はい、ありがとね、またおいで
坂田種子は、ごく普通の駄菓子屋のおばあちゃんである。
毎日店の前にじょうろで水を撒き、毎日手作りの新聞紙の袋にお菓子を入れて子どもに手渡す、齢74の駄菓子屋のおばあちゃんである。
今日も今日とて、しぶい顔で納品されてきた駄菓子の箱をチェックしている孫の横でのんびりお茶を飲んだあと、行きつけのコンビニでカップ入りシフォンケーキとインスタントコーヒーカップ5Pを買って家路についていた―――のだが。
キギイ――――!!キイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
坂田種子の魂と…、女神が対面している。
「坂田種子さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「おやまあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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坂田種子(74)
レベル38
称号:転生者
保有スキル:はい、ありがとね、またおいで
HP:3
MP:4
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「ええ景色だねえ、曲がってきた背中が伸びるわ~」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…駄菓子屋のおばあちゃんの前に現れた!
「これは人気のモンスターだね~、へえ!本物はこういう色なんだね~」
うろたえない、駄菓子屋のおばあちゃん。
「そうそう、いただいた保有スキルがあったねえ、《はい、ありがとね、またおいで》って…もしかして、お客さんなのかな~、お店、ないけど…」
うばほん!!
50年前に嫁に来た時にはすでにボロボロ状態だった敷地面積4.5坪の駄菓子屋【マリちゃん】が出てきた!
30年前からつるされているお面も、ホコリだらけで茶色くなったドラレモンも、日光にさらされて真っ白になっただるまも、中途半端に売り切れているお菓子売り場もガッツリそのまま再現されている!
「はい、欲しいお菓子をこの箱に入れて、もういいって思ったらおばあちゃんとこに持って来てね、袋に入れてあげるからね」
異世界のお菓子を目の当たりにしたスライムは、興味津々だ!
これは何だろう…、どうやって食べるのかな…。
「これはね、小さなおさじで中身をすくって食べるの、おいしいよ。これはね、飴がスプレーになってるやつ。こっちはお水を用意して自分で練って作るお菓子で、これは…」
あーん!
ここにあるお菓子、全部食べたい!
箱に入る分だけなんてヤダ!
「それじゃあ、ひとつづつ順番に食べていってみるかい?」
おばあちゃんのやさしい申し出に大喜びで頷いたスライム!
甘いのに辛いの、酸っぱいのにおもしろいの、硬いのにやわらかいの…、微妙なのもボチボチあったが、のんびりほのぼのとマッタリしたおやつタイムを楽しんでいたその時!
腹を空かせていた野良スライムが通りかかり、ぼろ駄菓子屋ごとおばあちゃんとスライムを…飲み込みやがった!!!
怒り心頭になったスライム(駄菓子をご馳走してもらってた方)は、フルパワーで飲み込み返してやった!!!!!!
スライムは今でも時折おばあちゃんとのやり取りを思い出し、温かい気持ちになりながら…無遠慮で空気の読めないクソモンスターどもをガッツガッツと捕食しているという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
駄菓子屋のおばあちゃんは、時間を巻き戻されてコンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
駄菓子屋のおばあちゃんはコンビニでカップ入りシフォンケーキとインスタントコーヒーカップ5Pを買って家路についた。
駄菓子屋の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「みんな、そこは危ないからね~!期限の切れるお菓子をあげるからお店の方においで~」
駄菓子屋のおばあちゃんは、孫のすすめで店舗形態を小学生専用の200円分までしか販売しない駄菓子屋に変更し、たまに大量買いに来た大人たちから苦情を受けたりもしましたが細々と売り上げを出しながら毎日店に立ち、立つことが難しくなってからは孫の奥さんに経営を任せ店先に設置した座り心地のいい椅子の上でおしゃべり専門の接客をするようになり、寒くなってきたからあたたかくして過ごすんだよと暖房器具にあたりながら子供たちに声をかけた翌日に体調を崩して入院し、そのまま回復することなく80歳の生涯を終えたという事です。




