二十四話『言ってしまっても構いませんよ?』
高等部の卒業式の日、俺は寮の庭で寝転んでひなたぼっこしながら一枚の紙に目を通していた。
特に仲のいい先輩が居るわけでもないので参加する義理はない。多くの学生が参加するので一人や二人参加していなくとも分からないし、別に参加しなくても良いだろう。
「……んー」
それを最後まで読み終えた俺は、静かに唸る。
これは新聞、というよりは形的には瓦版と言った方が近いか。国が発行している広報の定期刊行物だ。
ルーキの森での事を調べようと思い、わざわざ街へ出向いて購入してきたのだ。
これに記されている内容はルーキの森にダンジョンが出現した事、ダンジョン内の魔獣は非常に凶暴化している事、調査の結果ルーキの森への立ち入りを禁ずる事のみで、肝心の調査内容はさっぱりだった。
「ま、普通に考えれば詳しい内容は伏せますか」
それでも無駄足ではなく、公開されている情報だけで何があったかは十分に推測できる。
魔獣の凶暴化という点だが、中級魔法で倒せる程度であったし、ルークやルナも十分に戦えていた。熟練の兵士が数名居れば、さほど問題にはならない筈だ。立ち入りに制限を設けるならまだしも、禁止にする程の事態ではない。
であれば、調査中にそうしなければならない程の事が起こったという事。
間違いなく、あの魔族だ。
立ち入りになっている事から推測するに、調査中に交戦したものの、倒すまでにはいたらなかったのだろう。
そして、騎士団や冒険者の方もかなりの被害を負ったと見て間違いない。
「と、なると……少し、困った事になりますか」
騎士団や冒険者達に痛手を与えるほどの敵。それを相手して俺達は逃げ延びた。
その報告を聞いた王は、少なからず俺達の事を怪しむ。場合によっては、人を使って探ってくる事もある。
「とはいえ、二人が隠れ蓑になっていますから、暫くは大丈夫だとは思いますが……」
それでも、いずれは俺にも目が向く。詠唱破棄なんかは直ぐにでも知られるだろう。
他にも幾つかボロを出しているし、本気で調べられたら隠し通すのは難しい。
「なら、いっそ隠さずに手の内を明かしてしまいますか」
莫大な魔力量と最上級魔法を使える事さえ知られなければ、それ以外は別に知られてしまっても構わない。
そう言った知られてしまってもいい情報は探せば見つかるところにでも隠しておき、本当に知られたくない情報を隠すための隠れ蓑にする。
「いや、それなら嘘の情報を掴ませた方が良いですかね」
情報規制を行うか、情報操作を行うか。なんなら二重に仕掛けておきたいところだが、その為には誰か他に協力してくれる者が必要になる。
現状、俺の秘密を知っているのはロビンやメイコウ、それからアルの三人だ。その中から一番情報が漏れやすいのは、やはりアルだろう。
内緒にしておくとは言ってくれたものの、立場上真っ先に聞かれるだろう。アルはよくも悪くも自分に正直で真っ直ぐであり、嘘をつけるタイプではない。
嘘ついても顔に出る。口を割らなくとも、表情でバレそうだ。
アルから流れる情報を管理できれば、俺の魔力の事がバレる可能性はかなり低くなる
ただ、アルは詳しい話はルークから聞いたと言っていた。ルークがどこまで喋っているかが問題だ。
「一度、本人に聞いてみますかね」
そろそろ卒業式も終わる頃合いだろうと思い、アルを探しに向かう。
学園には巨大なホールがある。今回のような卒業式や入学式、その他なにか催しがある場合は大抵ここで行われる。
会場内に入ると、既に卒業式は終了しており卒業生と在校生らが涙ぐみながら最後の思い出作りをしているところだった。
初等部の学生は卒業生とはほとんど交流がないため、多くの生徒はその様子を遠巻きに眺めているだけであったので探しやすくはあったが、それでも生徒数が多いので中々見つけることができない。
「アル、少しいいですか?」
多くの学生で混雑する中、どうにかアルを見つけた俺は後ろから呼び止める。
「む、何用だ?」
立ち止まり、振り返ってそう聞き返してくるアル。
「ルーキの森の事なのですが、誰かになにか聞かれましたか?」
人ごみをかき分けながらアルの側まで行き、声を潜めてそう尋ねる。
「うむ、ルークとルナについてどう思っているか聞かれたぞ」
「それだけですか?」
「それだけだな」
ルナとルークの事しか聞かれなかったということは、やはり俺の事にまでは目が向いていない。
「もう一つ聞きたいのですが、帰りの馬車でルークから僕の事について、何と言われましたか?」
「詠唱せずに魔法が使える事、本気を出せば魔法の威力を上げられる事、それから魔力量が多いことだな」
アルは指を折りながら視線をさ迷わせて、記憶を頭の引き出しから引っ張り出して来る。
「具体的にはなんと?」
「いや、詳しくは聞いていないな」
思っていたよりもルークが喋ってしまっていた。これでは情報規制を行うのは難しい。
できれば二重で仕掛けて置きたかったものの、致し方あるまい。具体的な事は知らないのであれば、情報操作はできる。それだけでも十分だろう。
「アル、もし僕の事について聞かれた場合は……」
「案ずるな、ちゃんと秘密にしておくとも」
アルはわかっていると言わんばかりに、誇らしげに胸を張ってそう言う。
「いえ、話してしまっても構いません」
「む、良いのか?」
きょとんとして、そう聞き返すアル。
「ええ。アルにも僕の事について詳しく教えておきます」
ただし、教えるのは嘘の情報だけど。
「僕は中級魔法までは詠唱せずに使うことができます」
「む、中級までというのは知らなかったな、しかしそれでも十分凄いが」
少し驚いたようにそう言うアル。
「流石に上級魔法を詠唱破棄は難しいですからね。それから、魔力量も上級魔法が数発使えるくらいあります、魔法の威力は魔力量に任せた力業でして、そう何度も使えるようなものでもありません」
俺の莫大な魔力量の事についても、具体的にどれくらいかは知らない。というか、本人の俺ですらそれは知らないけど。
魔法の威力もダンジョン内で一度見せただけで、それも大分抑えていた。あれが最大威力で回数制限があるという事にしておけば、そこまで危険な代物でもないだろう。
「そうであったのか、うむ、余の思っていた通りであったな」
「ええ……もし、僕の事について聞かれた場合は魔法が凄いとでも言ってください」
これで、アルから漏れるのは嘘の情報のみだ。
それでも十分に卓越しているのだが、それくらいでなければ向こうも納得しないだろう。
「うむ、わかった。もし聞かれた場合は、そう言っておこう」
これでアルの方は問題ない。メイコウとロビンの方も大丈夫だろう。
二人にも具体的な事は教えてないし、二人が見た事もアルに教えた内容の範囲内だ。
「では、お願いします」
俺はアルにそう言い、人混みをかき分けて会場の外に出る。どうにも、人が密集した所というのは苦手だ。熱気で酔いそうになる。
「さて、これで大丈夫ですね」
アルと別れた俺は、会場から出てそう呟く。
これで残る問題は魔道具の件だけだが、それとは別にあの魔族の件も少し気になる。
立ち入り禁止の状況が続いているという事は、アレはまだルーキの森に居る可能性が高い。
あのダンジョン、趣味と実益を兼ねたものだと言っていた。趣味はともかく、実益の方は少し引っかかる。
はじめはダンジョン目当てで来た人間を餌とするための罠だろうと思っていたが、実際に戦った感じ、それだけだとも思えない。
一見戦闘狂のようだが戦い方は戦術的であり、こちらの手の内もしっかりと探ってくる。たんなる戦闘馬鹿ではなく頭の方もなかなか回るタイプだった。だからこそ、あれだけ善戦できたのだが。
立ち入り禁止の状況が続けば、餌となる人間も来ない。騎士団に痛手を与えれば、そうなる事くらいアレなら分かる筈だ。
まさかリアルでダンジョン作ってみたなんてタイトルで動画を上げて、広告収入を得ているわけでもあるまいし、そうなれば実益の方は芳しくない。にもかかわらず、あの森にじっと留まるようなタマではない。早々に見切りをつけて別の場所にでも行きそうなものだが、なぜそうしないのか。
いずれ、大規模な討伐隊が組まれるだろう。もしかするとそれが目当てなのかもしれない。
「けど、いくらチートな能力を持っているからといって、流石にそれを相手して無事でいられるとも思えない。それくらいの事は、アレもわかっているでしょうに」
いくら外皮が硬く再生能力があるといえども、スタミナが無限にあるわけじゃない。素早いとはいえど、身体強化をつかえば十分に追える。攻撃力が抜きんでて高いというわけでもない。持久戦になればじわじわと追いつめられる。そうなるまでに多大な犠牲を払う事にもなるだろうが、その為の頭数だ。
状況的には大分不利である筈なのだが、それでもルーキの森に留まる理由はなんだろう?
そうなっても勝てるだけの自信があるのか、はたまた、別の目的があるのか。
「その辺はお国に任せるとしましょう」
ルーキの森に行くわけでもないし、勘ぐるだけ無駄な事だ。
強者と戦いたい、討伐隊を餌にしたいというのであれば、大した問題ではない。討伐されて終わりだ。
仮に別の目的があったところで、それは国が解決するだろうし、なんにせよ俺が出しゃばるような幕はない。
「それに、今はなにより魔道具を創ることが優先ですし、雑事にかまけている時間はないですからね」
魔族の事を考えるのはやめにした俺は、今度はリュカにどういう風にお願いしようかと頭を悩ませながら寮へと戻る。
毎日投稿は難しい。




