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王妃の階段  作者: 桜 詩
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清らかな人

セント・バーバリー修道院に慰問に訪れたのは本格的な冬になる前であった。

フェリシアの乗る馬車には王太子妃の百合の紋章がついてあり、一目で身分がわかる立派なものである。この日はフェリシアだけでなく、女性近衛騎士のジェインとクレアがついてきており馬車の隣を並走している。


王都で一番大きなそこは、王妃の管轄にあり、女子修道院と孤児院を併設している。院長である アラステアとい年齢不詳な男性が出迎えてくれた。


清潔感のある建物もそれから子供たちの元気な声が響いてくる。大きな声で楽しそうに歌っていた。


「楽しそうですね」

「ええ、妃殿下。この冬は グレイ侯爵家のレディ カーラがしばらく滞在して下さり、子供たちに音楽を教えて下さっております」


「レディ カーラが…」


「本当にいつもこまめに訪問してくださる、お優しい方です」

「彼女は目が…」

「ええ、そうですが、それでも自分に出来ることは何かないかと…こうして、子供たちにピアノを弾いてくださってます」

「そうですか…、お優しい方なのですね」


レディの役割として、こういう施設に慰問や寄付は進んでするべきとあるが、なかなかカーラの様に振る舞う事は難しい事だと思える。


アラステアの後について歩いていくと、ピアノの周りに子供たちが集まり、カーラが楽しそうに弾いて一緒に歌っていた。

カーラも子供達も表情は明るく笑い声がまるでキラキラと輝くようなそんな感覚をもたらせる。


「素敵な光景ですね」

「ああして来てくださるのも、妃殿下の様に子供達のために服を作ってくださる事も私たちにとってはとても嬉しくありがたいことです。もちろん、ここを維持してくださってる王妃様には感謝しております」

子供たちは楽しそうだし、女性たちは一生懸命働いていた。


どこかで、こういう所にいる子供たちは親がいないから暗くて、泣いていたり、やはり訳ありの女性たちが多いであろうから、彼女らは辛そうなのではないかと思っていた。


「みんな、楽しそうですね」

「大変な事があっても、時が解決するときもあれば、笑顔を無理矢理でも作ることで、楽しくなることもあります。みんなそれぞれ色んな想いを抱えながら笑顔を忘れずに頑張っているのです」


彼の言葉はしっとりと、フェリシアの胸に落ち着いてくる。


カーラは立派なレディで…。

きっと辛いことがあっても、懸命に出来ることを探しては笑顔を見せている。


(なんて…心の清い人…)


この人を愛さずに誰がいられるだろう?美しくて…そして聡明で…清らかな心の持ち主。


「中へ入られませんか?」


「…いいえ、ここで。見させていただくだけで充分です。それにこんなに愉しそうなのに、邪魔は出来ません」


王太子妃がその中に入って畏まらせてしまって空気を壊したくは無かった。

何よりもカーラの前に立って自分の醜さを思い知りなくなかった。

彼女を妬み、心から微笑むことの出来ない自分を彼女自身に知られてしまうのではないかとそんな懸念を抱いてしまったから。


目の前の彼女らは輝き、フェリシアはまるで冷たい影にいるようなそんな錯覚を覚える。


女子修道院の方へ向かえば、女性たちはフェリシアを見るとお辞儀をして敬意を示してくれる。

フェリシアはそれに笑みを向けて、一人一人に声をかけた。


皆、それぞれが今自分がしなければならないことを懸命にこなし、明るく力強く働くのを見れば、慰問に訪れたはずなのにフェリシアこそ力を貰えたのだ。





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