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王弟殿下に毎度ドタキャンされる未来【シトラ視点】

アイザックとシトラの物語です。



500年前の建国より王弟殿下は必ず存在し、そして国王陛下を支える右腕として歴史に名を残している。だが、歴代全ての王弟は突然「病死」で急死している。……まさか、建国当時から王弟はずっと同じ精霊で、国を支えていたなんて誰も思わなかったんだろう。


そして今、私の目の前で、目に隈を付けながら、机にある大量の書類を見ている銀髪金眼の男。建国当時よりこの国を支えてきた王弟殿下であり、私を二度も刺した男、アイザックがいる。やつれた表情でさえ色気と神々しさを醸し出す絶世の美男は、書類を一度置いて、申し訳なさそうにこちらを見る。


「……申し訳ございません、シトラ様。今日出掛けるのは難しそうです」

「社畜……」

「シャ……なんですかそれは?」

「いやいやなんでも」


私を召喚、じゃなくて蘇生して一度王弟の身分を剥奪され、なんやかんやあって再び王弟となり、そして500年前と同様に再び私を殺そうとした事で、ただでさえ仕事量が多かったのにそれが三倍になったのだが。あの事件からかれこれ4年となり、多少は仕事量が減ったらしいがそれでも多い様だ。……あの国王、精霊だから過労死しないと思ってないか?パワハラすぎないか?


聖女シルトラリアだった頃の記憶が戻り、かつての付き人であり友、家族でもあったアイザックとノアの墓参りも兼ねてピクニックをしたいと何度も何度も誘っているが、毎度この社畜の仕事が終わらずに延期を繰り返している。私は大きく溜息を吐いて、持っていたバスケットを、アイザックの執務机の前にある来客用のテーブルに置く。そしてバスケットを開けて、そこからハムとレタスを挟んだサンドウィッチを一つ取り出す。


「しょうがない。でも折角作ったから食べてください」

「本当にすいません……有難うございます」


そう言って再び資料を持ち、空いている手でサンドウィッチを受け取ろうと手を伸ばしてくるが、私はそれを払いそのままアイザックの口元へ持っていく。唇に触れるパンの感触に、アイザックは呆然としてしまっていたが、すぐに理解して耳まで赤くなっていく。パンと、そして目の前の私を交互に見る。


「えっ!?シ、シトラ様!?」

「忙しいんですよね?どうぞどうぞ口を開けてください」


私は眉間に皺を寄せながら、動揺するアイザックを見つめる。流石にこう何度もドタキャンを食らうと、仕事大変そうだな〜を超えて怒りが出てくるのだ。世の中の女性が「仕事と私どっちが大事なの!?」と言う気持ちが分かる。……まぁ、私とアイザックは恋人ではないが。……ちょっと、ちょっとだけそんな想像を考えて、いないと言えば嘘になるが。


アイザックは観念したのか、唇を震わせながら口をゆっくりと開くので、私はそこへサンドウィッチを運ぶ。彼はそのまま、目線を逸らしてそれを咀嚼し飲み込む。なんだかいやらしい事をしている様に思えてしまうのは、おそらくこの男の顔面故なのだろう。見慣れている私じゃなかったら、この場面で鼻血を出して倒れていたはずだ。私はにっこり笑って見せる。


「美味しいですか?」

「…………とても、美味しい、です」

「そうですか〜!まだ沢山ありますよ!」


そう言って私は、なんなら全部食べさせてやろうと鼻歌を交えてバスケットを持ち上げていると、知らぬ間に後ろに立っていたアイザックにより腕を掴まれる。突然の接触に驚いている間に、私は腕を引っ張られ、今までアイザックの座っていた椅子に連れてこられた。そのまま座ったアイザックの膝の上に乗せられる。


絶世の美男が頬を赤く染めたまま、眉間に皺を寄せてこちらを見る。その破壊力と顔面の近さに私まで顔が赤くなってしまう。


「俺だけじゃ申し訳ないので、シトラ様も食べてください」


そう言って、バスケットから取り出されたサンドウィッチを口元へ持ってくる。先ほどまで私がしていた事をやり返されて、私は赤い顔のまま口を引き攣ってしまうが。元々の負けん気の強さなのか、やられっ放しは癪で、ええい!どうにでもなれ!と思いつつ強く目を瞑り口を開く。そのまま運ばれるサンドウィッチを口に含み、急いで咀嚼し飲み込む。それを穴が開きそうなほどに見つめていたアイザックは、全て見終えると艶やかな笑みを向ける。


「……かわいい」

「うぎぇ!?」


その美しすぎる笑みと色気のある声に、私は令嬢らしからぬ奇声を出してしまう。今すぐ逃げ出したいが片腕が腰に回されておりアイザックの膝の上から逃げられない。誰か!ウィリアムと同じくらいの変態の、顔面の暴力もする精霊がここにいます!助けて!!


そんな私の心境を知ってか知らずか、アイザックは色気しかないため息を出して私の胸に顔を埋める。アメリアの様に豊満なものを持っているわけではないし、むしろ硬いのではと思ってしまうが、熱いため息を何度もするものだから胸がむず痒い。何度目かのため息の後に、か細く声を出す。



「シトラ……俺、君の事二回も刺したんだけど」

「え?ああ……そうだね、すっごい痛かったね」

「いや、それは申し訳ないんだけど。そう言う事じゃなくて」

「……うん?他に何かあるの?」



何を言いたいんだこの男は?と頭をかしげていると、アイザックは顔を埋めていた胸元から、上目遣いでこちらを見る。その欲情を含む熱っぽい目線に、思わず喉を鳴らしてしまう。


「……俺は、君が自分のものにならない嫉妬と執着で、二度も手にかけたんだけど」

「…………」

「絶対忘れてただろ?……俺は、君が好きで好きで、狂ってる男だって事」

「…………」



思わず呆然とアイザックを見てしまう。そういえば、一回目に殺された時も、アイザックはそんな様な事を言っていたんだった。けれど一度目も二度目も、終わった事だと思っていた。ああ、そうか……そう言えば、殺された事だけ覚えていたが、どんな理由かだったのかを忘れていた。

どうしたもんかと呆然とする表情で、頭だけフル回転で次の言葉を考える。……今更だが、自分を好きだと言っていた男に、数年前には家族として愛してるよ!みたいな事を言った挙句、返事をあやふやにしたまま数年経過してしまった。なんて最低な女だ私は。


……特に、今恋焦がれる相手も、婚約者もいない。最近では独身の女性も、適齢期も遅くはなっているが、特に聖女の力以外才能もない私は、公爵令嬢として誰かと結婚をしなくてはならないのは変わらない。……それならば、ここまで想ってくれている、心を許している男と本当の家族になってもいいのでは?


「…………結婚するか」

「……え?」


思わず呟いた言葉にアイザックは変な声を出しているが、その言葉を自分で発していて、抵抗もなくすんなり受け入れている自分がいる。私はそのままアイザックの両肩を掴み、信じられないものを見ている様な彼にもう一度伝える。




「アイザック、私と結婚しよう!」




肩を掴まれた目の前の男は、しばらく思考を停止しているのか真顔でこちらを見ていたが、数分後目に涙を浮かべるほどに顔を真っ赤にして叫ぶ。……何故叫ぶ?

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