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二十六話『悪いプルプル強かったねー』

「いやー、久しぶりに戻ってきましたね」


 目の前にそびえ立つ学園を前にして、俺はそう言う。

 一ヶ月程、実家でのんびりと過ごした後、学園の長期休暇が明けるのでそれに合わせて戻ってきたのだ。


「何つーか、一ヶ月しか経ってねーのに、スゲー久しぶりって感じだな」

「魔王ワルプルギスとの壮大な戦いを終えた後ですからね、そう感じるのも仕方ないでしょう」


 ルークをからかおうと思い、適当な作り話をする。


「あー、悪いプルプル強かったねー」


 今適当に作った嘘に乗っかり、腕を組んでしきりに頷きながらそう言うルナ。


「いや、そんなのと戦ってねーだろっ! 一ヶ月ずっと魔法と剣の稽古してたじゃねーか!」


 すかさずルークのツッコミが入る。

 カットした期間の説明もしてくれるとは、中々に気が利いている。


「ルークは記憶を消されてしまったので、覚えてないのも無理ありません」

「え、ほ、本当か?」


 嘘だろとでも言わんばかりに、目を見開き声を震わせて驚くルーク。


「いや、嘘です。さて、寮に戻って荷物整理でもしますか」

「そうだねー」

「嘘かよ!」


 ルークをからかうのもこれくらいにしておき、使用人に荷物を預けて共に寮の自室に向かう。


 寮に戻り荷物を整理する。明日から新年度が始まる事もあり、すでに寮は賑わっていた。始業式と違って入学式はまだ少し先なのだが、既に新入生らしき子らもちらほらと見受けられる。

 新入生は緊張しているのか、あちこち視線をさ迷わせているので直ぐにそうだとわかる。

 声をかけるべきかどうか迷ったが、いきなり上級生に声をかけられても、驚くだろうと思いやめておいた。


「それよりも、早いところ高等部から誰か引っ張ってこないと……ん?」


 新入生からそっと離れて、特に宛もないまま寮をうろうろとさ迷っているとふと窓の外から庭で珍しい武器を構えている青年がが見えた。


「トンファー?」


 棒の端近くから垂直に短い持ち手が付いた鉄の棍棒。それを左右の手で握っている。

 地球では、創作物でよく見かけていたが、こちらの世界にも同じ武器が存在しているとは思わなかった。


 物珍しさに興味が湧き、もっとよく見ようと窓を開けて身をのりだす。それでも距離があり、一挙一動まではよく見えないので、身体強化を目に集中させる。


 初めてトンファーを使っている人を見るので、内心少しわくわくしながら、青年が動くのを待っていたその時、青年の姿が消え、彼の周囲に立てられた丸太が同時に砕ける。


「速い……」


 一部しか見えなかったが、彼は凄まじい速さで的に見立てた丸太の背後に回り込みトンファーで叩き割った。


「本気のルナ以上……いや、あの魔族以上だ」


 身体強化を目に集中させていたにも関わらず、動きを追いきれなかった。

 背丈からするに、高等部の生徒か教師だろう。

 こうしてはいられないと、俺は窓に手をかけてそのまま中庭に飛び降る。身体強化を使用して着地の衝撃に耐え、青年の元に駆け寄り声をかける。


「あ、あのっ!」

「ん、なんや?」


 声をかけられて振り向く青年。

 この世界では珍し黒髪をオールバックにし、相手を刺すような鋭さを持った黒い瞳、全体的に厳つい顔つきをしている。

 この辺りの国ではない、どこか遠方の国の出身だろう。言葉も少し訛っており、厳つい顔つきと相まって怖いという印象を受ける。


「……あ、えっと……すみません、高等部の騎士科の方ですか?」


 一瞬、怯んでたじろぐが、直ぐに気を取り直してそう尋ねる。


「いいや、ワシは個人的に物教わりに来とる冒険者や」


 青年はそう言って首を横に振る。


「そうですか、冒険者の方でしたか」


 生徒であれば、是が非でも決闘大会に参加してもらおうと思っていた所だが、冒険者とあっては無理か。折角強い人を見つけたというのに、宛がはずれてしまった。


「で、なんや用事かいな」


 両手に持っていたトンファーを腰に納めながら、そう聞いてくる冒険者の青年。


「ああ、そうでした……えっと、今の見ていましたが、とても速いんですね。何か仕掛けとかあるんですか?」


 本当ならば決闘大会へのお誘いをしたかったのだが、言うだけ無駄なので、代わりに別の事……先程この青年が見せた驚異的な速さについて尋ねる。


「ああ、あれはワシの特技みたいなもんでな。簡単に言えば身体強化で脚力だけを強化しとるんや。他にも秘密はあるんやけど、そっちは教えられん」


 そう説明しながら、草むらに腰を下ろす青年。それにつられるように、俺も彼の隣に座る。


「ですが、それだと速さは得られますが、防御や攻撃が疎かになりません?」


 俺も一度、目のみに身体強化を集中させて戦った事があるからわかるが、一ヶ所に身体強化の魔力を集中させると、その部位の能力は大幅に上げられるが、他は生身のままになってしまうというデメリットもある。

 魔法でそれらを補えるならまだしも、さっきのを見ていた限り、彼は近接武器による戦闘を得意としているように見えた。その場合、デメリットは致命的ではないのだろうか。


「中々鋭いな。確かにその通りや……けど敵の攻撃なんか当たらんかったらええねん」

「まぁ、確かにそうですね」


 防御=回避という考えか。確かに、あれほどの速さがあれば、大抵の攻撃は避けれるか。

 赤い人も言ってたもんな、当たらなければどうということはないって。


「攻撃力の方はコイツの出番や」


 青年はそう言って、腰のトンファーを指差す。


「珍しい形の武器ですよね」

「せやろ、こいつはワシが考えた武器でな、旋棍ゆーんや。手首を返して、こんな感じに使うんや」


 武器の事を聞かれたことが嬉しいのか、青年は得意気になり右手に旋棍を持つと、手首を使って勢いよく回転させる。


 さっきは動きが速すぎて手元までは全然見えなかったが……なるほど、そうやって使うのか。

 形や名前くらいは知っていたが、実際どういう風に使うのかは知らなかったので勉強になる。

 といっても、使うわけではないけれど。そも使いこなせる自信がない。


「つまり、遠心力を加えることで、疎かになる攻撃力を補っているんですね」

「正解や。まぁ、それだけでもないんやけどな……しかし嬢ちゃん、幼いのになかなか鋭いの。名前は何て言うんや?」


 片眉をあげ、少し興味深そうに尋ねる青年。

 

「ユウリ・ライトロードです。あと男です」

「おまえ男か!? こら驚いたわ、いや、すまんな。ワシは飛斑ひむら 火津耶かづやや。和国出身でな、飛斑が苗字で火津耶が名前なんや」


 飛斑 火津耶、日本人みたいな名前だ。


「コレでも冒険者ん中じゃ結構名が知れとってな。もし冒険者やりたなったら世話するで」

「じゃあ、その時はお願いします」

「おう、任しとき。ほな、ワシはもう行くとするわ」  


 青年はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり去っていく。


「はい。それじゃあ」


 俺も立ち上がり、去っていく飛斑の姿を見送る。


 なんか面白い人に出会えたな。顔は怖かったけど、話してみると案外気さくで良い人だった。


「しかし、和国ですか」


 名前からして、日本みたいな所だろうか。もしかしたら、米とか味噌とかがあるかもしれないな。現物でなくても、似たものがあれば手に入れたい。


「しまった、どうせならさっき聞いておけば……って、今はそんな事言ってる場合じゃなかった」


 和国へと興味が向いていて、他のメンバーを集めなければならないのをすっかりと忘れていた。

 ティシュトルで行われる決闘大会は半年後だが、選考戦自体は二ヶ月後に行われるので、あまり悠長にしてはいられない。


「しかし、高等部の生徒といってもピンからキリですよね」


 飛斑を見送った後、そのまま寮の中庭を特に宛もなくさ迷う。

 ある程度戦力になる人が良いとの要望だったが……正直、一目見ただけでは、その人が強いのかどうかなんてわからない。


「すいませーん、高等部の方ですよね」


 適当に聞けば良いかと、近くに居た高等部そうな生徒に声をかける。


「これはこれは、随分と可愛らしい少女だな。あと八年もすれば美しい女性になりそうだ。一体私に何の用だろう、ああいや、こんなところで立ち話もなんだ、どれ私の部屋でゆっくりと語らおうではないか」


 油でも塗っているのかと思うくらいによく喋る女生徒。

 金色の長い髪をなびかせ、同じく太陽のように輝く金色の瞳。女性ながら凛々しさを感じさせる。

 

「いえ、少し聞きたいことがあるだけなので、高等部で強い人を探してるのですが、誰か心当たりは居ませんか?」

「おや、君はこの学園内で強者を探しているのか、なら運がいい。君の目の前に居るのは何を隠そう、学園の歴代最強に並ぶと言われるサーシャ・ブラウニーに他ならないのだから」


 驚いた。いきなり大当たりを引き当てるとは思わなかった。


「そうでしたか」


「いやはや、しかし何とも奇妙な話だ」

「……?」

「君は学園で一番強い者を探して真っ先にこの私に声をかけた。私たちの間には運命を感じずにはいられないと思わないかね?」

「いえ、特には思いませんが」


 確かに凄い偶然だとは思うけども。


「それは残念だ……で、何故君はこの私を探していたのかな?」


 単純に強い人を探していたのであって、特定の個人を探していた訳ではないのだが……まぁ、些細な事はどうでもいいか。


「実は、お願いがありまして」

「ほう、握手でもしようか? 見目麗しい少女のお願いだ、なんでも聞こう」


 ん、今なんでもって言った?

 よし、言質はとったぞ。


「では、これに一緒に参加してもらえませんか?」


 俺はそう言いながら、リュカから貰った三ヵ国同名決闘大会の用紙を見せる。


「良いだろう参加しよう」


 サーシャはそれを一瞥しただけで、ちゃんと内容に目に通すような事もせずにそう答える。


「……えっ」


 そんなサーシャの即答に、俺は思わず驚いてしまった。


「どうかしたか?」

「いえ、随分とあっさり快諾してくれるんですねと思って」


 初等部である学生にこんな事を言われれば、普通は断りそうなものだが……。

 実際、断られるだろうと思い、多少のリスクは覚悟の上で決闘でもして、己の実力を証明して説得するくらいの事はしようと思っていたのだが……なんだか、少し肩透かしを喰らったような気分だ。


「むしろ、礼儀正しく見た目も可愛い子のお願いを断る奴が居るのか?」

 

 いや、居るでしょ。寧ろそんな理由だけで、なんでもかんでも引き受ける人の方が珍しいと思う。

 だが何にせよ、参加してくれると言うのであれば、ありがたい事だ。


「どれ、詳しい話は私の部屋でゆっくりとしようではないか、こう見えて私の家は騎士候でね、下級とはいえ一応貴族の身分なんだ。だから、部屋も相応に豪華でね、二人の仲を深める場所としては最適だ」


 サーシャはそう言いながら俺の背中に手を回し、結構な力で押してくる。

 なぜだろうか、かなり身の危険を感じる。というか、快諾したのは俺を部屋に連れ込む為じゃなかろうか。


「いや、なんか困るんですけど……」


 足を地面に突っ張って押し返そうと抵抗してみるが、それ以上の力で押されてしまい、無駄に終わる。


「大丈夫、何も取って食べようという話ではない、少しお茶でも飲みながら親睦を深めようというだけさ」

「ちょ! ちょっ待っ!」


 そう言いって、ついには俺を抱えあげると、そのまま女子寮の部屋へと俺を連れていった。


新キャラ二人くらい出てきたけど、どっちも必要なキャラなんだ。

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