねぇ、帰る前にちょっと見てかない?」


 闘技場を出て寮まで帰るため、馬車を手配していた時、闘技場の外に並んでいる出店に興味を持ったルナが、俺の袖を引っ張ってそう言った。


「出店ですか?」


 出店と言っても日本の祭のような屋台ではなく、地べたに布を敷くか、台を置いて、その上に手製の装飾品を並べただけのものが殆どで、飲食物を扱っているところは、衛生面に配慮してか、馬車を改造して作ったであろう手製の手押し車を使っていたりもしている。


「そうは言っても、もう馬車をお願いしてしまいましたよ」


 もう少し早く言ってくれれば、馬車の手配を遅らせることも出来たのに。


「えー、残念。見ていきたかったなぁ」


 名残惜しそうに出店の並ぶ通りに目を向け、そう呟くルナ。


「……しょうがないですね、僕が付き合いますよ。二人は先に帰っていいですよ」


 自分たちの馬車はもう一度後で手配するとして、ルークとサシャには今手配した馬車で帰るように言う。


「おう、そうさせてもらうわ」

「ユウリ様が残るのであれば、私も……」

「いえ、先輩はルークの方をお願いします」


 ルークも平気そうな表情を保ってはいるが、実際の所かなり疲れただろう、サーシャも一回戦は一人で戦い抜いてくれたし、いつも世話してもらっているので、今日はもうゆっくりと休んで欲しい。


「……わかりました。では楽しんでください」


 少し迷うようにルークと俺を交互に見るサーシャだったが、仕方ないかとでも言うように軽く息を付き、にこやかな笑みを浮かべて頭を下げる。

 俺はそれに軽く返事をし、ルナの手を引いて出店の並ぶ通りの方へと足を進めた。


「 おぉ~、いっぱい食べ物が並んでる~」

「闘技場の外も意外と賑わってるんですね。もっと人が少ないと思ってました」

「ねえねえユウリ! あれ食べたい!」


 ルナがぐいぐいと腕を引っ張る。指している先にあるのは、魔獣の肉を使ったホットドックに近い食べ物。


「良いですね。ちょっと買ってきます」


 俺はルナにそう言うと出店にかけより、出来立てのものを二つ買って戻り、ひとつをルナに渡すと、近くの木陰に腰を下ろしてかぶりつく。


 魔獣の肉は総じて非常に足が早く、丸一日も立てば痛み始めるが、かわりに脂がよくのっている。

 それを細かく刻んで焼き、すこし硬めのパンを開いて野菜と一緒に詰める。

 すると、固めのパンが濃厚な肉汁をたっぷりと吸い、ちょうど良い柔らかさになり、一口噛むとパンから吸い上げた熱々の肉汁が溢れて口の中に広がる。

 ミンチではなく、刻んだ肉のほろっとした食感とみずみずしい野菜のシャキシャキとした食感が心地よく、飲み込むと熱い塊が喉の奥を通り抜けていくのがわかる。

 

「んーっ、やっぱり美味しー!」

「ですねぇ」


 地球の料理も美味しいが、この世界の料理もまた美味しい。

 

「ねぇ、あれなにかな?」

 

 ゆっくりと堪能していると、再びルナが俺の袖を引いてとある出店を指差す。


「さぁ、なんでしょうね」


 ルナの指差す店には幾つかの短剣と、ネックレスやブレスレットといった装飾品が飾ってあるのが見えるが、単にそれらを売っているようには見えず、どんな出店なのか今ひとつわからない。


「ちょっと聞いてくるね」


 そう言ってその店に走っていくルナを、俺は後から追いかける。


「おじさん、ここはなんのお店なの?」


「お客さんにちょいとした遊戯をしてもらってるんだ」


 ニコニコと少し嬉しそうな笑みを浮かべ、そう答える店主。


「具体的に何をすればいいの?」


「この短剣をあの的に向かって投げるだけさ、刺さった所に書かれている得点の合計に応じて色々と商品を渡すのさ」


 射的や輪投げみたいなものか。しかし、投げナイフでやるのは些か危ないのではないだろうか。


「ユウリ、やってみようよ」


 ルナは興味を持ったようだが、どうやら自分でやるのは少し敷居を高く感じているのか、俺に手本を見せてほしいようだ。

 

「いや、僕は遠慮しておきます。やったことないですから」

 

 単なる輪投げや射的なら、最初にやって見せるのは構わないが、これはそうもいかない。

 変な方向に投げて、誰かに怪我でもさせてしまったら大変だ。


「安心しな、刃は落としてあるから人に当たっても死にはしねぇよ。それに怪我してもちゃんと回復魔法で治すからな。第一、短剣が飛んでくるような所に立ってる奴も悪いんだ、文句は言えねぇさ」


 いくらなんでも暴論だ。それを聞いて、じゃあ安心だねとは普通ならない。

 しかし、それでオーケーだというのだから、この国の倫理観や道徳観っていうのはかなり緩い……いや、それを言うのは今更か。 つい先程まで、怪我人続出の大乱闘を見ていたのだから。


「んー、とりあえず一回やらせて」


 気がつくと、ルナがお金を払い短剣を受け取っていた。

 止めはしないが、せめて怪我人が出ないようにだけ気をつけてほしいと思いながら、その場から離れて様子を見る。


 ルナが人差し指と中指で短剣の刃を挟み、手首を降って投げる。縦回転をしながら真っ直ぐと飛んで行き、的のど真ん中に突き刺さる。


「おお、ど真ん中とはお嬢ちゃん幼いのに大したもんだね」


 ルナは店主に褒められ、嬉しそうに笑いながらもう一本短剣を手にして投げる。先程と同じ軌道で一本目の僅か一ミリ程隣に刺さる。

 続けて三本目も同じように投げるが、残念ながらそれは刺さっているナイフに弾かれてしまい、的ではなく地面に刺さる。しかし、軌道は完璧に的の真ん中だ。

 

「ありゃりゃ……」


 ルナは地面に刺さった短剣に視線を落とし、残念そうに眉尻を下げる。


「最後は惜しかったが、三本とも真ん中とはお嬢ちゃん、誰かに教わった事があるのかい?」


「ううん、短剣は初めて」


 いつも投げているのは長剣だもんね。


「短剣は……? まぁ、しかし初めてでこれとは、大したもんだ。最後の一本はオマケしといてやるよ、ほれ景品だ」


 店主はそう言うと、店の裏から鳥籠を持ってくる。しかし、鳥籠といっても籠の中あるのは鳥ではなく大きな卵が一つ。


「卵?」


「こいつは魔獣の卵だ。中身はなにかは生まれてからのお楽しみだがな。もしかしたらドラゴンかもしれねぇぜ」


 大方、冒険者が拾ってきたが何の卵かわからず、それを安価で買い取って景品にしたのだろう。

 中身がなにかは産まれてくるかは断定出来ないが、おそらく、鳥類かそこら辺りの魔獣といったところが妥当だろう。

 ドラゴンの可能性もない訳ではないが、ドラゴンは火山や氷山といった過酷な環境にしか生息しておらず、そう易々と手に入るような代物ではない。


「ドラゴン!? 本当!?」


 しかし、ルナはすっかりと信じてしまったらしく、嬉しそうに目を輝かせている。

 純粋な子供の笑顔のなんと眩しいことか。


「ルナ、そういうのはあまり期待しない方がいいですよ」


 そんな表情をしているルナに、現実を突きつけてガッカリさせるような真似ができる筈もなく、それとなく期待しないよう言うのが精一杯だ。


「ユウリ、ドラゴンって何食べるのかな?」


 うん、全く聞いてないな。


「……さぁ、何を食べるんでしょうね」


 今は夢を見させておけばいいかと思い、適当に答える。


「やっぱりお肉かなぁ、それなら私の分のご飯別けてあげれば大丈夫だよね……っていうか、寮ってドラゴン飼っても大丈夫なのかな?」


 大事そうに卵の入った鳥籠を抱え、いずれ孵るであろうドラゴンの事を思い、頬を緩めるルナ。


「いやぁ、どうなんでしょうね。ですがルナ、産まれてくるのがドラゴンにせよそうでないにせよ、きちんとお世話はしないとダメですよ?」


「うん、頑張る」


「途中で飽きたーなんて言っちゃダメですよ」


「それくらいわかってるよぅ。魔獣だけど、ちゃんと命があるんだから」


 バカにしないでよと言わんばかりに、不満そうに頬を膨らませてそう言うルナ。


「なら良いです」


 ルナの事だから、途中でもういいやーとか言い出しそうで少し心配だったのだが、ちゃんとわかっているようで安心する。

 その後、一通り出店を見て回り、気になるものを片っ端から食べ歩きしたり、遊んだりと気が済むまで散財してから寮へと帰った。


 これは余談になるが、ルナがルークにドラゴンの卵だと自慢していたが、ルークの方は全く信用しておらず、茹で玉子にでもした方がいいんじゃねぇかと言ってしまいルナにひどく怒られていた。

 普段と立場が逆転している光景はそこそこ面白かった。

地元の中学で職員をしている知り合いから聞いた話。


浸水の影響で一年近く断水になってしまい、おかげで洗濯機が使えなくて洗濯が出来ないからどうにかしてくれと要望を出した所、支援物資で洗濯機が届いたそうだ。


違う、そうじゃない。

洗濯機が壊れて使えないとかそういう事じゃない。

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