二十話『じゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく』
だれか、そろそろあらすじについてツッコミくれてもいいんやで。
「ん?」
僅かな灯りで照らされた床の異変気付いたルークが、その場に立ち止まってしゃがむ。
先頭を歩く二人が立ち止まった事で、自然と後ろを歩いている俺達の足も止まる。
「どうしました?」
身長が一番低い為に前の三人に視界を遮られ、何故立ち止まったのか良く見えない為、アルの脇をすり抜けて前に出る。
部屋と呼べるに十分な程に開けた空間があった。
「血……かな……」
ルークがそう言って指差している部分は広範囲に渡って赤い液体で染まっていた。鼻の奥に鉄の匂いが刺さる。
「何の血ですかね?」
「わかんねーけど、少なくともここで戦闘があったのは間違いないと思う。ここを通るのは初めてだから、俺ら以外にも誰かここを通ったのかも」
「……ですが、不自然ですね」
血痕は地面に広範囲に及んでいる。
それだけの広さを作るほどの出血。血の主は間違いなく死んでいるだろう。
それが魔獣なのか、人なのかはわからない。ここに死体が見当たらないからだ。
これほどの量の血を流す怪我をして、自力で動けるとは考えられない。よほど巨大な魔獣であれば、動けるだろうがこの洞窟にそんな巨大な魔獣がいるとは思えない。
つまりは、死体を誰かもしくは何かが動かしたという事だ。
「あ、奥に道があるよ」
ルナが部屋の奥を指差してそう言う。
確かに、その先には通路が続いていた。血痕もその通路の奥に続いている。
もし死体を動かしたのが魔獣であれば、この先に潜んでいる可能性が高い。
後ろを見ると、おびただしい量の血を見て、アルや中等部の二人が不安そうな様子で後ろを警戒しているのがわかった。
「先の様子をみてきますので、ルークは後ろの警戒に回ってください」
この先に強力な魔獣が居るかもと不安になっているのか、背後を自分達だけで守っている事が不安なのか、はたまたその両方か、判断しかねたのでルークを後ろに下がらせて、俺は先行して安全を確認する事にした。
洞窟内を照していた光は、この通路には届かないらしく、先を進むにつれ暗くなってきたため魔法で灯りを確保する。
一歩、さらに一歩と奥に進むにつれ血の匂いは更に酷くなる。
あまりの酷さに思わず鼻を覆った時、それを見つけた。
人の死体が二つ。赤く染まり最早原型を留めないほどに、無惨に食い散らかされている。
人だとわかる唯一の手がかりが、それが服を身に纏っているという事。血で色が変わっているが、よく見慣れたライレイ学園の制服。
「うっ……」
あまりの無惨さに気分が悪くなり強烈な吐き気が襲ってくる。
咄嗟にここで吐く訳にはいかないと思い、胸の奥まで上がって来たものを、無理矢理押さえ込む。
そのまま堪え、なんとか吐かずに済んだものの、気分は悪いままだ。
「……一人で来て正解でしたね」
彼らにこれを見せる訳にはいかない。ルークやルナにとっても、流石にこの光景はショッキングだろう。
彼らを無惨な死体に変えた魔獣の姿は見当たらない。どうやらここを既に離れているようだが、もうこの道は使えない。迂回して他の道を探すしかない。
その前に、せめて何か遺品だけでも持ち帰ろうと死体を漁ろうと灯りを少し強めた時、死体の先に扉がある事に気がついた。
天然の洞窟には不似合いな石の扉。
身体強化を使って扉を押すと、重い音を立てながらゆっくりと扉が開き、光が漏れる。洞窟内を照していた妖しい光ではなく明るい光だ。
少しだけ開けた状態で隙間から中を覗きこむ。
広く、白く清潔感のある部屋。その奥に上へと続く階段が見える。
階段の先からは光が射している。間違いなく外へと続いている。
「……ああ、もう、勘弁してください」
よりによって、この道とは。
扉までは一本道で他に道はない。この先に行くには、必ずここを通らなければならない。
そうなれば確実に死体を観ることになる。
果たして、これを見て平静を保っていられるかどうか。
中等部二人はもしかしたら、こういった経験があるかもしれない。ルナやルークも年齢の割りにはとても胆が据わっている。もしかしたら、これを見ても平然としているかもしれない。
「いや、希望的観測はやめておきましょう」
彼らが平静を保てなければ、脱出は難しくなる。動揺を与える要因は可能な限り排しておかなければならない。
どうにかして、彼らがこれを見なくても良いようにする方法は無いだろうか。
移動させるのは無理だ。一本道なので隠す場所がない。
「……そうだ、魔法で処理してしまえば」
死体を跡形もなく消してしまえば、この無惨な状況を見なくても良い。遺品は回収したのだし、どのみち死体を持ち帰る余裕はない。
そう考え、死体に向けて魔法を放とうとしたところで手が止まる。
遺品を渡せば、何処で手に入れたのか、死体はどうしたのかと聞いてくるだろう。
適当な事を言って誤魔化すのは簡単だが、それは良心が痛む。
「いや、良心の呵責なんてクソくらえですね」
◇◆◇◆
「ただいま戻りました」
魔法で死体を完全に消した後、悟られないようになに食わぬ顔で皆の元へ戻る。
「遅かったな、どうだった?」
通路を警戒していたルークが、そう尋ねてくる。
「出口らしき階段を見つけました。今なら魔獣の姿もありませんし、行くなら今のうちです」
「む、そうか。ようやく出れるのだな!」
出口を見つけたと聞き、アルがホッとしたようにそう言う。
「待ってくれ、他の二人はどうするんだ?」
早速向かおうとした時、ロビンが立ち止まりそう言う。
「僕らだけで探すよりも、外に出て応援を呼ぶ方が良いのではないでしょうか?」
遺品を渡して死んだと教えるのはここから出た後の方が良いかと思い、そう言って誤魔化す。
我ながら、口が達者だと思う。
「……そうだな」
このまま出口に向かうのを、彼らを見捨てる事のように感じたのか一瞬躊躇うように視線を後ろに向ける。
だが、今誰かを助けるような余裕はないのは理解している為、後ろ髪を引かれながらも出口へと向かう。
「開けるよー」
魔法の灯りを頼りに進み、石の扉の前まで来るとルナが扉を勢いよく開ける。
「よぉ、いらっしゃいとでも言えばいいか?」
先程とは違い、部屋の中央には一人の男が。紫色の肌をもつ額から角の生えた長身の男。
足はまるで羊のようで、毛で覆われており蹄がある。背中には蝙蝠のような羽を持ち、蜥蜴のような尻尾も生えている。まるでキメラだ。
「「「!?」」」
なにも居ないと思っていた場所で待ち受けている事。紫の肌に額に生える角。形こそ人のそれなれど、どちらかといえば魔獣に近い外見であるにもかかわらず、言葉が通じるという事。そして、背筋が凍るような不穏な気配。驚くには十分だった。
「おいおい、そう驚くこたぁねーだろうが、部屋の主が部屋に居んのはそんなにおかしな事か?」
「いえいえ、別におかしな事ではないですね。ごく自然な事です……ところで、それは外に繋がってます?」
予期せぬ事で驚きはしたものの、言葉が通じるのであれば対話が可能だ。
努めて平静を装いながら、街角で偶然出会った親しい友人に声をかけるように友好的にそう聞く。
「ああ」
「そうですか、ありがとうございます。それでは、お邪魔しました」
ごく自然に、堂々と階段の方へと向かう。
「何処に行こうってんだ?」
視界から消えたかと思うと、いつの間にか俺の肩に手を回して耳元でそう囁く男。
「……転移魔法ですか?」
背中に冷たい汗が流れ、背筋が凍るような感覚に陥る。
「んなもん使えるわけねぇだろ。普通に足で移動したに決まってんじゃねぇか」
瞬きをする間に距離を詰め、背後に回り込める驚異的なまでの速さ。
「まあ、ゆっくりとしていけよ。何も今取って食おうってわけじゃねーさ、食事は済ませた済ませたからな」
「ルナ、ルーク! すぐに三人と階段に!」
もう食事は済ませた……その言葉を聞いた瞬間、脳裏に無惨に食い散らかされた二つの死体が浮かぶ。
こいつがその犯人だと察した俺は二人にそう叫ぶ。
弾かれたようにルナがアルとメイコウを持ち上げ、ルークはロビンを担いで地面を蹴ると一気に階段まで走っていく。
「……だから、何処に行こうってんだ」
「行かせませんよ」
階段に向かっていくのを見て、一呼吸おいてから追いかけようとする男。
それよりも早く防御魔法の一瞬である中級魔法のライトシールドで壁を作り、彼らと男との間を遮る。
「自己犠牲のつもりか?」
「そう言うって事は、端から生かすつもりはなかったって事ですよね」
「まーな」
口角を上げ、そう言う男。
なら、俺の判断は間違えてはいない。
この相手はこれまでとは比べ物にならないほど強い。戦おうにも、三人を守りながらでは勝ち目が薄い。
「別に犠牲になるつもりはありませんよ、もう少し周りに目を向けては?」
そう言われ、周囲に目を向ける男。既に複数の光の槍が周囲を取り囲んでいた。中級魔法の中でも得意としているライトランスだ。
「撃ってこいよ」
そんな状況を気に止めることもせず、また逃げるそぶりも、それどころか一歩も動く気配も見せず、真っ直ぐとこちらを見てそう言う。口許が少し緩んで降り、喰らっても大丈夫だという自信でもあるかのようだ。
まるでバカにされているようで、少しムッとする。
「それじゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく」
周囲を取り囲んでいる槍を、一斉に男に向けて放つ。
一歩も動くことすら許さず、無数の槍が同時に男の体を貫いた。
バイト先、ショッピングモールにあるから入るのに入館証がいるんだ。
それで、少し用事あったからスーツでバイト先に言ったんだ。
そしたら何故か皆から丁寧に挨拶されて、どうしてかなーって思ってたら、スーツ姿で首から入館証かけてたからだ。
ごめんなさい。お偉いさんじゃなくて、ただのバイトなんです。




