18歳の誕生日に 【ルーベン視点】
ルーベンとシトラが夫婦になって、2年後の話です。
いつもの様に国王としての仕事を、先代から譲り受けた執務室で行っていた。
……その時、部屋にある機械時計が鳴り、夜中の12時を知らせた。思わず持っていた書類から目を離し、時計の時間を確認した僕は、自分でも分かるくらいに顔を綻ばせている。
そのまま仕事の途中なのに、机に書類を置いて僕は移動魔法を唱えた。目指す場所は勿論、この世で一番恋しい、妻のいる寝室だ。
寝室にたどり着けば、すぐに寝台へ向かうがお目当ての妻がいない。……こんな夜中に、一体どこへ行っている?普段の冷静さを無くして、そのまま妻を探しに行こうと足を進めた。
だが、奥にあるソファに人影が見えたので固まる。そのまま気付かれない様に向かうと、やはりそこには妻がいた。寝落ちしてしまったのか、ソファに座ったまま規則正しい息継ぎをしている。
何故ここで寝ているのか?……その答えは、ソファの前に置かれていた少し歪な形をしたホールケーキと、その上に付けるために用意された蝋燭で悟った。
「……随分と、嬉しい事をしてくれるじゃないか」
明らかに初心者の手作りのケーキ。僕の誕生日を祝う為に作ってくれたのだろう。最近やけに忙しそうだと思ったが、まさか自分の誕生日ケーキの用意だとは思わなかった。妻の目の前でしゃがんで、もう何度も触れた頬に手を添えた。それでもまだ夢の中にいる妻に、僕は軽く笑いながら口付けをする。
軽いものから段々と激しくしていくと、流石の妻も目を覚ましたのか「フゴフゴ!?」と色気もない声を出しながら胸を叩いてくる。でもそんな行動は可愛いもので、僕は妻の後頭部に手を添えて、口付けを暫く続けていく。
長い事続け、漸く唇を離すと、真っ赤になりながら荒く呼吸をする妻は、こちらを恨めしそうに睨んでいた。
「こ、この変態国王め!!呼吸困難で殺す気か!?」
「どれだけ教えても、息継ぎが出来ない君が悪いだろう?」
「そんな器用に出来ると思うな!!」
「君の場合は、僕との口付けが良すぎて、必死になるから出来ないのでは?」
どうやら図星の様で、妻は言葉を詰まらせながら更に真っ赤になった。そんな妻を愛おしく見つめながら、僕は了承もなしに抱き抱える。急に抱き抱えられた妻は驚き、奇声を上げて暴れているが知った事ではない。そのまま寝台へ放り投げると、僕は妻の上に覆いかぶさった。
初めて出会った頃よりも随分と大人になった様だが、相変わらずこういう場面には弱いのか、顔が赤いまま、目線を定められず震えている。何時もの僕なら心配し、そして優しく頭を撫でてやるのだが。震える妻にもう一度軽く口付けをして、翻弄される妻を尻目に、僕は空いた手で妻の足を触った。
その所為で更に震え始める妻へ、唇を少し離した僕は笑いかける。
「今日で、僕は18歳だ」
「………ハイ」
「婚姻して2年経つが、初夜もその後も、ずっと君は「18禁は18歳になってから」と手を出すのを止めてきたな?」
「……………ハ、イ」
「そんな君の意見を尊重して、この2年間僕は、口付け以上の事はしなかったな?」
「…………………ヒャイ」
段々と萎んだ声になっていく妻、シトラ。
少々酷な事をしていると理解しているが、この2年間生殺しされ続けた僕よりはマシだ。
18禁だが何だか知らないが、彼女は僕が18歳になるまで繋がる事を拒んだ。どうやら転移前の世界がそんな法律らしい。その為口付けまでは許しても、それ以上は拒まれる生活で、僕との口付けで煽るような表情を見せる彼女に、どれだけ歯痒い思いをしただろうか。
だがそれも今日で終わりだ。首を長くして待った誕生日。僕は18歳となり、もう恋しい人に拒まれる理由はない。本当に長かった。何度襲おうと思ったか数え切れない。
足に触れ、そして次には両手で両足を掴み、外へ開く。
「この2年間、よくも煽ってくれたな。……精々、僕を受け入れてもらおうか」
そのまま深く触れようとする僕に。彼女は真っ赤な顔をして潤んだ目で、唇を噛んで小さく頷くものだから。
……どれだけ煽らせるのだと、思わず舌打ちをしてしまった。
◆◆◆
目の前に、逞しい体を曝けながらソファに座り、手作りのケーキを嬉しそうに食べる夫、ルーベンがいる。
こんな可愛らしくケーキを頬張っているのを見ると、つい先程まで獣の様だった彼が、夢ではないかと錯覚してしまう……が、現在私は、腰痛でソファから体を起こす事ができないので、やはり夢はない。チクショウ。
本当に君は童貞だったのか?何故あそこまで女性の弱点を知っているんだ?ゲドナ王室ではそういう事も習うのか?聞きたい事が沢山あるが、流石に今日誕生日の彼にそんな事を聞くのは止めよう。
暫くするとケーキを平らげたルーベンは、こちらへ美しく微笑んだ。
「シトラ、素晴らしい贈り物をありがとう」
「いえいえ!来年はもっと美味しく作るからね!」
「それは楽しみだ」
このまま、たわいもない会話を続けてから、暫くして朝の支度をすると思っていた。……しかし、ルーベンは段々と熱を持った瞳で見つめてくる。………その目は、昨夜嫌という程見たもので、思わず腰の痛みを忘れて立ち上がり、ルーベンから離れようとする。けれどその前に、手を強く掴まれ、逃げようにも逃げれなくなった。
「さぁ、休憩も終わった事だ。続きをしよう」
「つ、続き!?」
そのまま強く引っ張られ、されるままにベッドの上に倒れる私に。ルーベンは爽やかに笑いながら覆いかぶさる。
「今度は、もう少し凝った事がしたいんだ」
「こっ!?」
「勿論付き合ってくれるだろう?」
何せ誕生日なのだから。と付け加える夫の色気に充てられながら。
私は、熱がこもる顔のまま、小さく肯定する様に頷いた。




