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三十二話『あー、気合入ってんな』

ハイファンタジーで日刊ランキングに乗ることができました。

応援してくださった皆様ありがとうございます。

「さーて、やるぞー」


 嬉々として決闘場の上に上がったルナは、軽く腕を回しながら楽しそうに笑う。

 どうしてこう、この兄妹はそろって戦闘狂になってしまったのだろうか。


「あー、気合入ってんな」

「やり過ぎないと良いのですが」


 そんなルナの様子を見ながら、すでに対戦相手の心配をしているルークと俺。


「それでは、試合開始!」


 開始の合図と共に、岩盤を砕く勢いで強く踏み込み、目にも止まらぬ速さで距離を詰め相手の腹部に拳を叩き込む。

 勢いよく吹っ飛び、後方の壁に勢いよく叩きつけられる対戦相手。半身が壁にめり込み、微動だにしない様子はまるで古代エジプトの壁画を彷彿とさせる。


 やはり、ルナの特異体質はいつ見ても恐ろしい。通常の身体強化よりも大幅に強化される為、年齢や性別による体格差を補うどころか、逆に身体面でアドバンテージを得るなど、とんだチートだ。

 そのため単純な力押しに頼り気味で、ルークのような技術面はさっぱりだが、しかし彼女の集中力は凄まじく、一瞬で獲物を仕留めにかかる様はまさに野生の獣だ。


 観客や審判は余りの出来事に口を開けて呆けている。ルークの時よりも彼らが受けた衝撃は大きいのだろう。審判が我に返り、ルナの勝利を宣言するまで大分時間がかかった。


 五人目の選手が決闘場に上がってくるが、その表情に覇気はなく、絶望の色が浮かんでいた。そこまで嫌ならいっそ降参してしまえばいいのにと思うが、彼にも彼のプライドがあるのだろう。負ける事に変わりはないにせよ、勝負から逃げるのではなく堂々と戦って負けたいとか……まぁ、実際の所は知らんけど。

もしかしたら、余りの恐怖に降参という選択肢が抜け落ちているだけなのかもしれないが、まぁ、なんにせよ確かな事は一つ。


「試合開始」


 開幕と同時にルナの勝利が決まるという事だ。

 観客席下の壁に古代アートが二つ描かれ、二回戦は俺たちの勝ちで終了となった。


「んー、あんまり楽しくない」


 首をかしげながら、物足りなさそうな顔で戻ってくるルナ。

 やる気十分で飛び出していったはいいが、二度ともワンパンで終わらせてしまえば物足りないと感じるのは当然だろう。

 もう少し手加減すれば良いのだが、そう器用な事が出来るような子でもない。


「次も行きますか? たしか、決勝の相手は各地から一番強い学生を集めたところですよね、サーシャ先輩?」

「おそらくそうです」

「んー、ユーリが戦ってないから、その後でいいよー。あ、でも全部は取らないでね」


 別に気にせずに戦ってくれてもいいのだが、言い出しっぺである俺が何もせずにただ見ているだけというのも格好がつかない。


「わかりました、ではある程度戦ったら交代しましょうか」

「がんばれー」


 ルナの声援を背中で受けながら、決闘場の上にゆっくりと上がっていく。


「さっきの試合をみていたけど、あの女の子凄いね。もしかして君も強いのかな?」


 先に決闘場で待っていると、後から上がってきた対戦相手が話かけてくる。


「どうでしょう、客観的に見ればかなり強い部類だとは思うのですが、あまり戦いは得意だとはいえないので」

「なら、降参してくれないかな? 可愛い子に怪我をさせるのは気が引ける」

「すいません、それは無理です。全て仲間任せでは格好がつきませんし、目的の為にも引けませんから」

「そうか、なら悪いけどこちらも手を抜くつもりはない。君もあの子達と同じくらい強いっていうなら、なおさらね」


 相手はそう言い終わると、木剣を構えて腰を落とす。


「こちらも、精一杯やらせていただきます」


 俺も使わないだろうとは思うが、一応木剣を手に持ち構える。


「それでは、決勝戦、試合開始!」


 開始直後、相手は身体強化を使用して一気に距離を詰めてくる。流石は国王陛下の命で集められたというだけあってその速さも凄まじいものだ。しかし、あの魔族ほどではない。身体強化を目に集中させずとも十分に追いきれる。


「もらったよ」


 二度、瞬きをする程の間に距離を詰めた相手は、俺の胴体目掛けて木剣を下から振り上げる。

 首や頭といったむき出しの急所ではなく、防具で固めている胴体を狙ってくるのはせめてもの手心というやつだろうかなどと思いながら、俺は木剣が俺に届くよりも早く、中級魔法であるライトシールドをドーム状に展開し周囲を防御する。


「!?」


 剣を弾かれ、ほんの一瞬だけ表情に驚きの色を見せるが、すぐに表情を戻すと、剣を強く握りしめると、強く踏み込み、上半身のバネを使い鋭い突きを繰り出す。一点に力を集中させる事で防御を破ろうという考えだろう。普通の中級魔法であれば、それで突破することが出来るかもしれないが、生憎とこちらは普通の魔法ではない。

 突きを繰り出した剣の方が、力に耐え切れずに半ばから派手に音を立ててへし折れる。


「ばかなっ!?」


 あまりにも予想外の出来事に、驚きのあまり相手の体が硬直する。

 その隙を見逃さず、俺はライトシールドを解除すると同時に相手の胴体にライトボールを三発打ち込む。

 至近距離からの一撃だ。威力を最小限に留めているとはいえ、三発もくらえば流石に効く。


一瞬、時間が止まったかのように間があった後、相手の手の中から刀身の砕けた木剣がこぼれ落ちる。そして腹を抱えて数歩よろめき、そのまま白目を剥いて倒れる。

 すかさず審判がかけより、状態を確認するが気を失っている事に気づくとそこで試合終了の宣言をする。


 気絶した選手が運ばれて行き、続く二人目の相手が決闘場に上がって来る。

 二人目も同様に序盤をライトシールドで耐え、隙をついて魔法で一気に終わらせる。

 相手の戦闘スタイルが変わろうとも、攻め方を変えられようともやることは変わらない。亀のように守り、隙をついて攻撃を仕掛ける。

 防御魔法はともかく、俺が人相手に使える攻撃魔法は初級のライトボールのみ。それ以上は殺傷能力が高すぎて使えない。それを悟られる前に決着をつけなければならないが、そうするには攻撃手段が乏しいときた。故に守りに徹してカウンターを狙っていくしかないのだ。

 チートであるが故に常にハンデ戦を強いられねばならないとは、なんと難儀な事だろうか。


 観客をわかせるようなエンターテイメント的な派手さなんてものはなく、実に地味な試合だ。

 サーシャ、ルーク、ルナと立て続けに魅せる戦いを繰り広げた後に、こうも地味な戦いでは見ている方も冷めるというものだ。せっかく見に来ているのに、それでは面白くないだろう。


「もう一人くらいは倒そうと思っていましたが、まあいいですかね」


 一応言い出しっぺとして最低限の仕事は果たしただろうし、ここら辺で交代しても良いだろう。


「すみません棄権します。ルナ、後はお好きにどうぞ」


 俺は審判に棄権する旨を伝えると、決闘場から降りてルナと交代する。


「はいはーい、超絶かわいいユーリの後は、超かわいいルナちゃんの出番だよー!」


 再び、勢いよく決闘場へと向かって行くルナ。


「ん、さっきの子は棄権してくれたのか、どうやってあの守りを突破すればいいのかと考えていたのだが、これで優勝はいけそうかな」

「むぅ、それだと私は簡単に倒せるって聞こえるんだけど」

「あぁ、そうだね」


 相手は木剣を構えて、余裕たっぷりに言う。


「……絶対勝ってやるもん」


 少し馬鹿にされて頭にきたのか、ルナはムッとしてそう言う。

 試合開始と同時に、ルナは特異体質による身体強化を使い、一直線に距離を詰める。


「確かに、君の一発の威力は凄い。けど、さっきも見たが動きは直線的で単調、来ると分かっていれば避けられないことは……」


 相手は余裕そうな笑みを浮かべ、調子よく説明しながら大きく横に跳ぶが、それに合わせるようにルナも体の向きを九十度転換させ距離を一気に詰める。

 先程も言ったが、ルナは獣のように一瞬で相手を仕留めにかかるのだ。そんな逃げるような避け方では意味はない。


「え、曲がれるの?」


 おそらく、一直線にしか動けないと考えていたのだろう。

直角に曲がり懐まで潜り込んで来たルナを見て、相手の表情から余裕が消え真顔になりルナにそう聞く。


「うん」

「そっか、曲がれるのか」


そして、なにかを悟ったように小さくそう呟くと、ルナの拳により観客席の壁まで一直線に飛んでいき、本日三作品目の壁画アートが完成する。


 四人目も同じように、一撃で決着が付くと思われたがそう思うようにはいかなかった。

 開幕と同時にこれまでと同じようにルナが一直線に相手の懐まで突っ込んでいくが、相手はそれに合わせて魔法を連続して放ち応戦する。流石に魔法で弾幕を張られてはうかつに近寄れず、一度安全なところまで距離を取るルナ。

 なるほど、避けるのが難しいと判断したのか、攻め方を変えてそもそも距離を詰めさせない事にしたらしい。

 たしかに、ルナの攻撃力と速さはすさまじいが、射程距離は短い。故に懐にさえ入れなければ怖くない……というのは大きな誤りだ。

 その戦法は二回戦でルークが破っているし、ルナもルークと同じくらいには魔法が扱える。魔法の打ち合いになったとしてもなんの問題もない。それになにより、ルナの場合は魔法以外にも遠距離の攻撃手段がある。


 腰に下げている木剣を抜き、そのまま振りかぶって木剣を投げた。


「そーれっ」


 普通はそんな事をすれば、攻撃力が大きく減少してしまうので、何があろうと手放さないのだが、素手が一番強いと本人が言っているだけあって、平然と武器を投げる。ルナにとって武器は総じて投げるものなのだ。


 ルナの手から離れた木剣は回転しながら一直線に相手の元に飛んでいく。弾丸のような勢いで放たれたそれは、相手が気づいた次の瞬間には既に刀身が腹を打ち据えていた。

 足を折り、膝から崩れ落ちる対戦相手。審判が駆け寄り状態を確認するが、すでに白目を剥いて気を失っており、これ以上の戦闘続行は不可能だと判断される。

 これで残るは一人。ティシュトル行きの切符まであと一歩だ。


「まったく、どいつもこいつも子供相手に雁首そろえて情けねぇ。まともに避ける事も出来ねぇのかよ」


 最後に上がってきたのは、とても十七、八だとは思えない風貌の青年だった。細身ながらも鍛え上げられた傷だらけの身体に、相手を威圧する鋭い目。頭を剃り、額には大きな傷跡がある。

 騎士というよりは、悪の組織の幹部だとか、傭兵上がりのテロリストと言われた方がしっくりくるような風貌だ。


「わー、なんか強そう。その傷ってどうしたの?」

「おい、さっさと始めろ」


 ルナの事を無視して木剣を抜き、早く試合を開始しろと審判を睨みつける。


「あれ、無視されちゃった……まぁ、いいや」


 ルナは露骨に無視されて少し悲しそうな表情をするが、すぐにパッと明るい笑みを浮かべるとゆっくりと拳を構える。


「それでは、試合開始!」


 両者ともに戦闘準備が終えたのを確認した審判は、声高々にそう叫ぶ。

 開幕と同時にルナが一直線に突っ込んでいく。

 相手は防御する素振りも逃げる素振りも見せずギリギリまで引き付ける。ルナの拳を紙一重で躱し、ルナが拳を振り切ったタイミングでカウンターを合わせてくる。

 鈍い音を立てて、木剣はルナの頬を叩く。この一撃はルナにとって予想外だったのだろう、表情に驚愕の色を浮かべて後ろへと飛びのく。


「あいたた、初めてルークとユーリ以外にやられたよ」


 ルナは口の端から流れる血を拭い、楽しそうに笑みを浮かべる。見た目ほどのダメージはないようで俺はホッと胸を撫でおろす。

 再び距離を詰めて攻めにかかるルナだが、やはり相手も一筋縄ではいかず、ルナの攻撃を躱してカウンターを合わせてくる。

 ルナは避ける素振りすら見せることなく、真正面からそれを受けるが、何事もなかったかのように攻め続ける。


「しかし、ああも簡単にルナの拳を避けなんて……」


 ルナの戦いを見ながら俺はそう呟く。


「あれは予備動作を見て攻撃を予測して、回避行動を最小限に留めているだけです。コツさえ掴めれば誰でも出来る事ですし、彼女の動きは大きいので予測しやすい」


 それを聞いていたのか、サーシャが横に来てそう解説をしてくれる。


「では、ルナが劣勢という事ですか?」

「いえ、そうとも言い切れません。カウンターを仕掛けてきていますが、彼女の拳が早すぎてタイミングが合っていません。あれでは威力は半減、彼女からしてみれば棒で小突かれている程度にしか感じないでしょう」

「となると、先に折れた方の負けということですか」


 いくら一撃のダメージは少ないとはいえ、積み重なればそれも馬鹿にできなくなる。相手もルナの攻撃を紙一重で躱しているが、かなりの集中力を使っている筈だ。そう長くは持たないだろう。

 蓄積されたダメージによりルナが倒れるか、相手の集中力が切れてルナの拳を貰うのが先か。


「しかしそうなると、ルナの方がやや分が悪いですかね」

「逆だよ。あいつ合わせてくるから」


 あまり我慢強くないルナにとって、この戦いは不利だろうかと思っていると横からルークが口を出してくる。


「合わせる?」


 ルークの言った事がどういう事なのか分からず聞き返したが、ルークは黙って決闘場を指さす。

 見ていれば分かるという事なのだろう、俺もそれ以上は何も聞かずに決闘場に意識を集中させる。


 ルナが拳を突き出そうと腕を大きく振りかぶり、間合いを一歩詰めて拳を放つ。それに合わせて相手が回避行動をとりカウンターを合わせてくるが、その瞬間ルナの動きがピタリと止まる。


「とまった!?」


 それを見て俺は思わず大きな声を上げてしまう。

 ルークが言っていたのはこういう事だったのかと理解する。

自分の動きを相手の動きに合わせる。そんな器用な真似ができるような性格ではないと思っていたのだが……いや、やろうとしてやっているのではないのだろう、ルナ自身も無意識の内にやっているのだ。


 相手の木剣は空を斬り、それにより胴体ががら空きになる。そこに一度止まり力を貯めた一撃が突き刺さる。

 その破壊力は凄まじく、相手は血反吐をまき散らしながら吹っ飛んでいく。


「ちょっ、あれ、大丈夫ですか」


 流石にあれは冗談では済まないだろうと心配するが、すぐさま数人の大人が駆け寄り、その場で回復魔法を使い怪我を癒していくのを見てホッと胸を撫でおろす。

 ある程度回復したところで、数人の大人に抱えられて運ばれていき、審判から試合終了の宣言がされ俺達の優勝が決定した。


「ま、あれで勝てるなら、俺はとっくに勝っているっつーの」

「そういえば、ルークは未だにルナに勝てたためしはないのでしたね」

「うるせ」



まあ、今日で外れてしまうのだけれども。

更新が遅いせいでランキングは駆けあがれなかったよ。


風邪、レポート、中間試験のトリプルコンボで書く暇がなかった。

なので次回更新は6月初めになると思う。


ティッシュ二箱軽く使いきるくらい鼻水酷かった。ゴミ箱がティッシュだらけで、ゴミ箱を妊娠させるつもりですか?ってくらいティッシュで溢れてた……いや、使った用途が違うんだけどさ。

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