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二十七話『なら仕方ない!』

一週間以上遅れてしまい申し訳ありません。

「まあ、ゆっくりと飲みながら話そうか」


 そう言いながら、あまり華美ではないながらも高級感のあるティーセットを持ってくるサーシャ。

 無理やりサーシャの部屋へと連れてこられる形で、初めて女子寮に足を踏み入れた。

 途中で寮長らしき人に見られるも、特に止められることもなく簡単に入れてしまったが、安全面とかそこら辺は大丈夫なのだろうか。


「さて、ひとつ聞きたいが、なぜ君がこのような大会に? 安全面は配慮されているとはいえ、下手をすれば重傷は免れない。正直、君は剣を持って戦えるような子には見えないし、やめておいた方がいいと思うのだが」


 椅子に腰を下ろしたサーシャは、一度ティーカップに口をつけて下を湿らし、そう切り出した。

 思っていたよりも真面目な話で、警戒する必要は全くなかったなと内心で少しほっとする。


「ティシュトルに行きたいのです」


 俺は自分の目的を隠すことなく正直に言う。


「なら、他にも方法はあるだろう」

「それは難しい……ああ、すいません。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。僕はユウリ・ライトロードといいます」


 立場上そう簡単に他の国に行く手段がないからと言おうとしたが、それ前に自分の身の上を明かしてなかった事に気づき、慌てて自己紹介をする。


「ユウリ……ライトロード? もしや、公爵家のライトロードか?」


 家名に聞き覚えがあったのか、少し驚いたように眉を上げそう聞くサーシャ。


「ええ」

「これは驚いたな……なるほど、確かに公爵の身では国を開けて旅に出るのは難しいか。いや、だが待てよ、ライトロードは確か一人息子だった筈だが……」

「はい、そうです」

「つまり、君は男……だと?」


 信じられないとでも言わんばかりに、サーシャは目を見開いて驚く。


「ええ」

「……嘘だろう……この世界に……ここまで可愛い少年が……存在すると……?」

「あ、あの、どうされました?」


 ティーカップを左手に持ったまま固まって動かなくなるサーシャ。動揺からか手がかすかに震えており、カップの中に入っている紅茶に波紋が広がっている。

 確かに俺が男だと知った人は誰しも驚いたりするけれど、そこまで衝撃を受けるほどではないだろうと思い、おそるおそる声をかける。


「ユウリ君!」


 途端に勢いよく立ち上がり、俺に詰め寄ると肩を力強く掴む。

 サーシャの持っていたティーカップが地面に転がり、高そうな絨毯を紅茶が濡らす事を気にも留めずサーシャは続ける。


「決闘大会に参加するに差し当たって、一つこちらからもお願いしてもいいだろうか?」

「はい、なんでしょうか!?」


 いきなりそう言われ驚いた事とサーシャの勢いに圧され、半ば反射的にそう答えてしまう。


「私を、君の騎士にしてほしい」


 サーシャは唐突にそう言った。真っすぐと俺を見る瞳からは、冗談や冷やかしのようなものは感じ取れず、むしろ真剣さのみが伝わってくる。どうやら、本気でそう言っているようだ。


「えっと、少し待ってください」


 いくらなんでも話が明後日の方向にぶっ飛び過ぎじゃないだろうか。俺が決闘大会に参加する理由について話していた筈だが、何をどうしたらそんな話に繋がるのだろうか?


「すいません。いきなりで意味が全く理解できないのですが、理由を聞いても良いですか?」


 展開が急すぎて、理解が追い付かない。一度深呼吸をして落ち着き、サーシャの言葉の真意を確かめる。


「可愛い主に仕えたいと思うのは当然ではないだろうか? それが男であるというのならば、もはやその方に忠誠を尽くすのは至極当然」


 さも、それが当たり前であるかのように堂々とそう言うサーシャ。言っている事は極端ではあるものの、言っている意味は分からない事はない。主人の容姿が良いならそれに越したことはないだろうとは思う。しかし、だからと言って別に容姿だけがすべてというわけでもないだろうが……ま、そこは人それぞれか。

 だがしかし、騎士を一人雇う事は俺の一存では決めてよい事ではない。

リュカに相談して許可を貰わなければならないが、それはちょっと面倒くさい。


「申し訳ありませんが、僕の一存では決められませんので、お断りさせて頂くしかありません」


 俺の自由にできる範囲では、残念ながらサーシャの出した条件は飲めないのでこの場は丁重に断らせてもらうしかない。


「わかっているとも。君が成人するまでは、ただ私を側にくれればそれでいい。それなら問題はないだろう?」


 俺は断ろうとするが、サーシャはそれに食い下がってくる。

 サーシャの言うように、ただ側に居るだけならリュカに許可を貰わずともなんの問題もない。


「それに、公爵であれば成人すれば騎士を一人仕わせる習わしだ。その際に私を選んでくれればそれでいい」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだ」


 そう言えば、貴族は成人すれば騎士を一人仕えせれることが出来ると、リュカが結構前にそんな事を言っていたような気もする。

まだまだ先の事だからと適当に聞き流していたので、すっかりと忘れてしまっていた。


「んー、そうですねぇ」


 そうなってくると、別に断る理由は特に見当たらない。

それでも断る事はできるが、しかしそれで他を探すのも面倒くさい。それに折角大当たりを引いたのに、みすみす逃してしまうのも惜しい。

 どうせ成人してから騎士を選ぶ事になるのであれば、それは見ず知らずの誰かよりは既知の人物であるほうが良い。

 最初はいきなりの事で少し焦ったが、考えてみればどうという事はない。長い目でみれば、案外とメリットも大きい。棚から牡丹餅とはこの事だ。


「わかりました、先輩の条件を飲みましょう」


 俺は紅茶を一口飲み、サーシャにそう言う。


「やった!」


 ガッツポーズをして嬉しそうにそう言うサーシャ。年頃の少女らしい可愛い笑顔に少しドキッとする。


「ではユウリ様」


 サーシャは俺の前に跪き、右手を胸に当ててかしずく。

 様って……別にそう堅くならずとも、普通に君とか呼び捨てでも良いのだが、まぁなんでも良いか。


「不肖サーシャ、これよりお側にお仕えさせていちゃじゃき……」


 格好をつけようとしたのはいいものの、まさかこの場面で噛んでしまうとは……。

 どう反応しようか困り、何も言わずにただ黙っていると、顔を真っ赤にして俯きプルプルと小刻みに震えるサーシャ。どうしよう凄く可愛い。


「ま、まあ、あれですね。まだ正式に騎士になったわけじゃないですし、そういうのは必要ないでしょう」

「……うん」


 サーシャは俯いたまま、小さな声でそう呟く。

 さっきまでのしっかりしたお姉さんという印象とのギャップもあるからだろうか、とても可愛い。


「御見苦しいところをお見せいたしました」


 サーシャはしばらくの間俯いたままでいたが、やがて立ち上がり咳払いを一つすると、特に何事もなかったかのように真面目な表情を作ってそう言う。

 しかし、やはり大事な場面で噛んでしまったことはまだ恥ずかしいらしく、耳が赤く染まっている。


「いえいえ、見苦しいだなんて……それよりも、決闘大会の方はお願いしますサーシャ先輩」


 こちらの用事も済んだしそろそろ自分の部屋に戻ろうと思い、ティーカップ残った紅茶を飲み干してから、最後に念のため、サーシャに決闘大会に参加してくれるように言って椅子から立ち上がる。


「かしこまりました……ところで、どちらへ行かれるのでしょうか?」

「寮に戻って早めに休もうかと」

「それではぜひ、男子寮の前まで送らせてください」


 俺が帰ろうとすると、それを引き留めて嬉々としてそう言うサーシャ。


「えっと、じゃあ、お願いします」


 別に一人でも構わないと言おうとしたが、嬉しそうにしているサーシャを見てそれは無粋だと思い素直にお言葉に甘えさせてもらう。

 先ほどまでと比べると態度がガラッと変わった事で、どうにも違和感を覚えてしまうがそれはすぐに慣れるかなどと思いながら、サーシャに付き添ってもらって男子寮まで戻る。


「お、ユーリ」

「やっほー」


 その途中にある中庭で、偶然ルークとルナの二人に出会った。二人とも服は泥だらけに汚れており、いくつか小さい擦り傷までして、一見喧嘩でもしたのかと思うような格好だが、二人で手合わせでもしていたのだろう。

ルナとルークの手合わせは今に始まったことではない。一度帰省してからというもの、毎日のようにルークがルナに挑んではことごとく返り討ちにされてきた。もはや日課のようなものだ。


「二人とも丁度いい所で会いました……って、ルークそれ大丈夫ですか?」


 なので、二人の格好を見てもまったく驚く事なく、決闘大会に参加するメンバーの一人としてサーシャを二人に紹介するには丁度いいと思い、二人に紹介しようとした時、ルークの額には大きなたんこぶが一つできているのに気づいた。他の放っておけば治りそうなものと違い、派手に赤く腫れ上がっており見るからに痛そうだ。


「いや、ちょっと避け損ねただけだが、すげー痛ぇ」

「止めようとしたけど、勢い余っちゃって」


 額に手を当てて、気まずそうに苦笑を浮かべながらそう答えるルークと、申し訳なさそうにそう言うルナ。


「まあ、大事にならなくてよかったですが、もう少し気を付けてやってください」


 彼の腫れた額に手を当てて、回復魔法を使い怪我を治してやる。ついでに他の傷も治しておく。


「はい、これでもう大丈夫でしょう」

「おう、いつも悪いな」


「いいですよ、これくらい。そんな事よりも、二人に紹介したい人がいるのですが、彼女はサーシャ先輩といって、今度の決闘大会に一緒に参加してくれる方です」


 今度はルナの怪我を治しながら、二人にサーシャの事を紹介する。


「初めまして、ヴァンデルシアの兄妹、私はユウリ様にお仕えする騎士、サーシャ・ブラウニー」


 紹介されたサーシャは軽く頭を下げ、二人に自己紹介をする。

 ルナとルークの事は既知らしく、わざわざ紹介する必要はなさそうだ。


「様ぁ!? ねえユーリ、様ってなに? どういう事?」


 ルナはサーシャの俺への様付けに驚くと、俺に詰め寄り質問攻めにしてくる。


「落ち着いてくださいルナ、先ほどサーシャ先輩自身が言ったように、彼女は僕の騎士です。と言っても今は正式な騎士ではありませんので、騎士のようなものとでも言っておきましょうか」

「どうしてそういう事になってるのー?」


 そう聞いてくるルナはちょっと不満げに膨れていた。


「それは……僕にもわかりません。先輩自身に聞いてください」


 俺にそう言われ、ルナはジッとサーシャに視線を送る。


「それは当然、ユウリ様が可愛いから!」

「なら仕方ない!」


 それに気づいたサーシャは即答し、それを聞いたルナは何故か納得した。

 全く説明になっていなかった様な気がするが、今のどこに納得するような要素があったのかてんで理解できない。


「ルーク、今の説明で理解できましたか?」

「いや全然わかんねぇ」


 ひょっとして俺の理解力が低いだけなのかと思い、ルークにも聞いてみるが彼も困惑したように首を傾げる。どうやら、俺の理解力が足りていない訳ではなさそうだ。


「それなら仕方ないけど、ユーリは私のユーリだからね!」


 なにがどう仕方ないのかわからないし、ルナのものになった覚えもない。


「なるほど、君とユーリ様はそういう関係か」

「いいえ、違います。単なる幼馴染です」


 少し面白そうに口許を緩めるサーシャに、誤解がないように訂正を入れる。


「————今はね!」

「今はって……まぁ、確かに将来の事はわかりませんけどね」


 そうなるとしても、十年くらいは先の話じゃないかな。

十年も経ったらロリじゃなくなるけど、それでいいのか?



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まぁ、タッチしても何も起きないけど。



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