二十五話『しかし、回り込まれてしまった』
「演習のときとは違って、作りの良い馬車は楽でいいですねぇ」
学園から家へ帰省する為の馬車に揺られながらそう呟く。
多少の振動はあるものの、座席に備え付けられているクッションがそれを和らいでくれるため殆どストレスを感じない。
それでも、やはり長時間乗りっぱなしだと腰が痛くなってくるのだが、途中休憩を挟みながらなのでそこまで苦ではない。
「そうだな、移動中暇なのは相変わらずだけど」
「そだねー、むしろ私はそっちの方が辛いよ」
窓から見える景色をぼーっと眺めながら、退屈そうにそう言う二人。
「じゃあ、ババ抜きでもしますか?」
創造能力でトランプを創り出し、シャッフルしながらそう言う。クオリティは相変わらずだが、暇を潰す分には問題ないだろう。
「お、トランプか」
「やるやるー!」
切り終えたカードをそれぞれ配りババ抜きを始める。
しかし、なんとなく予想していたが、ルナはポーカーフェイスが下手だった。すぐに顔に出てしまので、ババがどれかすぐにわかる。その為ルナの戦績に負けが重なっていく。
「いやった! やっと勝てたー!」
何回勝負したか分からないが、ようやくルナにも勝ち星がつく。
負けばかりではつまらないだろうと思い、ルークと協力してようやく勝たせてあげられた。ポーカーフェイスが下手なだけならまだしも、これが危ない気がすると言いつつ、そのババを引くのは流石にどうしようもない。
危険に飛び込もうとする性格さえ治れば、普通にババ抜き強いと思う。
そうして家に帰るまでの道中、ババ抜きだけでなくポーカーや大富豪、その他色々なゲームで時間を潰した。
そうして馬車に揺られること数日、俺達はようやく実家のある街に着いた。
先に、街の関所を抜けて数十分程度所にあるライトロード邸で、先に俺と使用人だけを下ろしてもらう。
「じゃ、後ですぐ行くから」
「ママさんによろしくねー」
馬車から顔を出して手を振り返りながらそう言う二人。
「もう少し、親御さんに構ってあげてくださいよ」
顔だけ見せて直ぐにやって来そうな勢いの二人を見送った後、荷物を持って使用人と共に屋敷へと帰る。
「「「おかえりなさいませお坊っちゃま」」」
屋敷に入ると、十人強の使用人が凱旋でもあるかのようにずらりと並んで出迎えてくれる。
「……お出迎えありがとうございます」
思っていたよりも壮大な出迎えに内心かなり驚く。だが、いつまでも呆然と驚いている訳にもいかないので、ひとつ咳払いをしてそう言う。
「奥様が自室でお待ちです」
使用人の一人が俺の着ている上着に手をかけ、ゆっくりと脱がせながらそう言う。
「わかりました、荷物をお願いしてもいいですか?」
「かしこまりました」
「それと、皆さん通常業務に戻ってもらって大丈夫ですので」
別の使用人に荷物を預け、皆を通常業務に戻らせる。
暖色系の塗装で統一された長い廊下を歩く。途中途中に木製の重厚感のある扉が点在しているが、それらは素通りして、他の扉とは違う白い気品のある扉の前で立ち止まり、軽くノックする。
中から返事が聞こえてきたのを確認した後、ドアをゆっくりと開けて中に入る。
「ただいま帰りました母様」
「お帰りユウリちゃん! 少し大きくなったわね」
部屋に入るや否や、いきなり飛び付いてくるリュカ。
きつく抱き締められた後、高々と抱き上げられる。流石にそこまでされるのは少し気恥ずかしいので、自力で振りほどき地面に着地する。
「あら残念……ところで、ルナちゃんとルーク君は元気かしら?」
少し名残惜しそうに自分の両手を見ていたリュカだったが、直ぐにその両手を俺の頭へと持ってくる。
「はい、二人とも元気ですよ。後でこちらにも顔を見せに来ると思います」
頭を撫でられるくらいなら良いかと思い、撫でやすいように少し頭を傾ける。
「そう、それならお菓子でも用意しておきましょうか」
「ええ、それがいいと思います……それよりも母様、帰ってきて早々ですが、お願いがあります」
久しぶりの再会を喜ぶのもこれくらいにして、俺は単刀直入にそう言う。
「あら、お願いなんて初めてじゃないかしら?」
と、嬉しそうにそう尋ねるリュカ。
「魔道具について学ぶために、ティシュトルに行きたいのです」
そう言って、俺はリュカに頭を下げた。
頼み事をする時は相手を喜ばせるようにするのがコツだ。そのために色々と殺し文句があるが、今回に限っては必要ない。子供に初めてお願いされて、喜ばない親はいないだろう。
「おっと、これはまた難しいお願いね」
だがリュカが嬉しそうに笑っていたのも束の間、困ったように渋い表情でそう呟く。
「やはり母様でも難しいでしょうか?」
そんなリュカの様子を見て、流石に無理なのかと不安を覚える。
リュカに頼んでも無理となると、自力でどうにかしなければならないが……その為にはどうしても時間がかかりすぎる。最低でも学園を卒業するまでは無理だ。
「そうね、難しいわね……早くても二年以上はかかるわ」
「二年ですか」
それならば中等部に上がる頃には行けるが……それでもまだ長い。
出来れば年内にはティシュトルへ行きたい。いつまた全力で戦わなければならない相手に出会すかわからないし、備えは早い内にしておきたいのだ。
「けど、ユウリちゃん自身が頑張るなら半年くらいで行けるわよ」
「本当ですか!?」
「ええ、ちょっと待ってね」
リュカはそう言って棚を漁って、一枚の紙を持ち出してきた。
「これよ」
「……三ヵ国同盟主催決闘大会?」
リュカから渡された紙を受け取り、書かれている内容にざっと目を通すが、今一つなんの事かよくわからない。
決闘大会という名前から察するに、誰が最強か戦って決める的な催しだろう。バトル漫画でよくある展開だ。もしくは、熱い決闘者たちによる魂の戦い。
だがなんにせよ、それと俺がティシュトルへ行く事になんの関係があるというのだろうか。
「三ヵ国同盟というのは?」
そもそも三ヵ国同盟がなんなのかわからない俺は、リュカにそう尋ねる。
「ティシュトル王国、レーベン帝国、ローディウス共和国の三ヵ国が結んでいる同盟よ。そしてそれは、三ヵ国同盟が主催する各国との交流を深める為に執り行われる親善試合よ……というのは表向きで、実際は自国の兵士がどれだけ強いかを誇示するための場ね」
なるほど、話が見えてきた。
「つまり、その開催場所がティシュトルという事ですね」
「そういう事よ」
それに参加すればティシュトルに行けるというわけだ。
決闘大会は言うなればオリンピックみたいなものか。
「騎士団枠、冒険者枠、学生枠とあってローディウス共和国と友好関係にあるライラットもそれぞれ一枠だけ出場権があるの」
「一つだけですか」
少ないな。主役はあくまでも三ヵ国同名というわけか。
軍事力を誇示するのが目的と言うし、戦の国と呼ばれるライラットに参加枠を与えたくはないのか。
逆に言えば、ライラットの軍事力はすでにそれだけだけ警戒されているということだが。
「ライラットは参加するメリットはあまりないからね。友好国の手前参加しないわけにはいかないから、新人を参加させて形だけという感じね。まあ、冒険者は毎年お祭り騒ぎになっているみたいだけど」
騎士は毎日魔獣の戦闘や街の警備に追われているし、いつ強大な魔獣がくるかわからない。そういう時の為に騎士団長クラスの強い騎士は国内に置いておきたいのだろう。
冒険者はあれだ。お祭りにかこつけて騒ぎたいだけだろう。なんかイメージ的にそんな感じがする。
それなら、いっそ参加枠をなしにすればウィンウィンじゃないかとさえ思うのだが……諸国への手前やらなんやらあるんだろう。知らんけど。
「わかりました、ではこれに参加してティシュトルに行こうと思います」
俺はリュカにそう言う。
「参加するためには五人必要よ、試合は一対一の決闘形式で予選は勝ち抜き戦、本戦は勝者数戦だからね」
「予選と本戦があるのですか」
勝ち抜き戦や勝利数で決着をつけるところは、なんだか剣道の試合に似ている。
「ええ、ライラットは一枠だけだけど、他の国は複数枠あるから参加数は結構多いのよ、予選で勝ち上がった八つの団体が本戦を戦うわ。本戦は予選の一週間後で毎日一戦だけ行われるから、魔道具について学びたいのなら決勝まで行かないと時間がないわね」
なんであろうと、学生が相手であるならルナとルークが居れば三勝は固い。あとは適当に数合わせで二人ほど探して来れば問題ないだろう。
だが、そうなると仮に決勝まで行ったとしても、滞在する時間は二週間くらいしかない事になる。本戦に残るよりも二週間で魔道具について十分な知識を得られるかどうか、そっちの方が問題だ。
いっそ魔道具に関する本を大量に買い込んで独学で学ぶか……?
「失礼します」
二週間でどうやって必要なだけの知識を得ればいいのか考えている時、使用人が部屋をノックする。
「ルナ様とルーク様がお見えになられました」
そう言って使用人がドアを開けると、ルナが勢いよく入ってくる。その後ろを少し遅れて苦笑を浮かべたルークが入ってくる。
「やっほー! ママさん久しぶり! ユウリを私にちょーだい!」
「久しぶりねルナちゃん、あいかわらず元気ね。それとユウリちゃんを欲しければ私を倒しなさいと言っているでしょう?」
開口一番、いきなり飛びつくルナと、それを軽く受け止めるリュカ。相変わらず二人とも仲がいい。
「こんにちは」
「ルーク君も変わらず元気そうね。二人とも大きくなったわね」
久しぶりに会うからか、少しはにかみながらそう言うルーク。
「二人とも丁度良いところに来ました。これに一緒に出てくれませんか?」
俺はルナとルークに持っていた紙を見せながらそう聞く。
「なにこれ、三ヵ国……長い名前」
「決闘大会か」
興味深そうに、俺の見せた紙を見ながらそう言う二人。
「ええ、一緒に出ませ……」
「なんか面白そう! 私も参加する!」
「俺も参加するぜ、強い相手ともやれそうだしな」
一緒に出ませんかと、最後まで言い終える前に即答する二人。
断ることはないと思ってはいたが、ここまで即答されると、もう少し慎重に考えた方がいいんじゃないかと思えてくる。
「参加するには五人必要なので、後二人ですね」
別に数合わせでもいいし、適当な人にでも声をかければ直ぐに見つかるだろう。
「やっぱりそこそこ戦える奴がいいよね、どうせなら勝ちたいしー」
「そうだな、けど折角だし俺はアルも誘いてぇな」
「残りは誰でもいいので、二人がそうしたいというのであればそうしましょうか」
とはいえ、アルは王子だし誘っても来られるかどうかは微妙だが。
「そのアルという子はお友達?」
首を傾げてそう聞いてくるリュカ。
「はい、第三王子のアルバンスです」
「……そう、それは手間が省けてなによりだわ」
少し驚いたように目を開くが、直ぐに表情を戻してそう言う。
手間が省けて……というと、リュカは俺をアルに近づけようとしていたのだろうか?
王族との関わりを持つことは大事かもしれないけれど、第三王子のアルではなく第二王子に当たるアルの兄や、次期国王であり第一王子であるアルの父親に会わせるべきではないだろうか。
ライトロード家は王家の右腕と呼ばれるのだから、それくらいの事は簡単にできるだろうに。
「……何はともあれ、これでティシュトルへ行く事が出来そうですね」
わざわざ回りくどい事をと首を傾げそうになったが、まぁ良いかと思い適当に流す。
メンバーを集めたり、選考戦で勝ち残ったりとまだやらねばならない事があるが、どうにかティシュトルへの切符が見えてきたことにほっと胸を撫で下ろす。
二週間でどうやって学ぶかは、選考戦が終わった後に考えるとしよう。
「さて……もう用事は終わりましたし、のんびりしますかね」
ぐっと背伸びをしながらそう呟く。長旅で疲れも溜まっているし、部屋でゆっくりと休みたいところだ。
「なら、一戦やろうぜ」
剣を構える素振りをして誘ってくるルーク。
今、ゆっくりしたいって言ったばかりなのに。
ルークの相手をするのは結構疲れるから、今は勘弁してほしいんだけどな。
「私もやるーっ、総当たりでやろうよ」
もっと勘弁してほしい子まで混ざってきちゃったよ。流石に疲れている状態で二人の相手をするのはキツい。
「……よし、逃げよう」
ユウリは逃げ出した。
「「逃さない」」
しかし、回り込まれてしまった。
「くっ……ならこっちから」
「捕まえたーっ!」
「あうっ」
もう一度逃げようとしたが、直ぐに二人に捕まってしまいそのままいつも使っていた修練所へと連行される。
両腕をガッチリと固定されているので、逃げようにも逃げられない。
……ダーメだこりゃ。大人しく諦めよう。
俺は完全に諦め、心の中でドナドナを歌いながら、二人に引きずられていく。
「二人とも、今日は軽めにしておきなさいね。それから、少し急用ができたから二週間程家を開けるけれど、修練所は自由に使っていいからね」
リュカはそんな光景を見ながら、どこかに出掛ける準備を始める。
「はーい!」
「ありがとうございます」
元気よく返事するルナと、丁寧に頭を下げて礼を言うルーク。
「どちらへ行かれるんですか?」
「王都を通って、三日くらいのところにあるライディーン領へね」
目的地は王都の方向なのか。少しばかり帰ってくるタイミングが悪かったか。
待てよ、ライディーンというとルーキの森の近くじゃないか。
「母様、ルーキの森は……」
「わかってるわ、魔族の出るルーキの森は迂回する予定よ。魔法が効きにくい相手は相性が悪いもの」
魔族が居る可能性があるので注意して欲しいと言おうとしたが、既にリュカは知っていたらしい。上の方では情報が降りてくるんだろう。出来れば詳しく話を聞きたいところだったが、それは帰って来た後でも良いか。
今はルナとルークとの戦いをどう乗り切るかが問題だ。
ある晴れたー昼下りー、市場へ続く道ー、荷馬車ーがゴトゴート、子牛を乗せーていくー。




