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十七話『実戦演習?』

バイト先、大型ショッピングモールの中にあるから、入るには入館証が居るんだ。

それで、学会の手伝いがあったから、スーツでバイト先に行ったんだ。

何故か、すれ違う店員がやたら丁寧に挨拶してくるんだよ。

 学園に入学して、一年が過ぎようとしていた頃。

 初等部一年の締め括りとして、大きなイベントが控えていた。


「実戦演習ですか?」


 朝、教室に入るや否やルナが実戦演習について聞いてきた。


「そう、正確にはその手伝い」

「なんですそれ?」


 全く聞き覚えがないが、何かしら一大イベントのようだ。

 クラスメイトらが一様にその話で盛り上がっているところをみると、どうやら俺は話題に乗り遅れているようだ。


「もー、どうせまた話聞かずに寝てたんでしょ」

「みたいですね、教えくれませんかルナ?」

「しょうがないなぁ」


 口ではそう言いながらも、ルナも教える事ができて嬉しいのか、ご機嫌に説明してくれる……のだが、説明が下手で今一要領を得ない。

 とはいえ、長い付き合いだ。ルナの下手な説明も慣れれば何となくわかる。


 要するに、早い話が中等部の生徒が魔獣をぶっ倒しに行くから、それについて行って、色々と必要な知識を学んでくる……という事らしい。

 

 戦闘には参加せずに中等部の補助が仕事になるが、それでもこの初等部一年にとっては初めて魔獣を間近で見る事になる。通りで、皆浮足立っているわけだ。

 かく言う俺も、魔獣を生で見るのは初めてなので緊張しないと言えば嘘になる。


「で、それは何時ですか?」

「明日だよ」


 …………それは、また随分と急な事で。



 演習に出発する日、幸いにも空は好天に恵まれていた。

 ライレイ学園の前には大型の乗合馬車が並び、生徒達が教師の誘導に従いぞろぞろと乗り込んでゆく。


 この演習の最終的な目的地は馬車で三日程の所にあるルーキの森だ。

 冒険者の間では初心者の森と呼ばれており、比較的弱い魔獣が多くいる場所であり、小高い山がいくつか連なっているのが特徴的な森だ。

 わざわざ馬車で数日もかかる場所へ向かうのは、魔獣の強さを鑑みてのものだった。





「……腰がいたい。気持ち悪い。帰りたい」


 時おり激しく揺れる馬車の上でルナの膝に頭を乗せ……というよりは、半ば強引にそうさせられながら呟く。

 大型の乗り合い馬車は、普段使っている馬車と比べると格段に乗り心地が落ちる。まず揺れが酷い。そして座席が堅い。腰に来るわ、揺れて酔うわで既にダウン寸前の状況だ。


 少しの間ならまだしも、三日もこれが続くと考えると地獄だ。

 宿題に手をつけていないまま残り三日になった夏休みという状況の方がずっと天国のように思える。二日はのんびり出来るから。


「根を上げるの早すぎだろ、まだ半日だぜ? といっても、俺も暇すぎて嫌気がさしてきたとこだけど」


 馬車にゆられること約半日、ルークは腐っていた。

 ルークだけのことではなく、周囲に居る生徒も同様だ。

 到着までの間は基本的に馬車で移動するため、やはり暇な時間が大半を占める。

 手狭な馬車内はでは自由に動き回る事は出来ない為、窓から景色を眺めるか、雑談するしかないが、それでは早々に飽きが来るのも致し方ない事だろう。携帯ゲームなんてものもないのだし。


「うむ。乗り心地はともかく、余も暇でならん」


 さしものアルも、この状況は流石に耐え難いようだった。

 唯一未だにニコニコと上機嫌にしているのは、ルナくらいのものだ。


「なぁユーリ、なんか暇つぶし出来るもんねーか?」

「持ってないで……と思いましたが、ありました」


 そう言って手を軽く振ると、あら不思議。何もない所からカードの束が出てくるではありませんか。


「おっ、久しぶりにユーリの手品見たな……で、それなに?」

「トランプです」


 上体を起こしながらそう説明する。

 ルナが名残惜しそうな表情をするが、今はスルー。


 このトランプは神様から貰った創造能力で創ったのだ。 ここまであまり息をしていないこの能力だが、地味な所で役に立つ。

 とはいえ、能力の性質上、トランプのカードを想像しなければならないが、五十枚以上あるカード全てを精巧に頭に思い浮かべるのは流石に無理なので、数字とマークが描かれているだけの、画用紙を切って作ったようなクオリティになってしまった。

 絵札に至ってはうろ覚えすぎて、はいだしょうこもビックリのデザインだが……まぁ、仕方ないだろう。

 というか、あれを正確に思い浮かべられる人はそうそう居ないと思う。


「とらんぷ……とな?」


 聞いたことのない言葉にアルが首を傾げる。


「ちょっとした札遊びですよ、これ一つで色々出来ます」


 とはいえ、手狭な馬車の中でできるものは限られてくる。

 あまり場所を取らずに済むババ抜きと大富豪のルールを二人に教えていると、他の生徒も興味を持ったらしくルール説明に耳を傾ける。


「なんだよ、そんな面白そうなもん知ってたなら早く教えてくれよ」

「初めて聞く遊びだが、面白そうであるな。よしやってみるとするか」


 早速トランプで遊び始めるアルとルーク。周囲の生徒も集まり、ただでさえ狭い社内が更に窮屈になった為に、もう一セット創って渡す。


 これで目的地であるルーキの森まで退屈することはなかったが、乗り心地の方まで解決したわけではない。

 結局、目的地に着くまでの間、腰痛と乗り物酔いとの格闘は続き、到着する頃にはグロッキーのような状態になっていた。



 馬車はルーキの森の手前の開けた場所に次々と止まってゆく。

 例年、演習があるたびに拠点として利用されている場所だ。


「よーし、荷物を降ろしたらテントを作るんだ。それが終わったら夕食だ」


 教師の指示により、生徒達が寝床となるテントを建て始める。

 これまでは直ぐに出立できるようにテントは立てず、外で布を広げてその上に寝てきた。

 国内の開けた街道で比較的安全とはいえ、魔獣の襲撃に会わないとは限らない。テントを張らなかったのは、いざというときすぐに動けるためだ。


 ここでは演習の日程は数日間に渡る。その為、流石に地面に布を敷いて雑魚寝という訳にもいかない。

 そのための拠点としてのテント設営だ。


 中等部は流石に手馴れた様子でテントを設営してゆく。

 しかし、一年生らは中々思うように進まずにいた。

 授業でも二、三度テントを建て、そこで大体のやり方は教わっているが、そもそもテントを設営するには体格が幼すぎる。

 ある程度体格的にしっかりとした中等部とは違い、まだまだ未発達の一年にとってテント設営はかなりの重労働になる。


 とはいえ、例外もある。

 

 足りない体格を別の方法でカバーできれば、作業効率に遅れが出るような事はない。


「テントってこれでいいの?」

「やり方は合ってる筈だ」


 例えば身体強化なんかが方法の一つだ。


 他の生徒らが、テントの資材を幾つかに別けて持っていく所を、ルークは一人で全て運び、テントを固定するために地面に打ち込むペグも、金槌など使わずにルナが拳で打ち込んだ。

 勢い余ってペグが頭まですっぽり地面に埋まった事以外は、一名ほど地面に伏せて見ているだけだったにも関わらず、問題らしい問題は起こる事なく、作業はスムーズに進み、かなり短い時間でテントの設営は完了した。


「あー、やっと腰痛が収まってきました」


 テント設営が終わり、夕食の準備を始めた所で大分動けるようになってきた。


「思ったよりも早い回復だったな」


 食材を適当な大きさに切りながら、ルークがそう言ってくる。


「別に慢性的なものでもないですし、少し休めば回復しますよ。ところで何か手伝う事ありますか?」


 まだ少し痛むが、別段動けないという程ではない。テント設営は任せっきりになってしまったので、夕食くらいは手伝おうと思いルークにそう聞く。


「じゃあ、地面に横になって」


 ルナに言われた通り、草むらに寝転がる。


「目をつぶって」


 目を閉じると、風が草木を鳴らす心地のいい音がよく聞こえてくる。


「あ、頭は私の膝の上ね! それでそのまま夢の世界へ行ってらっしゃい」


 言われた通りルナの膝に頭を乗せて、おやすみな……っておかしくない?


「ルナ、なんですこれは?」


 夕飯の用意を手伝おうとしたのが、どうして膝枕をされる自体になるのだろうか。


「膝枕」


 ニコニコと嬉しそうな表情でそう答えるルナ。


「いや、だからなぜです?」


 膝枕の名称を知りたいわけではなく、どうして膝枕をされているのか、理由が知りたいのだが。


「ひじゃまくりゃ」 

「……ひょっとして、まだあの事を根にもってるんですか?」


 もう何年も前の話なのだが、未だにトラウマになっているのか。


「なあ、何故手伝わせてやらぬのだ?」


 徹底して何もさせないのを疑問に思ったのか、アルがルークにそう尋ねる。


「……アルは知らない事だが、あいつ一回だけ料理作った事あるんだけどな」


 ルークは言うかどうか少し迷った様子だったが、やがて口を開く。


「そん時よ、あいつ料理に魔獣の罠用の食材入れて死にかけたんだよ」

「待ってくださいルーク、それは無知ゆえの過ちであって、もうあのようなミスはしませんよ」


 何年も前の話になるが、ルークとルナが遊びに来た際にサプライズとして手料理を振る舞おうと使用人にも秘密でこっそり料理に挑戦したことがあった。


 その時、色も形も香りもトマトに似ていた食材を見つけたので、ミネストローネでも作ろうと思っらのだが、実はそれはビレジの実といって、強力な麻痺毒を持っている果物だったのだ。


 そうとは知らずにそれを料理を使い、あげく皆に振る舞ってしまい、口にした全員が痺れて倒れるという自体に陥ったのだ。

 幸いにも、その時既に幾つか覚えていた回復魔法に、状態異状を治すものを覚えていたので死人が出ることはなかったが、それからというもの、料理はおろか包丁を握ることも許されなくなったという訳だ。

 

「……うむ、そうだったか! まだ長旅の疲れが取れないようだな、ユウリはゆっくり休んでおくがいいぞ!」


 その話を聞いたアルは、高笑いしながらそう言ってきた。


「アルまで!?」


 アルは味方してくれると思っていたのに、あっさりと敵に回られてしまった。

 しかし、ここまで拒否されると、無理矢理にでも手伝ってやろうかと思ってくる。


「ダメだよー、ユウリは可愛い寝顔見せてればいいのー」


 意地でも手伝ってやろうと思い、起き上がろうとした所を、ルナにがっしりと首根っこを掴まれ再び膝へと引き戻される。

 そして起きられないように、上から頭を押さえつけられる。


「痛い痛い、ルナ本気で痛いです。わかりました、大人しくしてますから離してください」


 ルナに見張られていては無理だと諦め、大人しく夕飯が出来るのを見ている事にした。

何でかなと思ってたけど、スーツ姿で首から入館証下げてたからだ。

俺、ただのバイトでお偉いさんとかじゃないんだ。お偉いさんならあんな安いスーツ着てないと思うんだ。



ブクマ、感想、レビューをよろしくね。

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