なんでも美味~い!!
吉岡正彦は、ごく普通の貧乏舌である。
毎日半額のお惣菜&お弁当をウマいウマいと言って平らげ、毎日ご自由にどうぞと書かれた誰かのお土産をおいしそうに頬張る、齢34の貧乏舌である。
今日も今日とて、お局さんが差し入れた稲荷寿司をめっちゃうまいと言ってコメ一粒残さずに平らげたあと、行きつけのコンビニでドリップコーヒーを2杯と売れ残っていた半額の節分豆を買って会社に戻ろうとしていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
吉岡正彦の魂と…、女神が対面している。
「吉岡正彦さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
────────
吉岡正彦(34)
レベル52
称号:転生者
保有スキル:なんでも美味~い!!
HP:100
MP:2
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「というわけで、いきなり草原に放り出されてるじゃん!!ちょ…夫馬さんにあげるはずのコーヒー勿体な!!グビ、グビ…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…貧乏舌の前に現れた!
「スライムだ!!あ、コーヒー飲む?」
あまりうろたえない、貧乏舌。
「保有スキル…《なんでも美味~い!!》って…なんか食えるのかな??もしかして…こいつ食わないといけない感じ?ううーん、俺、なんでもうまいけどさあ、活け作りとか踊り食いは嫌いなタイプなんだよね」
スライムはもらったコーヒーをぐびっと飲み干した!!
うわぁ!
あっちぃ―――!!
でも…これ、苦くてウマー!!!
「あ、気に入った?俺もこれ好きなんだよね、みんなコンビニコーヒーなんてってバカにすっけど、けっこううまいんだよね!!これも飲む?飲みかけでごめんだけど!!」
スライムは飲みかけのコーヒーを受け取り、今度はちびちび飲み始めた!
「豆も食う?節分豆って意外とうまいんだよね、おやつにピッタリでさあ!」
スライムは分けてもらった節分豆をいただいた!!
香ばしくてポリっとした歯ごたえ…これ、食べたことがある気がする…。
うーんと、なんだったっけな、…そうだ!!
サラサラバアントの卵だ!!
乾期を乗り越えるためにからっからに干からびた状態で冬を越し、梅雨の時期に一気に孵って野良ゴブリンを捕食しまくる種族!!
スライムは美味しいものをいただいたお礼に美味しいものを食べてもらおうと考え、貧乏舌をアリ塚までお連れした。
越冬中のアリ塚をそっと崩し、こそっと卵を拝借して貧乏舌に差し出した。
「うん?くれるの?アリガト~、異世界フードかあ、どんな味住んだろ!モグ、モグ……うん?!これは!!節分豆と同じ味がする!ちょっと野性味あるけど、それがまたワイルドで…噛めば噛むほどにうまみが増してくるのはいったい…うぉお…手が止まらん!!」
そーだろう、そーだろう!!
スライムも一緒になってアリの卵を貪り始めた。
「うま、うま…うん?ぎゃぶギュっ!!!」
夢中になって腹を満たしていたスライムは、おかしな声を聞いた。
貪る触手を止め、ふと横を見ると…貧乏舌が絶命している!!
何やら腹のあたりがもぞもぞと…うわあ!!
なんかアリが腹を食い破ってモリモリ出てキタ━(゜∀゜;)━!!
なんと、噛み潰さずにまるっと飲み込んだ卵が胃液で孵化した模様!!
どう見てもヤバイ絵面が真横で――――!!!
スライムはグロい現実をペロッとまる飲みしてその場を立ち去った。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
貧乏舌は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
貧乏舌はコンビニでドリップコーヒーを2杯と売れ残っていた半額の節分豆を買って会社に向かった。
近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「こーわ!!」
貧乏舌は、なんでもかんでもウマいウマいと言って食べまくっていたところ料理下手がコンプレックスになっていた先輩といい感じになり、姉さん女房をもらって時折ヒドイ腹下しをしつつも幸せな家庭を築き、料理上手に育った息子と娘に美味いものをたらふく食わせてもらえる喜びをひしひしと感じながら年を重ね、じいじは今一番何が食べたい?と聞かれて「ばあちゃんが作ってくれた生焼けのお好み焼きかなあ」と笑い飛ばした翌日デイサービスのトイレで意識を失い、そのまま目を覚ますことなく98歳の生涯を終えたとのことです。




