二十一話『……ひょっとして魔法効かないです?』
「わざわざ急所を外すか、意味の無いことだな」
男の身体を貫いたように思われたそれは、威力を抑えても、鉄の鎧を軽々と貫けるライトランスを一身に受けても男の体には傷一つ付いていない。
「それならこれで」
右手を軽く振り、先程よりも威力と数を上げて同じ事をする。
「効かねえよ」
それでも尚、傷一つ付いていない。
外見からは想像も付かない程に硬いようだ。
「硬いですね、じゃあ七割くらいで」
更に威力と数を上げる。一度目とは威力も速さも比べ物にならない。流石にこれは無事では済まないだろうと、思わず頬が緩む。
「小せぇ割りには、かなり強えーじゃねぇか」
「……ひょっとして、魔法効かないです?」
普通であれば、即死どころ死体すら跡形も残らない筈も威力を、防御もせずにもろに喰らっても傷一つ負わない。
魔法を無効化するような能力でも持っているんじゃないかと思う。
「別に、種も仕掛けもありゃしねぇさ、魔族はみんな外皮が硬ぇのさ。ま、俺のは特別で、魔族ん中でも特に硬いってだけだ」
どうやら魔族らしい。
初めて会ったが……なるほど、言われてみればそれらしい外見をしている。
「じゃあ、防御力を攻撃力が上回ればいいってだけの話ですか」
単純な火力不足なら、単純に火力を上げればいい。七割でダメなら、十割で使うまでだ。
ただ、魔力が強すぎる為に、全力で魔法を使えば体に大きな負担がかかる。
一度それで熱を出して以来、全力で魔法を使った事はない。
昔よりも体にかかる負担は減っているだろうが、ここで全力を使ってどれくらい持つかわからない。
「出来んのか?」
考えたくはないが、もし全力の一撃が通用しなかった場合打てる手がなくなる。
「出来るかどうかは、試してみないとわかりません」
「ほぉ、まだ何か隠しているのか」
「ええ、力を隠してました」
そう言って微笑むと、全力で魔法を放つ。
「うお!?」
魔族は驚きのあまり目を見開き、仰け反って魔法を避ける。
「今度は避けるんですね」
そう言いながら、内心でほくそ笑む。
受けずに避けたということは、まともに喰らえばただでは済まないという事だ。
「……小賢しいな」
そう呟いた魔族の姿が消える。反射的にライトシールドで自分の周囲を防御するとほぼ同時に、目の前で拳が止まる。
防御魔法越しでも、空気が震えているのがわかる。
間一髪だ。ほんの瞬きをする僅かな時間でも、遅れていれば命はなかった。
一瞬の反応の遅れが命取りに繋がる。
身体強化を目だけに集中させ、動体視力を飛躍的に上昇させる。これで魔族の動きにも反応できる。
至近距離でライトランスを放つも、魔族はなんなく回避して大きく距離を取る。
追撃を行うが、それらを軽々と回避する。
単発では当たらない。点ではなく面での攻撃だ。
ライトランスを同時に複数展開し、散弾のように放つも、それらを掻い潜り、魔族は一気に距離を詰めてくる。すかさずライトシールドを展開して魔族の拳を防ぐ。
生じた隙をついて至近距離で複数のライトランスを放つが、それよりも早く魔族は後ろに跳んで距離を取る。
それの繰り返しにより、着実に追い詰めているが、着実に追い詰められている。
どうやら、遠距離から攻撃する手段を持っていないらしく、攻撃してくる際は必ず距離を詰めてくる。
いつ攻撃に来るかは予測しやすい為に、目で追うのがやっとの速さでもどうにか防げていた。
「ちっ、お前の方もかなり硬いじゃねーか」
魔族の男が悪態をつく。徐々に押され始めている事に焦りを感じているのだ。
「はぁ、はぁ……そっちも避けてばかりではないですか。硬い上に速いって、少しズル過ぎません?」
息が上り、次第に体が熱を帯びてくる。
「そりゃお互い様だ。ま、勝敗を別つのは持久力の差だな」
こちらの攻撃は当たれば通るが、文字通り目にも止まらぬ速さに魔法を当てるのは難しい。
しかし、向こうの攻撃も俺まで届かない。
お互いに攻め手に欠けるており、時間だけが過ぎていく。
「……それは……どうですかね」
思った以上に体への負担が大きい。タイムリミットまであと数分といったところだろう。
早急に決着を付けなければならいが、向こうもこちらに余裕がないのは察しているらしく、先程からヒットアンドアウェイでじわじわと消耗させにきている。
最上級魔法による広範囲への攻撃なら、確実に魔族に魔法を喰らわせれる事ができるだろうが、それを悟られれば一撃で仕留める事は難しい。
悠長に詠唱すれば一発でバレてしまうため、無詠唱で魔法を発動させなければならない。
最上級魔法はまだ慣れていないため、詠唱をせずに魔法を使用するとなると準備時間が必要だ。
「ところで、質問なのですが」
魔法を発動させるまでの時間を稼ぐために、俺は魔族の男に話しかけた。
「なんだ? 手短に効かねーと、あまり時間はないんだろう?」
時間稼ぎをしたい相手に、わざわざこちらから大して意味の無い会話を持ちかけているのだ。
露骨すぎて不審に思っても、必ず乗ってくる。
「どうしても聞いておきたいんですよ……このダンジョンを作ったのは、貴方ですか?」
狙いを悟られないように気を付けながら、魔族の男にそう聞く。
質問の内容に意味はない。聞くまでもなくわかる事だ。
「そうだ。俺の趣味と実益を兼ねたお手製だ」
「魔獣が居なくなったのは……このダンジョンに関係が?」
「ああ、外に居た魔獣は全部ダンジョンに移したからな」
「魔族って、皆そんな感じ何ですか?」
「似た奴も居るが、色々だな……気に入らねぇな、さっきから露骨な時間稼ぎをしてなんになる? 言っとくが、応援でも待ってんなら無駄だぞ。雑兵が増えたところで、保存食が増えるだけだってのはお前もよーくわかってんじゃねーのか?」
「そうですね。けど、最後に一つ」
そう言い終わるや否や、最上級魔法『ヴァルキュール・ヴァレスティ』を放つ。
十分に戦えるだけの広さのある空間といえど、すべて魔法の効果範囲内だ。
「魔族も死ぬ直前は、走馬灯とか見ますかね?」
手のひらから、小さな光の球が放たれる。一見、初級魔法と大して変わらないように思えるそれは、壁に触れた瞬間に凄まじい光を発し、そして全てを飲み込む。
「このガキ……!」
いくら速かろうと、逃げ場が何処にもないのであれば避ける事は出来ない。
自身も効果範囲の中に居るため、自身の身を覆うようにライトシールドを五重に展開する。
中級魔法では防ぎきる事は出来ずはなく、皿を金槌で叩き割るように簡単に割れていく。その度、シールドを張り直してどうにか耐える。
やがて、それが収まった後に残っているのは自分以外には何もない。
「ギリギリ勝ち……ですね」
視界が大きく歪む。
目眩を起こし、平衡感覚が乱れてその場にへたり込む。
今の最上級魔法の使用で限界が来たらしく、視界が霞んで気を抜けばそのまま倒れてしまいそうだ。
先に行った五人を追いかける力も流石に残っていない。
生前やってたゲームではボスで全力使い果たして、帰りのリレミト分のMPが残っていないなんて事がよくあったが、まさかリアルで同じ目に合うとは。
「ぐっ……終始舐めてたとはいえ、ガキに半身もっていかれるとはな」
煙の中から、そんな声と共に魔族が出てくる。右腕を失い、全身からおびただしい量の血を長しながらも、倒しきるには至らなかった。
「……」
もはや立ち上がるどころか、指を動かす余力さえも残ってはいない。意識を保つだけで精一杯だ。
だが、魔族の方もあの怪我では満足に動けないだろう。
「もう喋る気力も残ってねえってか……よっと、これで元通りだ」
魔族の傷口から新たな腕が生えてくる。
「再生まで……出来るんですね……」
俺よりよっぽどチートじゃん。
高い防御力に高いスピードだけでも厄介なのに、そこに再生能力まで備わってしまうとは……一体何処まで耐久性能を追求しているのだろうか。
「ん、なんだ口は動かせるのか……まぁ、こいつは俺の特異体質だ」
魔族が全員チートじみた耐久力を持ち合わせていなくて良かったと思う。
しかし、どうしよう。この状況を切り抜けられる手立てがない……あれ、詰んでる?
「とおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」
諦めという文字が脳裏をよぎった瞬間、横から大砲のごとく勢いで飛んできたルナが魔族の男に蹴りを喰らわせ、ルークが剣魔族横腹に叩き込む。
「ぐおっ」
完全に不意をつかれたのか、二人の攻撃をもろに受け遥か後方に飛ばされ、衝撃で崩れた瓦礫に埋もれる。
「ユーリ大丈夫!? 怪我ない? すごい熱! 死んじゃうよー!」
「おい待て待て、そんなに揺らすんじゃねぇって!」
わんわん泣きわめきながら、俺を揺さぶるルナ。ルークが慌てて止めにはいってくれたが、二、三度気絶しかけた。
「ルナ」
「ユーリ! 生きてたー!」
「……僕を担いで……逃げてください」
「え? あいつは倒さなくていいの?」
瓦礫の山に埋まっている魔族を指差してそう言うルナ。
「いい……です……早く……」
あの程度ではダメージなど受けていないだろう。
「わかった。行くよルーク!」
「おう!」
ルナは頷くと俺を担いで階段を一気に駆け上がる。
「あー痛ぇ……殴られて痛えって思ったのは久し振りだ」
瓦礫の中から出てきた魔族が、首を鳴らしながらそう呟く。
「うっそー、思いっきり殴ったのに効いてないじゃん!」
「くっそー、剣欠けちまったってるしどんだけ硬いんだよ!」
二人の攻撃を喰らってもなお、平然としている魔族を見て驚く二人。
「おいおい……折角楽しみが増えたのに、もう行っちまうのかよ。もうちょっと遊んでいけよ」
後ろから、凄まじい速さで追いかけてくる魔族。
「なんか追ってきてるよーっ!」
「大丈夫……です」
最後の力を振り絞り、壁にライトシールド張り追ってこられないようにする。
「くっ、あんのガキ、まだこんな力を」
ライトシールドに阻まれ、魔族はそれ以上追ってくる事はできない。
ほんの数秒程度しか持たないが、逃げ切るには十分だろう。
「ユーリ、外でたよ!」
階段の先に明かりが見えてくる。
「そう……ですか……」
どうにか助かったと安心すると同時に、必死に繋ぎ止めていた意識手放す。




