茶色い手
鵜飼真美は、ごく普通の植物を枯らす人である。
毎日スーパーの入り口で売られている花を見てフーンと思い、毎日庭に手入れが行き届いている家の横を通り過ぎてうちも草刈りしないとなぁと反省する、齢33の植物を枯らす人である。
今日も今日とて、イベントでもらったミニサボテンが茶色く変色していることに気付いて玄関横のドクダミだらけの花壇の土の上に移動させて復活を祈ったあと、行きつけのコンビニでブロッコリースプラウトサラダとにんじんしりしりを買って家路についていた―――のだが。
キギキー!!キュ、キュキュキュ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
鵜飼真美の魂と…、女神が対面している。
「鵜飼真美さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ?」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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鵜飼真美(33)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:茶色い手
HP:27
MP:1
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「というわけで、いきなり草原…すごーい、めっちゃフサフサしてる~!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…植物を枯らす人の前に現れた!
「えっ?!ナニコレ、ヤダっ、もしかしてモンスター?!私、食べられちゃうの?!」
うろたえる、植物を枯らす人。
「そ、そうだ、確か…保有スキルがっ!!え、ええっと、《茶色い手》って…こんなとこに来てまであたしの枯らしグセ、いじられるの?!ムッキ―!!こうなったら…全部枯らしてやるぅウウウウう!!!」
植物を枯らす人は、地面に手をついて怒りを解き放った!
幼稚園で植えたヒマワリ、小学校で植えた朝顔にへちま、中学校の時に初彼にもらった四葉のクローバーの鉢植え、高校生の時に園芸委員の顧問だった英語の加藤先生と一緒に植えたチューリップの球根、職場の屋上で始めた水耕栽培プロジェクト、庭付きの家に引っ越してはっちゃけて植えたヒシャガキにみかんの木にブドウの苗にサツマイモのツル、芽の出たじゃがいもにもらったサクラソウ、雑草の侵攻を抑えるためにがんばって埋め込んだパンジー、見かねたご近所さんと共に整えた庭に移植した南天、ヤケクソになってぶちまけたミックスフラワーの種…全部、全部キッチリ枯れたくせに、ドクダミとエノコログサばかりモサモサと増えてさああアアアア!!!!
ばさー!!
ものすごい勢いで、植物を枯らす人のまわりから草原が朽ちていく!!!
ちょ!!!
ここの草、おいしいのにー!!!
毎日サラダ感覚で草原の草を食べているスライムは、食材を意味もなく枯らされてはたまらんと植物を枯らす人をまる飲みした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
植物を枯らす人は、時間を巻き戻されてコンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
植物を枯らす人は、コンビニでブロッコリースプラウトサラダとにんじんしりしりを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわ…ぼうぼうになってる生け垣がぐっちゃぐちゃ!多分全部引き抜いてコンクリート張るよね、コレ」
植物を枯らす人は、生えて欲しい草はみるみる枯れて生えて欲しくない草は瞬きする間に生い茂っていくという恐ろしい呪いに長く悩まされていましたが、息子が初アルバイトでホームセンターのガーデニング担当になった頃から少しずつ環境に変化が訪れ、自宅の庭でブルーベリー狩りができるようになる頃には近所でも有名な家庭菜園一家の奥さんになれたものの、不届きものによる窃盗が頻発するようになってしまい庭をつぶすことを決め、雑草の生えないコンクリート張りの自宅で優雅に暮らしていくんだと意気込んだ翌日、粗忽な店員が水をぶちまけてしまったスーパーの生花コーナーで足を滑らせ転倒し、意識が戻らないまま62歳でこの世を去ったという事です。




