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幸せにしてみせよう。【アイザック視点】




あの後、「思い立ったが吉日!」と言いながら、シトラは俺を引っ張り国王陛下に謁見した。ジョージに俺と婚姻を結びたいと目を輝かせて伝えている彼女に、あいつは今まで見たことがないほどに大笑いをして許可を出していた。


それが終わればすぐにハリソン公爵家へ連れて行かれ、ハリソン公へ婚姻の許可(というか陛下からの勧告書を渡しているので、もはや命令だが)を得た。……あの時の、俺を見るハリソン公の顔は一生忘れないだろう、俺よりも非力な人間のはずなのに、異常な殺意に俺は震えた。


「じゃあ次はペンシュラ家に行って、リアムに叔父さんと結婚するっていうでしょー?んでその次はノアのお墓に報告してー」


次やる事を呟きながら、彼女は俺を引っ張る為に握る手を離さない。……俺は、ずっとずっと求めていたものが、ようやく叶う癖に妙に冷静だった。

思わず立ち止まり、前を進むシトラを止める。彼女はどうしたのだと首を傾けるが、そんな彼女に、俺はどうしようもない顔を向けた。


「君と俺の婚姻は、皆に望まれていないんじゃないか?」


そう、俺は彼女を二度も刺して、一度目は命を奪っている。今は彼女の温情で王弟でいられているが、それでもその事実は変わらない。周りの愛を一心に受けている彼女と、そんな彼女を傷つけた男との婚姻なんて、飛んだ笑いものだ。


吐き出した言葉に、シトラは首を傾げたまま、どこか遠くを見ながら考え込み始めた。……暫く経って、怪訝そうに俺を見つめる。



「望まれてないからって、何か悪い事あるの?」

「……え?」

「そんな事言ったら今の私の存在だって、国に求められてないのに生き返って、特に国の為に聖女の力も使わないで生きてるよ?全然望まれてないよ私?」

「……それは」



彼女が俺を握る手が強くなる。そのまま彼女は僕を再び引っ張る様に歩き出す。


「望まれてなくて上等!反対の声があれば説得すればいいの!」


目の前の彼女は、こちらに振り向いて笑顔を向けた。






「だって私、アイザックと本当の家族になりたいんだからさ!」




俺は、気づいたらシトラの腕を引き抱きしめていた。胸の中に収まってしまうほどの小さな彼女に、俺はどうしようもないほどに愛おしさが込み上げる。


シトラは最初こそ驚いて、顔が赤くなっているのか胸の中にある頭が熱を出していたが、それでも大人しく抱きしめられていた。俺は先ほどから、もう何度目かもわからないため息と共に、小さく呟く。


「……いいのかな」

「えっ、何が?」


顔を上げてこちらを見上げるシトラは、やはり頬が赤くなっていた。そんな彼女の頬に手を添えて、頬に濡れる感触を感じながら、俺は無理やり笑いかける。


「俺、君と幸せになっていいのかな?」

「……………」




大きく目を開ける彼女だったが

……暫くすると、かつて俺の聖女だった頃と、同じ笑顔を俺に向けて、元気よく声を出した。




「せいぜい、幸せにしてやるよ!!」















ハリエド国には、有名な御伽話がある。

建国の聖女を愛した精霊が、病死した聖女を何百年とかけて蘇らせ、そして結ばれる話。


「でもこれって!なんか隠された話があるらしいわよ!」

「知ってるわ!実は病死じゃなくて殺害されたんでしょ!?」

「あら!私は精霊の方が殺されて、聖女が蘇らせたと聞いたけれど?」

「あたしは、聖女がものすごい男を虜にして国を征服した話を知っているわ!」

「……やっぱり噂は噂なのかしらね?」

「うーん、でも………精霊と聖女様は、どの話でも幸せな結末だからいいじゃない」

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