二十三話『考えてみましたが、やっぱり無理ですね』
テーブルの中央に置かれたポットから、気持ちが落ち着く優雅な香りが漂う。
俺はその隣にあるベッドで横になり、腕を組んで頭を悩ませる。
そんな俺を眺めながら、のんびりと紅茶を飲むルナとルーク。
無事に学園まで戻ってこられた俺達は、ルナの発案により、無事に帰ってきましたことをお祝いするという名目で、ささやかなパーティーを行っていた。
パーティーというよりは、お茶会と言った方が近いか。
「やはり、先輩方には申し訳ないことをしてしまいましたね」
ベッドに寝転がり、天井を眺めながらそう呟く。
胸を締め付けるような罪悪感は既に鳴りを潜めたが、本当にこれでよかったのか、他に何か手段はなかったのかという後悔が押し寄せる。
「しょうがねーよ、自分の身を守るだけで手一杯だったんだし……それに、遺体は見つかったわけじゃねーんだからさ、ユーリがそう落ち込む必要はねーって」
「そうだよ、もしかしたら生きてて、今頃騎士団に助けられてるかもしれないじゃん」
落ち込んでいると思ってか、そう励ましてくれる二人。
「……そうですね」
この二人にも真相は打ち明けられない。いずれ時が立てば、実はあの時と話せる時が来るかもしれない。
それに今は他にやらねばならない事も多いし、立ち止まっている時間はない。
いずれ話せる時が来るまで、胸の奥にでも閉まっておく事にしよう。
そう決めた俺はこれ以上深く考えるのは止めにして、ベッドから起き上がり紅茶の入ったカップを手に取ると、少し冷めて温くなった紅茶を一気に煽る。
「しっかし、あの魔族怖かったねー」
会話も一区切りしたところで、ルナが新しい話題を振る。
割りと軽い調子で言っているが、実際の所かなり危なかったのだが……それはちゃんと、分かっているのだろうか。
「だなぁ。剣も通らねーし、ルナの本気の拳も効いてなかったからな」
「そもそも、本気のユーリが敵わない時点で私らには勝てっこないね」
「待ってください、別に負けた訳じゃないです。身体が持たなかっただけです。実力は僕の方が上でした」
ルナが少しばかり聞き捨てならない事をいうものなので、少し訂正させてもらう。
「ムッとして見栄はってるユーリ可愛い」
うるさいぞ。見栄なんてはってないし事実だし。
「持たなかったって、スタミナ切れとか、魔力切れってことか?」
得心のいかないような表情でそう言うルーク。
魔力切れはまずあり得ないし、体力の方は不安があるとはいえ、短時間で動けなくなるほどではないと思い納得がいかないようであった。
「いえ、魔力を一度に使いすぎてしまって、その負荷に身体が耐えきれなかったんです」
「……ってことはよ、ユーリが本気で魔法使えば毎回ぶっ倒れるってことか?」
普段からあまり大きく表情を崩すことのないルークが、珍しいことに頭を掻きながら眉間にシワを寄せて、難しい表情をしている。
「そうですね」
「もう本気で魔法使っちゃダメだよ、本当に心配したんだから」
俺がそう頷くと、ルナが心配そうにそう言う。
「わかってます。ですが保証はできません……とはいえ、僕も二度も同じ轍を踏む気はありませんから安心してください」
「つったって、どうするんだ?」
「そうですね、パッと思い付いたのは、単純に戦い方を工夫することですかね」
単純に必要な時だけ全力を使い、それ以外は抑える。謂わば戦い方に緩急をつければ、戦闘時間は延びるだろう。
だが、それには勝負の勘のような、ここぞという確実に仕留められるタイミングを掴める嗅覚が必要だ。
残念ながら、俺はそういった戦いの才能は持ち合わせてはいない。
天性の才能で持ち合わせているならともかく、ない者がそれを得ようと思うのであれば、莫大な量の実戦経験を積まねばならない。
だが、本気で戦える相手なんて、あの魔族くらいしか居ない。
もっと多くの人とギリギリの勝負を勝ち抜かなければ、嗅覚なんて身に付きはしないだろう。
別に無くても出来なくはないが、完璧には程遠いし、結局無駄ばかり増えるので、力をセーブする意味がない。
もっと別の方法で、弱点を補ったほうがいい。例えば、創造能力を活用……は難しいな。
創造能力自体は非常に強力なものだが、同時に扱いが難しく知識も必要だ。
戦闘中にほいほいと使えるようなものではない。
あ、これ、手を加える余地ないな。
「……考えてみましたが、やっぱり戦い方を工夫するのは無理ですね」
これと言って妙案が思い浮かばなかったので、やはり戦い方を工夫するのは後回しだ。
「おい!」
すかさずルークからツッコミが飛んでくる。
「まぁまぁ落ち着いて、そもそも、身体に負荷がかかる原因は一度に大量の魔力を使うからです」
ルークをなだめながら、情報整理も踏まえて、そも何故倒れるのか原因を一から説明する。
「二人も知ってると思いますが、魔法を使うには二種類の方法がありますね」
魔法を行使するには、体内の魔力を引き出して使うか、魔力の籠った物質から引き出して使う。
「なので、早い話が自分のが使えないなら他の所から持ってくればいいんですよ」
仮に後者の手段を取れば、体内から引っ張り出してくる訳ではないため体に負担がかかることはない。
「けど、ユーリってスッゲー量つかうんだよな?」
ルークが厳しい表情でそう尋ねてくる。
「そうですね、僕の戦い方は基本的には戦術と小技の応酬ですが、全力を出した場合は魔力効率ガン無視の力技になります」
「ねぇねぇルーク、効率無視して魔法使えるって、実はおかしい事じゃない?」
「それ今更だし、お前が言う事じゃねぇし」
真顔で聞いてくるルナに、ルークは呆れ気味に答える。
ルナの特異体質も、大気中に存在している魔力を体内に取り込んで発動させている為、制限なしで永遠と使い続けられる。
いわば、俺と同様に効率無視して使い放題というわけだ。
「まぁ、確かにユーリの魔力量はどうなってんのかなとは思うけどさ……だからこそ、ユーリが使うのに十分な量の魔力が籠ったもんとかあるのか?」
「そうですね、前提としてルークの言うように、僕の大食らいに耐えられるだけの魔力秘めている物でないとなりません、それに加えて使い捨てでも困りますので、繰り返し利用出来るものが必要です」
「えー、そんな夢みたいなものないでしょ」
「というか……実在したら、とんでもない兵器だよな」
最上級……否、魔力量だけでいえば終焉級をも連発できるだけの魔力量が秘められており、更に使った分だけ自動で回復する。しかも、なんの制限も危険も存在しない。
例えるなら、自動核ミサイル生成機だ。暴発機能付きの。
そう考えるとこの世に存在していいものじゃないのだが。
「いいえ、存在してますよ」
残念ながら既に存在している。
「えっ! どこに?」
ルナが目を見開いて驚愕する。
「ここにです。元々、僕の魔力は自分でも使いきれないほど多いのです。それに、いくら使おうと休めば回復します」
「あ、確かに」
俺が自分を指差してそう言うと、ルナは成る程と手を打った。
そう、俺は自身が既に歩く核兵器のようなものだ。
厳しい制限がついているものの、そんな力を個人で所有しているとバレれば世界中から命を狙われかねない。
もし力が露呈してそうなってしまった時、制限がありそう簡単に力を行使できない俺は易々とやられてしまう。
故に、これまでずっと力を隠してきているのだ。
とはいえ、今回のようなケースもある。いざというときの為の手段は整えておかなければならない。
「ですので、普段は使わない魔力を別の所に貯めておいて、必要な時にそこから魔力を引き出す……そうすれば、体に負担はかかりません」
これなら、もしバレてしまっても道具のお陰だと言って、破壊してしまえばいい。
「そうは言っても、どうするんだ? そんな事出来るもんがあるなら、皆使ってると思うんだが」
それはそうだ。戦闘時のみ、自身の魔力が二倍三倍になるようなものだ。持久力は大幅に上がるし、使い捨てというわけでもないので費用もあまりかからない。冒険者や騎士にとっては夢のような代物だろう。
しかし、夢は夢であって現実ではない。夢のような代物も現実には存在しないのだ。
「自分で創るしかないでしょう。幸い、それと似ているものには心当たりがありますし」
ないのであれば創ればいい。こと創るという事に関しては俺の持っている能力ほど、おあつらえ向きなものはない。
そして一つ、そういう事が出来るものに心当たりがあった。
「心当たりって?」
「魔道具です」
ルナの質問にそう答える。
この国では中々見かけないが、魔道具というものが存在する。
魔道具にはいくつか種類がある、魔力を秘めた魔石と呼ばれる鉱石を利用して魔法を使うタイプと、魔力を込めれば何かしらの効果が発動するタイプ、それから何もせずとも常に何かしらの効果を発動しているタイプの三種類だ。
一番最初のタイプは自身は魔力を消費せずに、魔石に秘められた魔力を引き出して魔法を行使する、補助具のようなもの。
その魔石を魔力を貯められタンクみたいなものにでも置き換えられれば、夢のような代物の完成だ。
とはいえ能力で創ると言っても、創造する物を正確に細分まで頭の中でイメージを固めなければならない。
単純に魔力を貯めておける魔道具といっても、イメージが漠然としていては創造できない。
「先ずは、構造を知る為にも魔石を使う型の魔道具について学ぶ必要があるのですが」
ただ、このタイプの魔道具はこの国では殆ど流通していない。理由は魔道具の要である魔石がこの国では採れないというのが主な原因だ。輸入でしか入手できない為に、品薄な上に割高であり、とても魔道具の為に使い捨てに出来るものではない。
維持費が高すぎて、流行らなかったというわけだ。
「魔道具自体は結構見かけるけど、魔石使うやつなんて見たことねーな」
「この国じゃ、魔石が取れませんからね……物は探せばあると思いますが、分解して構造を知ろうにも知識がなければ理解できません」
「じゃあ、知ってる人に教えてもらうしかないって事?」
「そうなりますが、この国にいるかどうかも怪しいですね」
もしかしたら多少の知識がある人は居るかもしれないが、専門家とは言えるほど熟知している人間は居ないだろう。
「お菓子をお持ちいたしました」
どうしたものかと三人で頭を悩ませていると、学園に連れてきた使用人がお茶うけ用の菓子を持ってくる。
「それと……少し今の会話を聞いたのですが、その型の魔道具であればティシュトルで広く流通しております」
それをテーブルの上に置いた使用人が、そう教えてくれる。
「そのティシュトルは何処に?」
「国を一つ挟んだ向こう側になります、殆ど交流もありませんので……行くのは少し難しいかと」
「むぅ、ようやく見えてきたと思ったのに」
行くのが難しいのは公爵という立場上だ。
もし爵位の持たない平民であれば金さえどうにかしてしまえば、行くことは難しくない。
公爵でも国交があれば、なにかしら適当な理由をつければ行けるのだがそれも無いとなるとどうしようもない。
大使として向かうという手があるが、子供の身でそれは無理がある。
「どうしてもと仰るのであれば、一度帰られて奥様にご相談してみてはいかがでしょうか?」
「そうですね」
演習を目処に学園は長期休暇に入る。時間はあるし、帰省するには良い機会だ。
「私も久しぶりにユーリの家遊び行きたいし、ママさんにも会いたいなっ」
「俺も稽古つけて貰おっかな」
ルナもリュカに会いたがっているし、ルークも来たがっているし決定だ。
「すいません、近々帰ると母様に伝えて頂けますか?」
「かしこまりました」
こうして、帰省する事が決定した。
あ、帰る前にルーキの森であの後どうなったか調べておかないと。




