確かめ合う (E)
ショーンがエリアルドに私的な話をしてきたのは、庭でお茶の時間を過ごした数日後の事だった。
「エリアルド」
殿下とつけない呼び方に、エリアルドは話の内容を察して目で問うた。
「察しの通り、フェリシア妃殿下と話をしてきた」
ショーンの上辺だけの笑みさえないその表情にとてつもなく嫌な予感がひしひしと押し寄せる。
「それで?」
出てきたのは、感情を一つも挟まない己の声だった。
シンと冷えた思考はショーンの言葉の全てを、一語一句漏らさぬように真さらになったかのようだ。
「妃殿下はやはり、エリアルドとカーラの噂を知っていた。それでこの冬の棟へと招き入れるつもりだった。何のために……か想像がつくか?」
「何のために、だと?」
ショーンの口ぶりからすると、フェリシアの言うように単に彼女の話し相手という事ではない。
すなわち、噂を真に受けて彼女がしようとしたことには、エリアルドは信じたくない気持ちがあるが、妙に冷静な思考は正解を導きだしている。
エリアルドはベルを鳴らした。
ほどなくしてやって来たのはハリーで
「女官長を」
ハリーの口を開くのも待たずに、一言だけ命じた。
「よくわかった……。ショーン、ようやく………冷静になれたよ」
年若い、守ってやらなくてはと思っていた妃であり大切な人は、エリアルドをほんの少しも信じていなかった。
噂を信じて、エリアルドに聞くことさえせずに。
恋愛ごとに疎いと自覚はあったが、誠実に対応してきたつもりだった。なのに、それは1㎜たりと伝わっていなかったというのか?
黙りこんだエリアルドを、ショーンもまた言葉もなく見つめていた。シンと静まる室内に、懐中時計の時を刻む音だけが唯一でまるで、時の止まった空間にいるかのような錯覚を起こさせる。
全く動かないエリアルドを動かしたのは、扉をノックする音だった。
「どうぞ」
「お呼びでしょうか」
入ってきたのは呼びつけた女官長である。
「確かめたい事がある」
「はい、わたくしで分かることならばお答え致します」
「王太子妃から、カーラ・グレイ侯爵令嬢を王宮に招こうとしていた事は知っているか?」
「はい、存じ上げております」
「それで、女官長はその為に何らかの準備をしていたのか?」
「はい、冬の棟の一室に滞在されるための部屋をご用意しておりました」
「それを命じたのは王太子妃、という事で間違いないか」
「はい……ですが、グレイ侯爵家よりはお断りのお返事が」
「聞いている」
「あの……殿下……」
「確かめたかったのはそれだけだ。下がって良い」
「妃殿下は今は……」
「下がって、いいと言った」
「は、い」
女官長はまだ告げたそうにして
「殿下、お怒りでしたらそれはどうぞこのわたくしに」
「それには及ばない。王太子妃に、直接話す」
とりつく島もないエリアルドに、女官長はそれ以上は何も言わず一礼して退出していった。
「エリアルド」
「仕事を続ける」
「相手は年若い女性でそして、お前の子を身籠ってる」
「わかっている」
「話をするだけだ」
その日、全ての意識を仕事に向ければ、いつになく捗った気がした。




