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十九話『震度五くらいかな?』

レビューありがとうございます。

「本当になーんもねーのな」

「だねー、なんか拍子抜けだよー」


 森を調査しながら、少し不満がるルークとルナ。ひょっとすると魔獣と戦えるかもしれないと期待していたのだろうが、とんだ肩透かしにすっかりと気が抜けてしまっている。


「まだ何があるかはわからないから、気は抜かない方が……ん? この葉だけ他と違うな」


 メイコウの足がふと止まり、足元に落ちている葉のついた木の枝を拾い上げ、目の前まで持ってくるとついている葉をちぎってそう言う。


「そうか? 俺にゃ大して変わらんように見えるがね」


 ロビンは横からそれを覗きこみ、あまり興味なさげにそう言う


「良く見てくれ、肉厚で葉の先尖ってるだろ? それに、これは本物じゃない」


 葉をロビンに見せ、指差しながらそう言う。

 言われてみれば、地面に落ちている葉のはメイコウの持っている葉と比べると、薄く丸みをおびた形をしている。

 質感も、葉のそれとは違い枯れ葉ように乾いている。

 

「なるほど……ということはこの辺りに」


 二人の会話に耳を傾けていた俺は、小さくそう呟くと視線を上にあげ周囲の木々を見回す。

 すぐにお目当てのものは見つかった。


「ルーク、ちょっとこの木を斬ってみてください」


 真っ直ぐと天に向かって伸びる一本の木を指差して、ルークにそう言う。


「……わかった」


 何故そんな事をする必要があるのかと、不思議そうにしていたが、理由はなんでもいいかと剣を抜いて木を切りつける。

 まるで、岩でも叩いたかのような音が響く。


「ん?」


 木とは明らかに違う手応えに、ルークは顔をしかめる。

 剣を押し当てるようにして木の皮を削いでいくと、その下から石製の柱が姿を見せる。


「なあ、こいつは?」


 ルークは驚愕の色を浮かべ、こちらを振り返ってそう聞いてくる。


「さあ? 何か隠したいものでもあったんじゃないですか?」


 メイコウが持っているのは、材料は知らないがおそらく造花だろう。

 わざわざ造花で作った木を植えるなんて面倒なこと、理由がなければやらないだろうし、木を隠すなら森と言う。そう考えるのが普通だろう。


「それがこれってわけか? けど、おたく、なんでこれだってわかったんだ?」


 露になった石の柱を軽く叩きながら、ロビンがそう尋ねてくる。


「葉の形です。あれは針葉樹のものですから。ここら辺に生えているのは広葉樹ばかりなので、一目みればすぐにわかります」


 まさか、異世界の植物も針葉樹や広葉樹で分類できるとは思わなかった。小学校で習う内容もバカには出来ない。


「……こーよーじゅとか、しんよーじゅって何?」


 首を傾げながらそう聞いてくるルナ。頭の上に大量の疑問符が浮かんでいるのが見えそうなくらいだ。


「昔どこかで聞いただけという話なので大分うろ覚えですが、詳しい説明はこれを調べながらにしましょうか」


 昔の記憶を頼りに植物の種類について説明している間に、他の木の皮を剥いでいき石の柱を調べていく。


「んー、最初は驚いたが、別になんの変鉄もない柱にしか見えないな」

「そーだねー、別におかしな所なんてないよね」

「そうですか、けど報告はしておきましょう」


 報告するために拠点まで戻ろうとした時、足元の地面が大きく揺れた。


「なっ、なんだ!? 地面が!」

「ゆ、揺れてる!?」

「おっとと、結構大きいですね。震度五くらいかな」

「なんでユーリはそんな平然なの」


 それぞれ木に掴まったり、地面に伏せて狼狽えている中で、俺一人はのんきにしていた。なんせ、前世は地震大国に住んでいたのだ。この程度で慌てたりはしない。

 それがただの地震なら……だが。


 揺れは更に酷くなり、景色までもが歪む。妖しい閃光が周囲を包み、空間が歪み、捻れ、引き伸ばされていく。


「なっ、これは一体……」


 光が収まると、周囲は洞窟のような場所だった。少し開けた場所であり、部屋と呼ぶに十分な広さがあった。

 周囲をほんのりと妖しい光が照らしているため、辛うじてだが周囲の様子がわかる。


「なに? どうなってるの?」

「うぇ、気持ちわりぃ」


 この場に居るのは六人。班を組んでいたメイコウとロビン以外の中等部二人の姿が見えない。

 どこに行ったのかと周囲をざっと見回していると、視界の端で異様な形をした生き物が襲いかかって来ているのを捉える。


「しゃがんで!」


 見た瞬間、直感がソレは危険だと警笛を鳴らす。どうするか考えるよりも先に、ソレに向けてライトランスを放つ。

 咄嗟の事で威力を抑える事が出来なかったため、通常の中級魔法よりも遥かに高いものとなる。

 光の槍により半身を消し飛ばされ、地面に倒れる異形の生き物。

 恐る恐るそれに近づき、絶命していることを確認する。

 三メートルはあるであろう巨体。姿は蟷螂に近い形を取っているものの、全身が甲殻で覆われている。


「なんなんです、これ」


 生き物を殺してしまったという罪悪感よりも、目の前に倒れている生き物の異形さに対する嫌悪感や恐怖心といった感情が勝る。


「こいつ、魔獣だ!」


 ロビンが倒れている蟷螂を見てそう叫ぶ。

 メイコウとロビンの二人は腰から剣を抜いて周囲を警戒する。その表情には怯えが見てとれる。


「この辺りにはこの魔獣しか居ないようです。魔法で見張っておきますので、一先ず落ち着きましょう」


 魔法でこの室内を調べたが、自分達以外に動くものはない。


「……」


 二人は俺の顔を一瞥するが、直ぐに剣を握る力を強めて周囲の警戒を続ける。

 突然、見知らぬ場所に飛ばされた事と不意をつかれた襲撃に命を危機を感じて、気持ちに余裕がないようだ。


「そう無駄に気を貼っても疲れるだけです、体力は温存しておきましょう。それに僕の魔法見たでしょう? 魔獣が襲ってきても一瞬で返り討ちですよ」


 こういう時だからこそ、気持ちに余裕があった方がいい。そう思った俺は二人を安心させるためにそう言う。

 二人はどうしようかと顔を見合わせ、視線と小さな動作で何か意志の疎通した後にお互い小さく頷くと、肩の力を抜き地面に腰を下ろした。ただし、いつ襲撃があっても対処できるように、剣を鞘に納める事はせず常に握ったままだ。


「さっきのは一体なんだ? あの魔法、しかも詠唱をした様子はなかったけど」

「ああ言ったからには、ちゃんと説明して貰うぜ」


 一先ず落ち着いたところでメイコウがそう尋ねてくる。ロビンも逃げ道を塞ぐように聞いてくる。


「あれはライトランスです、慣れれば詠唱なしでも使えます」


 目の前で見せてしまっては、誤魔化しは効かないだろうと思い素直にそう答える。


「中級魔法でどうやったらあんな威力になる!?」


 上級魔法とまではいかないが、それでも普通の中級魔法とは比べ物にならない威力だった。

 ロビンは、一体どんなトリックを使ったのかと聞いてくる。

 

「魔力効率は悪いですが魔力を込めれば、威力は上がります」


 だが、種も仕掛けもない。莫大な魔力量にものを言わせるだけの、純粋な力業。真似するだけ無駄なものだ。


「それは俺も知っているけど、一体どれだけの魔力を込めれば、今のような威力が出せるんだ!?」


 メイコウが突然俺の肩を掴み、詰め寄ってくる。


「……僕の魔力はかなり多いので、あの、離してもらえませんか」


 流石に痛みに我慢できず、メイコウの腕を掴んでそう言う。


「あっ、ごめん、つい興奮してしまった……しかし、君はあれほどの力を持っていながら、なぜそれを隠してたのか?」


 落ち着きを取り戻したメイコウが、素朴な疑問を投げ掛けてくる。


「……目立ちすぎては面倒なので」

「全くもって、わからないな」


 普通は力を持っていれば、それをひけらかしたくなる。だが、それを面倒だからという理由で隠すのは理解できないと言ったような感じだ。


「目立てばそれだけ敵を作る事になるので……さて、話はこれくらいにして、そろそろ脱出を優先しませんか?」


 二人の緊張もあらかたほぐれ、気持ちに余裕ができてきたため、もういいだろうと一度話を句切って提案する。


「……ああ、そうだな。それに、姿が見えない二人も探さないと」


 何か言いたげに口を開くメイコウだったが、少し考えるように目を閉じ、やがてそう頷く。


「なんと、これが魔獣か……うーむ、聞いていたよりも恐ろしい外見であるな。余、これと戦うのか?」


 アルは魔獣の側まで行くと、死体を見下ろして眉をひそめる。


「いえ、危険ですのでアルは戦わないでください」


 俺がそう言うと、アルは戦わなくてもいいのかと少しほっとする。

 その様子を見て少し微笑ましい気持ちになりながも、頭ではしっかりと脱出プランを考える。


 この場所からの脱出とはぐれた二人の回収を目的に行動するのだが……場所の全容も、自分達がどこにいるのかもわからない状況で無策に動き回るのは危険すぎる。


「ルーク、ルナ、ここから出ます。先頭は二人に任せます」


 アルと同じく興味深々に魔獣をつついたり、死骸の周りをぐるぐると歩いている二人を呼び、先頭に立たせる。

 その後ろ、真ん中にアルとその両端にメイコウとロビン、そして一番後ろに俺というように隊列を組んで洞窟を進んでいく。

 これで正面からの敵はルナとルーク二人が、横と背後からは俺が魔法で倒せる。

 万一、打ち漏らした場合に備えて、中等部の二人には創造能力で創った盾を渡した。何も無い所から盾が出てきた事には驚いていたが、特に何か聞く事なく素直に受け取ってくれた。

 少し負担が大きくなるので、俺のスタミナが持つかどうか不安があるがそれは気合と根性でカバーするしかない。


 せめて、場所の全容がわかれば随分と楽になるのだが、それは難しい。

 一定の範囲の空間を正確に知覚することができる魔法も使えるのだが、不意打ち対策用のものなので、効果範囲は限定的なものでしかない。

 その為、しらみ潰しに探していくしかないのだが、そうなると時間がかかる。いつ魔獣が襲ってくるかわからない以上安心して休憩を取る事もできない。

 ルナやルークは身体強化が使える為、休憩が取れずとも大丈夫であろうが、他の三人は心配だ。

 初等部よりも経験は積んでいるとはいえ、中等部は十一くらいの子供。精神的にも肉体的にもまだまだ弱い。そしてアルは彼らよりも更に幼い。

 緊迫した状況が長引けば、精神的に不安定に陥るかもしれない。疲労の蓄積よりも、気を付けるべきなのはそっちかもしれない。


 魔獣との正面衝突はルナとルークが片付け、背後や横からの不意打ちは、先ほど言った一定範囲の空間を正確に知覚する魔法で事前に察知し、襲ってくる前に倒しながら特に問題が起きる事なく進んでいくが、何度も行き止まりにぶつかり、その度に引き返してを繰り返す為に順調とは言いがたかった。


「まるで迷路だ……もしかするとだけど、ここダンジョンじゃないか?」


 何度も洞窟内を往復していると、ふとメイコウがそう呟く。


「ダンジョンだって? バカ言うなよ」


 冗談じゃないといったような様子でメイコウに反論するロビン。


「……メイコウ先輩、この森にダンジョンの存在は確認されていませんよ。そんな事より、今は出口を探す方が先決です」


 魔獣が出た時点でもしかするとと思ったが、ここはダンジョン内部で間違いない。恐らく、あの石の柱が隠し扉にでもなっていたのだろう。

 しかし、ロビンの様子を見る限り、それを知れば酷く動揺するのは明白だ。

 それで取り乱されては困るため、ここは否定しておく。


「……そうだな、ごめん変な事を言った」


これから盛り上がってくるよ。


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