三十三話『最上級魔法ぶっぱなすぞオラ!』
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「さて、どうしましょうか? もう帰ります?」
試合を終えた後、俺はほかの皆にそう尋ねる。
学生の試合は終わったのだが、この後は今回の目玉である冒険者らの試合だ。知り合いが出るので応援したいし、それ以前にどんなものなのか興味があるので残って観ていきたいのだが、ルーク達は連戦で疲れているだろうし、付き合わせるのは悪い。
「うむ、皆が良ければだが、冒険者の試合を観ていかぬか? 毎年派手で面白いのだ」
「どうします?」
「観るー!」
「ルナならそう言うと思ったよ。先輩はどうするよ?」
「構わないさ。私も毎年観戦している」
そう思っていたのだが、皆冒険者の試合を観たいらしく満場一致で決定した。
「うむ、では皆を席まで案内しよう」
そう言うアルの案内で観客席に向かうのだが、アルもやはり王族だ。案内されたのは一般の観客席ではなく特別仕様の所謂VIP席というやつだ。
となればやはり、この人が居る。
「先ほど振りであるな、ユウリ・ライトロード」
「ええ、そうですね」
まさか、日に二度もこうして国王陛下に会う事になろうとは思いもよらなかった。
「そちらはヴァンデルシア兄妹じゃな、先の戦い見事であったぞ」
ルークとルナに気付いた国王が、二人に話しかける。
「国王陛下にお褒めに預かるとは、大変光栄です」
「いやぁー、えへへ、なんか褒められちゃった」
「おい馬鹿、本当に馬鹿。今回ばかりはそういう事はやめろ。マジで」
国王の前ですら普段と変わらぬ態度を取るルナに、ルークはかなり焦った様子でルナに詰め寄り、小声でそう注意する。
「フハハ、実に面白き兄妹じゃな。そちらに控えておるのは、サーシャ・ブラウニーといったな、初戦を見させてもらったが、そなたも見事な腕である」
「はっ、お褒めに預かり光栄にございます」
片膝をつき頭を伏せてそう言うサーシャ。流石は最上級生、その辺りの礼儀はしっかりとしている。
「アルよ……せめて出られるようには頑張ろうな」
なんとも言えぬ表情でアルにそう言う。孫に怪我がない事はなによりだが、全く活躍なしというのは祖父として少し寂しいといった所だろうか。
「うむ、安心してくれ祖父上、余は隠し玉なのでな、ティシュトルで活躍する予定なのだ」
胸をはり、鼻高々とそう言うアル。
国王陛下が一体なにを吹き込んだのかと目で訴えてくるが、俺は笑顔で誤魔化す。
「あっ、始まるみたいだよっ!」
観覧席の窓ガラスに張り付き、闘技場を見下ろしていたルナがそう声を上げる。
ぞろぞろと多くの冒険者達が出てくる。闘技場内を埋め尽くす程に多くの冒険者が集まっており、彼らにとってこの大会がどれほど大事なのかが窺える。
ただ一つ、気になる事があるのだが、どうして観客席の人達は防御魔法を展開しているのだろうか? 防御魔法がまだ使えない子供は、近くの大人の張った防御魔法の中に入れて貰ったりして、皆厳重に守りを固めている。
「どうして、皆さん防御魔法を?」
「ああ、流れ弾を警戒しているのですよ」
俺の疑問に、サーシャが答える。
「「「流れ弾?」」」
俺、ルーク、ルナの声が重なり、三人とも首を傾げた。
「ええ、冒険者は参加数が多いので、私たちのような勝ち抜き戦ではなく……」
サーシャの台詞を遮って、俺たちの居る観覧席の目の前で爆発が起こった。何事かと驚いて決闘場の方に目を向けると……。
「あのように、大乱闘を行うのですよ」
数百人規模のスマッシュブラザーズが始まっていた。比喩とかではない。
魔法が飛び交い、あちこちで剣が交差する。折角、決闘の舞台が用意されているにもかかわらず、そんなもの関係なしに、何人もの冒険者があちこちで一斉に戦い、何人もの冒険者が観客席の方に吹っ飛ばされ、あちこちで怒号が飛び交う。
「てめぇ! この間ジェシカと寝てたろ! 死ね!」
「なに言ってんだ、ジェシカは俺の女だぞ!」
「てめーらみてーなお粗末なもんで、ジェシカが喜ぶと思ってんのか」
「んだこら! 最上級魔法ぶっぱなすぞオラ!」
どうやら、異世界のスマブラ勢の民度は低いらしい。
怒号の大半は私怨というか、男女のもつれに関するようなものばかりで、正直ルナやルークにはあまり聞かせたくはない。というか、ジェシカ一体何股かけているんだよ。
「いいなぁ、楽しそう」
そんな光景を見て、目を輝かせてそう呟くルナ。その発言には流石に『こいつ正気か?』と思ってしまった。
観る分には派手で見応えがあるのだが、自分が参加するのは全力でお断りしたい。
「正気かよ、流石にあそこには飛び込みたくねーぞ」
その発言には流石のルークも少し引き気味にそう言う。
「今乱入してもバレないよね」
「いや、バレなくてもダメだろ……っておい待て、どこに行く?」
観覧席からこっそりと出ていこうとするルナの肩を掴み、ルークはそう尋ねる。
「ちょっとお花を摘みに」
片目を瞑り、下をチロっとだしてわざとらしく可愛い笑みを浮かべてそう言うルナ。
「絶対に嘘だろ、あそこに飛び込む気満々って顔してるぞ」
「ぶー、いいじゃんかー、ルークのケチ」
しかし、あっさりとルークに嘘だと見ぬかれ、頑として肩を離さないルークに珍しくルナの方が折れて、不満げに頬を膨らませながらも大人しく席に戻る。
「陛下、あれ、人死んだりしませんか?」
近くで観戦している国王に、俺はそう聞いた。
「死人はめったに出ぬ、瀕死は大勢だが」
「陛下としては、それでよろしいのですか?」
騎士達と同じく、国の防衛を行っている冒険者らがしばらくの間使い物にならなくなってしまうと、一時的ではあるが国力が低下してしまうし、ギルドに寄せられる一般市民からの依頼も溜まり、苦情が出てしまうのではないだろうかと少し心配に思う。
「個人的には是としておらぬが、やめよと言っても素直に聞き入れるような者らでもあるまい」
そう言う国王の顔はどこか愁ているように見えた。
「確かに戦いぶりを見ている限りでは、そうですね。むしろそれを理由に仕事を放棄されても困りますし」
彼らにとっても命がけの日々でたまったストレスを発散するには絶好の場なのだろう。ストレスを発散するのにも命をかける辺りが本末転倒としか言えないのだが……こうも凄まじい戦いぶりを見せられると、不思議と止めようという気は起らない。というか、止められる気がしない。
そんな事を考えながら冒険者たちの試合を観ていると、会場の端っこの方に飛斑の姿を見つけた。戦いには参加せずに、壁にもたれ掛かり呑気に煙草を吸っている。
煙草、吸うのだなと思いながら眺めていると、四人の冒険者が飛斑を取り囲む。
「最強の称号は頂くぜ!」
そう言いながら、四人が一斉に襲い掛かる。
「そん程度じゃ無理や」
旋棍を腰から抜き、右の冒険者から順に的確に急所を叩きあっという間に全員倒してしまう。
「肩慣らしも終わったことやし、ワシもそろそろ混ぜてもらおうか」
一呼吸の間に屈強な冒険者らを倒した飛斑は、旋棍を回しながらゆっくりと激戦区へ向かって歩き始める。
「魔掃屋が動き出したぞ!」
「こんな事してる場合じゃねぇぞ! 全員でかかれぇ!」
それを見ていた周囲の冒険者らが、会場内に響きわたる大きな声でそう叫ぶ。
それを皮切りに、あちこちで好き勝手に暴れていた冒険者の半分程度が戦う手を止め、一斉に飛斑に襲い掛かる。
「ちと、ビビり過ぎとちゃうか? そないに大勢でかかってこんでもええやろ」
会場の冒険者全員が敵に回り、流石の飛斑もそう声を上げる。しかし、その表情に焦りはなく逆に余裕さえ感じられる。
「まぁええわ、折角の祭りやさかい、ちょいとばかし景気よく行ったろーやないか」
旋棍を手首の返しだけで勢いよく回し、二、三度軽くジャンプしたと思った次の瞬間には飛斑の姿が消える。
それとほぼ同時に数人の冒険者が地面に倒れる、飛斑がやったのかと思いそちらに目を向けるが、そこに彼の姿はなく、また別の所で数人がまとめて倒される。身体強化を目に集中させ、ようやく飛斑の姿を捉える事ができ、その戦いぶりに、思わず身を乗り出して食い入るように見つめる。
魅入ると言った方がいいだろうか、飛斑の一挙手一投足に目が離せず、その清々しいまでの圧倒的な強さに見ていて心が躍る。
相手の攻撃を軽やかに躱し、トリッキーな動きで周囲を翻弄する。まるで一人だけ重力から解放されかのような身のこなしだ。
「やっぱり飛斑さん凄いなぁ」
「えっ! ユーリあの速い人と知り合いなの!?」
思わず呟いた一言が聞こえていたのか、ルナとルークがグイッと顔を近づけて聞いてくる。
「えっ、いや……はい……知り合い……です……けど……」
突然の事に驚いて、ゴニョゴニョとどもりながら答える。
「なんで教えてくれなかったんだよ」
「そうだそうだ」
すると、なぜか二人とも不機嫌そうに、口々に文句を言いはじめる。
「えっ、ご、ごめんなさい……後でちゃんと紹介してあげますから、そんなに怒らないでくださいよ」
どうして二人が怒っているのかと、困惑しながらも後で紹介するからと二人に謝ると、二人とも嬉しそうに顔を見合わせて笑う。
そうこうしている間にも、飛斑は次々と襲い掛かる冒険者を倒していき、残るは十数名程度だ。
その中には、以前ギルドで飛斑と合った時に見た大男、バル……なんとかさんの姿もあった。バルさんだっけ? 害虫駆除とか得意そうな名前だ。
「この間はよくもやってくれたなぁ!」
バルさんは、飛斑の姿を見るやいなや巨大なハンマーを飛斑に向けてそう怒鳴る。
「あ? 自分初対面とちゃう?」
「この剛腕のバルトサールを忘れたとは言わせねぇぞ!」
そう、バルトサールだ。すっかり名前を忘れていた。
「すまん、忘れたわ」
「そうかよ、なら思い出させてやるぜ!」
そう言いながら、威勢よくハンマーを振りかざしてバルトサールは一気に距離を詰める。
しかし、ハンマーが振り下ろされるよりも早く、飛斑の回転が加わった旋棍がバルトサールのあごを捉えた。
前にも同じような光景を見たなと思っていると、バルトサールの巨体が大きく揺らぎ白目を剥いて地面に倒れる。
「残りもまとめて相手したるさかい、早うかかって来ぃや」
気絶しているバルトサールを足でどかしながら、残っている冒険者らに向かってそう言う。
見るからに強そうな人たちばかりだというのに、表情はかわらず余裕そうな笑みをうかべたまま変わらない。
「残り全員で一斉にかかれ!」
残った冒険者らが、程度が扇状に飛斑を取り囲む。
あの派手な乱闘を戦い抜いただけの事はあって陣形を組むのが速い。冒険者らの中でもかなり腕が立つのだろう。
「皆、もう少し周りを見た方が良いんじゃないかな?」
そう声が聞こえると同時に、飛斑を取り囲んでいた冒険者の半数近くが観客席の方まで吹き飛ばされる。
飛斑がやったのではない、別の冒険者だ。
「僕の事も忘れないでくれるかい?」
燃え盛る炎のような赤い髪。髪の色と同じく勇猛さを感じさせる凛々しい瞳。鞘や柄に煌びやかな装飾が施されながらも底知れぬ威圧感があり、飾って愛でる為のものではなく敵を倒す為のものだと一目でわかる剣を腰に携えた青年。
「くっ、あいつから倒せ!」
「それは誰に言ってるの?」
残った冒険者が青年から先に倒すように指示を出すが、青年はゆっくりとほほ笑んでそう聞く。
「……なっ!」
そう言われた冒険者は、周囲を見て驚愕する。
「一旦対峙した相手から目ぇ離したらアカンで」
彼以外の残りの冒険者は、飛斑の手によって地面に倒されていたからだ。
「さて、どないする?」
旋棍を回して威嚇しながら、一人残った冒険者にそう聞く飛斑。
「……ちくしょー! 来年は覚えとけよー!」
前後を完全に挟まれすっかりと戦う気を失った冒険者は、手に持っていた武器を投げ捨て自ら小物染みた捨て台詞と共に観客席の方に走っていく。
「結局、今年も僕と君が残ったね」
「まぁ、妥当やろうな。しかし久しいな、会うのも去年振りかいな」
「そうだね、王都に来るのはこの祭りの時くらいだから」
飛斑と大分親しい仲のようだが、あの青年は何者なのだろう?
「彼は聖剣に選ばれた勇者です。聖剣に認められた者には、勇者の称号が与えられます」
俺が疑問に思っているのを察してくれたサーシャが、そう教えてくれる。
勇者に聖剣とは、これまた随分とファンタジーではよく聞く言葉がでてきたものだ。
「とまぁ、話はこれくらいにして始めようやないか」
「ああ、そうだね」
どうやら始めるらしい。勇者と聖剣の力がどれほどのものか、とくと拝見させてもらおうと思い二人の動きに着目する。
まず先に動いたのは飛斑の方だ。相変わらずの速さで簡単に勇者の背後を取る。普通ならそれで終わるだろうが、勇者は聖剣を背中にまわして飛斑の一撃をなんなく防御する。
「お、少しはついて来れとるようになったやないか。去年はこれで気持ちよう伸び取ったんにな」
少し嬉しそうにそう言う飛斑。
「……君が衰えただけじゃないかな?」
聖剣の柄を握りしめ、額から一筋の汗を流しながら勇者は飛斑にそう言った。
そんな、わざわざ挑発するようなこと言わなくても……。
「……ほんなら遠慮なく、行かせてもらおうやないか」
飛斑の表情が一瞬だけ鳩が豆鉄砲を喰らったようなものになるが、すぐにフッと口元を緩めてそう言う。
「流石に速い……けど」
勇者が聖剣を振ると、剣先から稲妻が発生し、轟音と共に飛斑に向かって幾重にも枝分かれしながら伸びていく。
あれが聖剣の能力なのだろう。それを利用した広範囲に及ぶ攻撃で、回避できないように包囲しようとしている。
「甘いわ」
飛斑はそう呟くと、左に大きく跳んで稲妻の及ぶ範囲から抜け出す。
「だろうね」
聖剣を飛斑の居る方へと薙く。それに伴い、剣先から伸びる稲妻も後を追いかけるかのように、轟音と共に飛斑に迫る。
普通なら避けようのないものだが、飛斑はそれを上に跳びあがり回避した。
その瞬間、勇者の口元が少し緩む。
なにか策でもあるのだろうかと考えていると、勇者が剣先から伸びる稲妻を消して、地面を蹴り飛斑との距離を縮める。聖剣を振り上げ、飛斑の着地を狙って斬りかかった。
なるほど、聖剣の能力を囮にして誘い込んだわけか。いくら速かろうが空中であれば逃げようがない……が、しかし距離を詰めるのはダメだろう。
「それはアカンよ」
飛斑は左に握った旋棍棒で剣を受け止め、勇者が剣を振る力を利用して宙で体を回転させて、勇者の頭頂部に蹴りを叩き込む。
勇者は気の抜けた声を上げ、よろよろと二、三歩よろめき、そのまま力なく膝から崩れ落ちる。
クリプトラクトってゲームを始めてみたけど、凄い面白い。
五千円投資するくらいにはハマった。




