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選択肢が拗ねました  作者: esora
本編
55/206

54 固有スキル

 一度きりだと思っていた夢を続けて見るようになってから暫く。

 最初は、純粋にその世界を楽しんでいたが次第に飽きてきた。

 ドラゴンや数多くのモンスター、英雄や勇者が生まれ人々の希望となるようなそんな王道ファンタジー。

 何度か寝れば職種も変わるかなという淡い期待は簡単に崩れて消えた。 


「ユウって、本当死霊使いとしては超優秀だよね。敵すら容易に呼び出して働かせるその鬼畜っぷりに、私もうゾクゾクしちゃう」

「目を輝かせないで。それと、勝手に死霊を連れて行くと後始末が大変よ?」


 死霊術師(ネクロマンサー)にとっての死霊は大切な駒だ。

 契約成立した死霊は主人を裏切ることはまずない。

 死霊の方が力が強いとなれば牙を剥いて殺してしまう事も有り得るが、そんな死霊とはそもそも契約すらできないだろう。

 強制的に従わせる方法もあるが、その手は使いたくない。

 自分の駒ではない死霊達を眺めながら私は溜息をついた。


「えー。私もいらないのに、勝手についてくるんだよ? ついでに部下にしちゃえば?」

「別に彼らは契約したいわけじゃないでしょ。魅了されてモモをストーカーしてるだけで」

「だからさ、ついでに『えいっ☆』と手駒にすればユウも少しは楽になるのに」

「私の契約は相手の意思を尊重。戦闘狂(ばか)以外は成仏させるって知ってるくせに」 


 普通の死霊術師(ネクロマンサー)はそんな馬鹿な事はしないそうだ。

 それはそうだろう。

 戦場に行けば苦労せずとも使い捨ての駒がそこらじゅうにいるのだから。

 とりあえず誰彼構わず強制契約してしまえばいい。

 魂を縛る術から逃れる術を持たぬ死霊は大人しく主人に従う他ないが、それが死霊術師(ネクロマンサー)の本来あるべき姿なのかもしれない。

 狡い手を使って、真正面からは契約できない格上の相手と契約する方法もあるが私は嫌だ。

 周囲はただの駒に何をそんな低姿勢でいる必要があるのかと馬鹿にして、能力の低さをせせら笑うがどうでもいい。

 万が一の時を考えれば、主従とは言えできるだけ良好な関係でいたいと思うのは当然だろう。

 格上の相手を無理やり縛り付けて従わせた死霊術師(ネクロマンサー)が、返り討ちに遭うなどよくある話だ。

 それを、能力が低いからと馬鹿にして片付けてしまえる周囲は幸せだと思う。


「そんなんだから、軍内でも孤立するんだよ?」

「あんな奴等とつるむくらいなら、一人でいた方がマシ。そもそも、私が軍に入った理由知ってるでしょ?」

「うん。高給で福利厚生も充実してるから。引退しても手当てが厚いって素晴らしいよね」


 それだけで魔族軍に入るとか、ユウらしい。

 そうモモに言われて思わず首を傾げてしまった。

 確かに、待遇に釣られて無事就職はしたものの今思い出しても腹が立つような嫌がらせを受けてまで何故自分はここにいるのか。

 魔族軍に属していると周囲に知られた以上、今更人間側に戻れないというのもあるが一番は意外と居心地がいいからだろう。


「まあね。ほら、それよりさっさと死霊を帰して」

「ふぇっ……ユウひどいー。私はユウの為に、大事な友人のユウの為に持ち場離れてあんな陰湿な場所まで行ったのに!」

「いや、持ち場離れちゃ駄目でしょ」

「てへ☆ さーてと、じゃあ皆にバイバイしよっかなぁ」


 強制労働、サービス残業。

 セクハラ、パワハラ、アカハラ。

 同僚内での嫌がらせは別に耐えられないわけじゃない。

 どんな労働にも手当てはつくし、負傷すれば保険金だって貰える。

 何だよこの充実手当て、と思わずびっくりする程の好待遇だったのだからそりゃ飛びつかないわけが無い。

 私と同じ考えの人は他にもいたらしいが、気づけば私以外は皆辞めてしまっていた。


「ハーイ、じゃあ皆気をつけて帰ってね~」


 ヴォオォ、と低く唸るような声が響いたかと思うと、モモの周囲にいた死霊達が一斉に天へと昇っていく。

 モモが軽くステッキを振りクルクルと回る姿を見ながら涙を流す死霊達は大変名残惜しそうだった。

 まるでアイドルの引退コンサートだな、と思いながらその光景を眺めため息をつく。


「……恐ろしい、魔女恐ろしい。何でその一言で皆大人しく帰るのよ」

「えっへへー」


 モモは私が魔族軍に就職が決まったと聞いてとても喜んでくれた友人だ。辛いけど頑張ると、一緒にご飯食べながら就職祝いをしたのが懐かしい。


「それはー、私が大人気の~マジカル・モモだから☆」

「あー、すごいすごい」


 私は溜息をついて、今日も綺麗に巻かれてある彼女の髪を見つめた。

 艶々として手入れが行き届いているのは髪だけではない。きめ細かい肌や、爪までが美しく整えられている。

 魔女というよりは、夢魔のような魅了っぷりだがそう言うと彼女はとても嫌がる。

 チートとしか思えない固有スキル所持しているんだから、そのくらい我慢しろと言いたくなった。

 

「みんなー、今日はどうもありがとー」

「アイドルコンサートじゃないんですけど」


 そもそも彼女が魔族軍(こっち)にいるのはどう考えてもおかしい。

 私のように高給に釣られた訳でもないらしく、その気になれば人間の騎士団や神殿に入れただろう。

 彼女の魅力と美貌なら、王族に見初められて結婚という未来もあっただろうに、よりによって魔族側を選ぶ神経が分からない。

 平民から貴族や王族の仲間入りをしたとしても要領が良く器用な彼女の事だ。すぐに慣れて人気になっただろう。


「ユーリア、君はモモと一緒に居られて嬉しくは無いのかい?」

「いえ、嬉しいは嬉しいですけど。わざわざ魔族軍に来る理由が判らないです」

「だーかーら。『人間の男には飽きた』って言ってるじゃん。もう、しつこいなぁ」

「……」


 モモはいつもそう言っているけれど、それが嘘だと知っている。

 いや、半分は本当かもしれないけど本意が分からない。

 私のように手当てにつられたわけでもないだろうに、何故わざわざ種族の違う軍に属しているのやら。

 敵は自分達と同じ人間だというのに。


「正直、魔族軍の方がすごく楽しい」

「楽しいねぇ」


 その言葉に偽りはないだろう。

 モモは私以上に絡まれやすいので、魔族に変なことをされるんじゃないかと心配していたが、逆に相手を手玉に取って遊ぶという衝撃の光景を見せてくれた。

 私に嫌がらせをしている同僚が「ブヒィ」と言いながら四つんばいになっているなんて凄い悪夢だった。

 軍内でもイケメンと評判の貴族の坊ちゃんが、恍惚な表情でモモの命令に従う姿は今でも思い出せる。

 モモは遊んでいただけだと言っていたのでそれ以上何も聞かなかったが、深く聞く気にもなれなかった。


「向こうにいれば、お姫様待遇されたのに? 騎士に傅かれて人々の希望になれたかもしれないのに?」

「そんなのされたって、つまらないよ。それに、どうせ勝てば好きでもない男に強制的に宛がわれ、負ければその責任を押し付けられて殺されるだけだもん」

「え、そうなの?」

「やだー、ユウってば。常識だってば」


 あまりにも軽い口調で言われるものだから、事実なのか疑ってしまう。

 けれど本当にそうだとしたら、今まで彼女の持つ固有スキルに憧れていた自分が馬鹿らしいと溜息をついた。

 結局私は魔族軍(こっち)に来て人間側から敵視されるのに慣れただけで、何も見えていなかったのか。

 小さい頃から一緒にいる、友人の事でさえ羨むばかりで上辺しか知らなかった。


「知ろうとしなかっただけかな……」

「ん?」


 いいな、いいな、羨ましいなと何度彼女に言ったのだろう。

 その度に彼女は私の持つ固有スキルの方が羨ましいと言っていた。

 私とモモは正反対の性質を持っているので余計に羨ましかったのかもしれない。

 私の固有スキルは今の仕事に向いているので、天職とも言える。

 しかし、このスキルさえなかったらもっと違う職を選べたのかと想像せずにはいられない。


「ま、知らなくても仕方ないよ。そんな事が知られれば、誰も寄り付かなくなるじゃない」

「そりゃそうだけど。権力とかで強制的にどうにかするんじゃない?」

「ホント、どっちが悪なのか分かったもんじゃないよね」


 上辺だけを綺麗に繕って、純真な魂を食いつぶす醜い輩達。

 その口から出る言葉は笑ってしまうほどお綺麗なもので、人々の心を掴むのに長けている。

 

「ユウもおじさんがまともな司祭様で良かったじゃん」

「まともねぇ。仲間内からは仕事もあまりできない田舎の司祭って笑われてたみたいだけど」

「でも、そのお陰で今無事に暮らしてるんだから凄いって」

「それはモモの両親のお陰もあるんじゃない?」


 私のスキルは、判断を誤ると世界に混乱をもたらすとして殺されかねないから産まれた時に司祭である父親に封印されたと聞いている。

 魔族軍に就職を決めた際も、喜んでくれた家族を思い出して苦笑してしまった。

 

「私が就職決めた後、村は焼かれるし騎士団は魔族のせいにして人心を煽るしで笑わせてもらったわ」

「いやーあれは大変だったわ。戦争って本当、何でもありなのよね」


 その件があったからかもしれない。

 私が人を殺すことに躊躇いを覚えないようになったのは。

 逆に言えば、それが無かったら私は今でも雑兵のままだっただろう。


「クリスティーヌの固有スキルは《聖女》ですから、それを知った国や神教が動くのも無理ないだろうね」

「今までよく隠し通せてたって話ですよね」

「それはクリスティーヌ生来の魅力のお陰かな」

「えへへへ」


 クリスタルスカルが、優しい声色でモモを褒める。

 嬉しそうに照れながらもじもじとする彼女が、年相応に見えて思わず笑いそうになった。

 勇者一行によって倒されたはずの魔王様は、完全に死んだわけではなく力を分散させる事によって生き延びたのだと言う。

 石版には魔王様の力と心が封印されており、それらを全て集める事によって無事復活するというわけだ。

 ちなみに、手ごろなところにいい依り代があって良かったと喜んでいた。

 魔王様から下賜された綺麗なクリスタルスカル。

 クラーニオンと名づけて可愛がっていた私の相棒に、わざわざ宿らなくてもと思ったのだが他にいい依り代がなかったのなら仕方ない。

 

「クラーが喋るなんて感激だよね、ユウ」

「個人的には喋らない方が愛着あったんだけど」

「はっはっは。それは申し訳ないことをしたね」


 私の武器であり相棒であるドクロとして振舞うのが敵の目を欺くに丁度いいと言っていたので、第三者の前では「クラー」と呼ぶようにしている。

 最近は宿っているのが魔王様という事を忘れてついつい口調が荒くなってしまうので、気をつけなければと思っていたところだ。


「そう言えば、ユウの固有スキル《黄泉戻し》って、魔王様が解いたんだよね?」

「解いたって言うか、触れられたら解けちゃったというか」

「あー、魔王様それってセクハラですよ、セクハラー!」

「私はただ、周囲の偏見にも負けずに黙々と頑張っているユーリアを褒めようとして。良く頑張ったねと頭をなでなでしてあげただけだよ」


 他意などない。

 親が子供にするような、そんな行為だ。

 種族が違うのだから寿命も違う。長い時を生きている魔王様にとって、軍に属する全ての者が子供や孫のようなものだろう。


「私も頑張ったら、頭撫でてもらえますかー?」

「……セクハラにならないのなら構わないよ」

「わ~い」


 先ほどモモにセクハラと言われたことが気になっているのだろう。

 気にした様子もなく嬉しそうに手を上げて喜ぶモモは、こんな状況になっても変わらず元気だ。


「私も魔王様の事、撫でてもいいですか?」

「ええ、構いませんよ」

「……あ、ユウの熱い語りが分かった気がする」


 私には何かと相棒であるクラーを撫でる癖がある。あのつるりとした表面といい、形の良い前頭骨から頭頂骨にかけてのラインといい素晴らしい。

 全てが完璧と言ってもいいくらいの素敵なドクロだ。

 私がそうやってクラーの事を語りだすとモモはドン引きし始めるが、そんな彼女もようやくその素晴らしさが分かったらしい。


「夏場はひんやりして気持ちいいのよ」

「うん……でも、結構重いね」

「そう?」

「そっか。だから最近のユウは、腕力上がってるんだね」

「え?」


 自分では全く気づいていなかったがそう言われてみれば少し逞しくなっただろうか。

 たるむよりはマシか、と思いながら今度からは左右バランスよく鍛えてみようと思った。

 片腕だけが逞しくなっても気持ち悪い。 

 

「ふふふ、いい香りがしてきたね」

「お腹空いた」

 

 結界を張った森の中での野宿も、魔族軍に入ってから慣れた事だ。

 ただの村人だった時には何もできないに等しかったけど、今では森で獲物を仕留め綺麗に捌くこともできる。これは、食にうるさい相棒のドクロのお陰もあるだろう。

 言葉は発しないが、喜怒哀楽はある。愛らしい相棒のお陰もあって、今まで何とかやってこれた気がした。

 それに今は料理の腕がいいモモと一緒なので食事に困ることは無い。当番制でも、一緒に調理をしていても負荷が少ないのは良い事だ。


「いただきまーす」

「はい、召し上がれ~」

「これはこれは。美味しそうですねぇ」 

 

 可愛いモモに「はい、あーん」で食べさせられて上機嫌そうな魔王様だが勇者と対峙した時の事や、勇者はその後どうしたのかと聞きたいことはたくさんあった。

 流れに任せるまま石版探しの旅をしているが、そう言えば魔族と人間の大戦についても詳しく話していないような気がする。

 仲間も、顔見知りも、それこそ自分以外の幹部も倒れたか何かしたんだろう。

 内部紛争も起こっているようだが、敢えてその話題を避けているような気もした。

 負けたから?

 仲間のことを思い出すと辛いから?

 そのどちらも、特に何も思わない自分は異常なんだろうかと私は霜降りの肉へと箸を伸ばす。


「ユウ、哀れな私の身を……」

「それとこれとは別です。そして、これは私のお肉です」


 心の中で、石版でも食ってろと失礼な事を呟きながら私は美味しそうに色づいた肉を頬張り目を細めた。

 


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