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三十一話「それに比べてこの二人は……」

「取引、ですか……わかりました」


 断る理由はない。一方的に脅してこちらの条件を飲ませる事もできるが、そんな事をすれば表だって何もしてこずとも、裏で命を狙われる。それは、流石にたまったものではない。


「お主の事が知れば妬む者、利用しようと考えるものは少なからず居るだろう、儂はお主の事は外部に漏らさないと約束しよう、そしてお主に害が及ばぬように守ろう」


 国王という後ろ盾に、秘密の保持。前者の方はライトロードという身分がすでにあり、そこに国王の後ろ盾が加われば、俺は巨大な盾を二つ持つことになる。そうなれば、これ以上ない鉄壁だろう。後者も非常に嬉しい申し出だ。これ以上、俺の持つ力について人に知られる心配がないのだ。これで気を使う必要はなくなり、肩の荷も一つ下りるというものだ。

 であれば、国王の出したカードは実に魅力的なものだ。


「では、僕に何をお望みでしょうか?」


 問題はここだ。国王の出す条件次第では、別の手を考えなくてはいけなくなってしまう。


「お主の持つ力の詳細を教え、監視役を一名遣わせる事を許容してもらう……以上だ」


 本音を言えばもう少し色々と条件を加えたかったのだろう、苦虫を噛み潰したような渋い表情でそう言う。


「監視だけですか?」

「監視だけだ、お主の行動を制限するつもりはない」


 監視だけというのなら、行動を制限されるようなことはない。常に見られているという点については多少の嫌悪感はあるものの、気にしなければ良い。

 もっとも、その監視者には俺の情報を明かす必要がある。つまり監視者は国王にとって内部の人間だという事だ。

 故に、国王も信頼を置いている人間を監視として寄こすだろうから、そこから情報が漏れる心配は限りなく低いだろう。懸念すべきはそこではなく、おそらく、その監視役は暗殺者である可能性が高いという事だ。

とはいえ、俺がこの国に仇をなさない限り暗殺される事はないだろうし、仮にそうだとしても、それはもしもの時の為の保険だろう。


 俺の事は最小限の人間にしか知られることはない。それでいて面倒な事に巻き込まれる心配もなく、行動を制限されるようなこともない、平穏な日常が約束される。

国王もユウリ・ライトロードという強大な力を目の届く所に置いておける。お互いに落としどころとしては上々だろう。


「わかりました。取引成立ということで」


 正直、もう少し妥協するつもりでいたのだが、国王もあまり多くは要求してこなかった。おそらく、最初の一手が効いたのだろう。よほど俺を手元に置いておきたいらしい。


「では、僕の力についての詳細をお話しましょう……僕の力の詳細についてですが、アルから僕の事について聞いたのでしたよね?」


 一瞬、嘘の情報も混ぜようかと思ったが、それはやめておいた方がいいか。

 折角後ろ盾が得られるのだ。真実を話した上で助力してもらう方が良い。


「うむ」

「基本的に、それとあまり根本的なところは変わらないのですが……上級魔法までなら予備動作も詠唱もなしでつかえます。最上級も詠唱破棄はできますが、少し時間がかかるので詠唱した方が早いですね。魔法の威力も、少しだけあげられるとアルには言いましたが、実際の所は、中級魔法を最上級魔法並みの威力にできます。最上級魔法を本気で使えば、それこそ辺り一面火の海にすることもできるかもしれません。魔力量も、無尽蔵と言っても過言ではないでしょう」

「待て、少し待つのだ」


 話している間、国王の表情は巡るましく変わっていき、ついに頭を抱えて待ったをかける。


「うむ、あれだ……にわかには信じがたいのだが……例の魔族を追い詰めたというのも、お主が力を隠そうとする理由も、なるほどそれなら得心がいく」


 国王はしばらくの間、額に手を当てて顔を伏せる。ひどく混乱していたようだが、やがて一度深呼吸をして落ち着き、歯切れ悪くそう言う。

 魔法についての知識を得た今だからこそわかるが、自分自身、魔法に関しての性能はとんでもないものだと思っているし、国王が受け止めきれないのも無理はない。


「ですが、弱点も多くあります。僕の体が自分の魔力に耐え切れず、本気で魔法を行使すれば十分と持ちませんし、体力や筋力も同年代の子と比べると大きく劣っています。魔法だけに特化しているものの、それすらも厳しい制限があるのです」


 あまり弱点を教えるのは嫌なのだが、ここで言っておかなければならない事なので内心渋々ではあるが教える。

 これで魔法に関してはすべて話した事になる。しかし、話したのはあくまでも魔法に関してのみで、創造能力の事については一切触れない。

 扱いは些か面倒なものだが、あれは利便性が高すぎる。俺自身、どこまでやれるのか能力を把握しきれていないのだ。そんなものを自慢げにひけらかすのは馬鹿のやることだ。

 ルークやルナ、それこそリュカにすらあくまでも手品だとしか教えていないのだから。


「なるほど、そうか……大きな力には、そうおうの代償があるということか。しかし、魔法を無効化する魔族にどうやって手傷を負わせた?」


 しかし、一つだけ腑に落ちないとでも言うように、眉を寄せてそう尋ねる国王。


「いえ、僕が戦った魔族は確かに魔法も剣も有効とは言えませんでしたが、最上級以上なら通用しました。あれはただ、魔法や物理的な攻撃に対して耐性があるというだけです」


 そういえば、魔法を無効化すると勘違いをしているのだったなと、俺は国王に魔族に関しての情報を提供する。


「もし、例の魔族を討伐するのであれば、最上級魔法で範囲攻撃をしかければ有効打を与えられると思います。再生能力を有しているので、休ませる暇を与えず継続的に魔法による法撃を行わなければなりませんので、頭数はかなり揃えなければなりませんが」


 ついでに、俺が考えていた攻略法も教える。問題は質と量のどちらも揃えなければならないという点だが、そこは戦の国と呼ばれるライラットだ。国中からかき集めれば十分な人数は揃うだろう。


「ふむ、なるほど、しかしそうなると、まずは彼奴をダンジョンから引きずり出す必要があるな」


 国王は俺の提案を聞き、良い手だと頷くがダンジョン内でそんなものを連発すればダンジョンそのものが崩壊してしまうという危険性と、狭い場所での総力戦は分が悪いと考えたのか、魔族をダンジョン内からおびき出す策を考える。

 前者の方は問題ない。俺がすでに最上級魔法を全力で使って崩落しなかったのだ。ダンジョン内部の耐久性はかなりのものだろう。しかし、後者の方は確かに策を講じなければならない。

 広い空間もあったとはいえ、殆どが狭い通路だった。そこで戦闘になれば数の有利も活かせない。


「細かな策についてはそちらの方でおまかせします」


 とはいえ、具体的な作戦なんかは人手が揃ってから決めるもので、今考えなければならないような事でもないし、俺があれこれと言う事でもない。


 さて、これで話は大体終わりだろう、そろそろ皆の所に戻りたいのだが……。


 そう思っていた時、観客席からわっと歓声が上がった。何事かと思い決闘場の方に目を向けると、サーシャが気絶している対戦相手を前に息を荒くして立っていた。どうやら、サーシャ一人で五人抜きをしたらしく、それに対する歓声だったのだろう。


「そろそろ僕も行かなければならないようです」


 丁度いいタイミングだと思い、俺は国王にそう言う。


「む、すまない大分引き留めてしまっていたな、すぐに人を呼ぶとしよう」


 国王はすぐにVIP席に人を呼び、俺を案内するように命じる。

 案内を命じられた兵は、護衛の場から離れるのを少し躊躇うように俺を俺を一瞥してから再び視線を国王に戻すが、命令ならば従わないわけにはいかず、大人しく頭を下げて俺を案内してくれる。

 歩くこと数分、ようやく試合が行われている決闘場についた。俺を案内してくれた兵は軽く頭を下げた後、再び国王の護衛へと戻っていく。


「遅れてしまい申し訳ありません」


 それを少し見送った後に会場内に足を踏み入れ、野球場のベンチのようなところで、次の試合が始まるまで暇そうにしている面々にそう謝罪する。


「おそいよー、もう一回戦終わっちゃったよ」

「ええ、観ていました。流石ですねサーシャ先輩、格好良かったですよ」


 とはいえ国王陛下との会話に気を取られていたので、試合を観ていたのは最初だけだが。


「ユウリ様のお役に立てたようで、嬉しく思います」


 右手を胸に当て、ゆっくりと頭を下げるサーシャ。

身長差があるので、サーシャが頭を下げると必然的に顔を見上げる形になるからわかるのだが、目を瞑り、表面上は優雅に振舞っているものの、頬はかなり緩んで紅潮しており、嬉しさを隠しきれていなかった。


「「ま、次は俺(私)の番だな(ね)」」


 ルークとルナの声が重なる。


「余も戦ってみたいのだが」


 横からボソッとアルの呟きが聞こえてくる。

 普段はあまり好戦的ではないアルだが、きっと一回戦の様子を観て、サーシャと同じように活躍して歓声を浴びたいと思ったのだろう。


「アルの出番はティシュトルに行ってからですかね。それまでは力を隠しておいた方が良いと思います」


同年代と比べれば確かに優秀ではあるものの、高等部が相手となると実力差は歴然。ルークやルナのような既に学生レベルを超えているくらいではないと、流石に勝負にならない。

 ボロ負けして落ち込むのが目に見えているので、遠回しに戦わせないようベンチに固定させる。


「むぅ、ユウリがそう言うなら、此度は譲るとしよう」


 少し心残りがあるのか、名残惜しそうに決闘場を眺めるものの大人しく引いてくれる。

 実に素直で聞き分けのいい子だ。それに比べて、この二人は……。


「俺が先だ」

「いーや! 私が先に行くのー!」


 ルナとルークどちらが行くかで揉めて、どちらも頑なに譲ろうとしない。いつもならルークが苦笑しながらはいはいとルナのわがままを聞くのだが、ルークにも絶対に譲れないところはあり、こうして意見が衝突すると非常に面倒くさい。

 まるでゲームや玩具の取り合いを見ているようだ。こういう光景をみると、やはり血を分けた兄妹なのだなと微笑ましい気持ちになるが、あまり呑気な事も言っていられない。

このまま取っ組み合いの兄弟喧嘩に発展してしまっては、周囲へ被害が出ることになるので、じゃんけんで決めたらどうかと二人に提案する。


 至近距離でお互いに顔を突き合わせて睨み合い、じゃんけんの掛け声と共に同時に拳を突き出す。


「よっしゃ! 俺の勝ち!」

「むー」


 じゃんけんで勝った手を上に掲げ、ガッツポーズで喜ぶルークと、頬を膨らませて拗ねるルナ。


「ルナ、仕方ないです。今回はルークに譲ってください」

「むぅ……わかった、今回はルークが一番で良いよ」


 唇を尖らせてそっぽを向き、渋々ながらも今回は譲る。


「ただいまより二回戦を始めるので、選手は決闘場の上へ」


 じゃんけんで勝ったルークが意気揚々と決闘場に上がっていく。

 それを見送りながら、ルナは両足を抱えて不満げに頬をふくらませる。しかし、公平な勝負の結果決まった事なので仕方がないだろう。ここは我慢してもらう。


「君、初等部だろ? 背丈から三年生あたりだろうけど、まだこの大会には早いんじゃないかな? 特に今年は腕に自信のある面子しか参加してないからね」


 決闘場に上がったルークに、対戦相手の男、やや細身で女性受けしそうな顔立ちの青年が余裕綽々な態度で話しかける。


「……ん? だから参加しているんですけど」


 ルークは相手を一瞥すると木剣を手に取り、軽くストレッチをしながらそう返答する。


「そうかい。まあ、強い相手と戦って勉強しようという姿勢は評価するけど、悪いね、弱い者いじめは好きじゃないんだ。すぐに終わらせてもらおう」


 青年はそう言うと、ルークの物よりも少し刀身の長い木剣を腰から抜いて正面に構える。


「勉強……?」


そして試合開始の合図と共にルークは身体強化を使い、一気に距離を詰める。一方で対戦相手は相手が子供だからと舐めきっており、身体強化を使用せずに悠長に構えていた。その為、ルークの素早さに反応することが出来なかった。

 そして、そのままルークの木剣がわき腹を叩く。鈍い音と共に対戦相手は膝を折り闘技場の上にうずくまる。


「子供だからって油断しすぎですよ」


防具の上からとはいえ、生身で受ければ肋骨の二本や三本は軽く折れる程に重たい一撃だ。


「本気で相手してくれないと、面白くないじゃないですか」


 ルークは木剣を振り上げると、まさに戦闘狂という言葉がお似合いのセリフと共に、がら空きの首筋に丁寧に振り下ろし、相手を気絶させる。


 一瞬の静寂。誰もが戦う前から勝敗は決まっていると思っていた。それをルークがあっさりと覆してしまった為、皆が状況を飲み込めず唖然としているのだ。

 そんな奇妙な沈黙の中、最初に動き出したのは今の光景を間近で見ていた審判だ。

 はっと我に返った審判は慌てて倒れた青年に駆け寄り、完全に気を失っている事を確認するとそこでルークの勝ちを宣言する。


 そこでようやく、観客も理解したのかどっと歓声が巻き起こる。

 ルークは自分に向けられる大きな歓声に驚き、どうすればいいのかわからず困惑した様子で苦笑を浮かべながら気恥しそうに頭をかく。


「次の選手は決闘場の上へ」


 審判に言われ、二人目が決闘場に上がってくる。今度の相手は、随分とガタイが良い。鍛えられた腕は俺の腰よりも太い。すごく羨ましい。


 開始の合図と共に、両者同時に身体強化を使い、決闘場の中央で剣を交える。木製の剣とは思えない程の音と迫力に、思わずおおっと歓声をあげる。

 身体強化があっても素の力が違い過ぎるため、つばぜり合いになると簡単に押し込まれてしまう。

 三合ほど打ち合った所で、正面切っての斬り合いでは勝てないと判断したルークは一度距離を取り、小声で何かを呟く。

相手が距離を詰めるのに合わせるように掌を向け、至近距離から魔法を浴びせる。初級魔法のファイアボールだ。身体強化をしているとはいえ、当たればかなりのダメージを受ける。

 回避か防御か、相手は一瞬迷うがすぐに回避行動を取り至近距離からのファイアボールを紙一重で避ける。


「炎よ盛れ、ファイアボール」


 しかし安心したのも束の間、一瞬足が止まった隙をついてルークはさらに詠唱を重ね、初級魔法を十発同時に展開する。

 避けきれないと判断した相手は、とっさに剣を盾代わりにして防御の体勢を取るが、その判断は誤りだろう。

 十の火球が一斉に襲い掛かる。一発だけでも結構なダメージを負う攻撃を十発も喰らってしまえばひとたまりもない。

 それでも、身体強化と剣でいくつか防いだおかげで、辛うじて耐えたようだ。

 しかし、木剣はすでに砕け、受けたダメージも相当なもの。そんな状態ですぐに動けるはずもなく、魔法で視界が塞がっている隙に背後に回り込んだルークの一撃を喰らい、そのままうつ伏せに倒れ込む。

 それを観た観客は先ほどよりも大きくざわつく。年端も行かぬ子供が初級魔法とはいえ複数同時展開をしたのだ。高等技術を平然と、しかも戦いながら行えるなど一体何者だと、口々に噂をしている。


 三人目の相手が上がってくる。魔法の方が得意なのか、はたまた近距離戦に自信がないのか、あまり距離を詰めずに少し離れて様子を伺い、ルークが距離を詰めようとすると魔法で牽制をかける。お互いに攻めあぐねた状況になる。

 ルークはどうするべきか少し迷ったように、木剣を握っている右手を彷徨わせるが、やがて軽く息を吐くと、ぶつぶつと魔法の詠唱を始める。


「天落とす道、爆布、大火の淵より刻む」


 この詠唱は上級魔法だ。相手もそれに気づいたらしく、慌てて防御魔法を展開しようと詠唱を始めるが、間に合うかどうかは微妙だ。


「我が仇に爪を立てよ……フレイムフォール」


 そう唱えると同時に、一つの巨大な火の玉が、空から隕石の如く落ちてくる。

 流石に上級魔法を直撃させるつもりはなかったのだろう、防御魔法を張る猶予を与える為に少し発動を遅らせ、着弾点も少し離れている。が、それでも衝撃の余波と熱量は凄まじいもので、たった一発の火球により、決闘場の半分は轟と燃え盛る炎と煙に飲まれる。

 見た目は派手だが、直撃さえ回避できれば後は単なる火に過ぎない。燃えるものがなけれすぐに消える。

 そう安心して相手が防御魔法を解いた瞬間を見逃さず、炎を掻き分け猛然と相手の懐に潜り込む。

 今度は相手に防御させる時間を与えず、強く踏み込んだ一撃がわき腹に入る。更に返す刀で腹部を叩き、体が折れたところに止めだと言わんばかりに木剣で首筋を叩く。


「勝者、ルーク・ヴァンデルシア! 次の選手は決闘場へ!」

「俺はここで降参します」


 相手の四人目が上がって来る前に、ルークは審判にそう言う。そして木剣を収めると決闘場から降りてベンチに戻ってくる。


「ルナ、交代」

「やったー!」


 不機嫌そうにしていたルナの表情が一気に明るくなり、元気よく飛び出していく。

 そんな様子を見ながら、やれやれと苦笑を浮かべたルークは四肢を投げ出してベンチに腰を降ろして天井を仰ぐ。


「余裕そうに見えたのですが、意外とお疲れですか?」


 ルークの側に近寄り、顔を覗き込んでそう尋ねる。


「上級魔法で魔力一気に使ったから、四人目も相手するのはきつい」


 そう言って、しんどそうに息を吐くルーク。

 ルークであれば、サーシャと同じように五人抜きできると思っていたのだが、すこし期待しすぎていたようだ。まだ九歳なのだし、高等部相手に一対一で勝てるだけで十分凄い。


「ところでユーリ、あちこち火傷しちまったから治して欲しいんだけど」

「そりゃ、炎の中に突っ込めばそうなりますよ」


 平気な顔して火の中に飛び込む度胸は子供だとは思えないなと考えながら、ルークに回復魔法をかける。



お待たせしました

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