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王妃の階段  作者: 桜 詩
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ほしいものは時間 (E)

 社交シーズンの締めくくりに、エリアルドとフェリシアの婚礼は、国中からの祝福を受けて行われ、フェリシアの花嫁姿はこの上なく美しくパレードを見た人々は感嘆の声をあげた。



 エリアルドはしかし、婚姻はしたがフェリシアの寝台にはまだ上がってはいない……所謂、白い結婚を貫いていた。


「婚礼からはや一週間ですが……どういうおつもりですか?」

侍従のハリーの声に、エリアルドはとぼけようとは思わなかった。


「……フェリシアはまだ16歳だ。結婚まで瞬く間にきてしまった。だから……ゆっくりしてもいいだろうと、いう私の判断だ」

「お言葉ですが、16歳は確かにお若いですが結婚可能な歳であり妃殿下自身も、覚悟の上で来られてる様に思えますが?」

ハリーのいうように、フェリシアはすべて決意をしてエリアルドの妃として嫁いできた。しかし、それゆえにだ。


「ハリー、そんな事は私だって理解してる。だが……しばらくはなにも言わずにいて欲しい」



やはり……密室内の事とはいえ内情が近しいものには知られているらしい……。

王太子であるエリアルドの、その後継者の誕生は一国の大事でもある。しかし……今の状態で、フェリシアを無理矢理奪うかのような事はしたくなかった。


「そのお言葉を信じておきますが……必要なお役目だとご理解してくださってるのでしょうね?出来れば一服盛るような事はしたくないのですが?」

「それは絶対にやめろ」


自分の意思でもってでなくては、絶対に嫌だった。

「では……そうはさせないように……」

「ハリー。それは過ぎた干渉だ、役目なら分かってる。その上で改めて命じる。何もするな」

きっぱりと強めに告げたエリアルドにハリーは恭しく頭を下げた。


確かに……。

エリアルドたちの次の世代となる、王位を継承する男子は待たれている。だが……、ギルセルドもいればウィンスレット侯爵家には、ジョエルやマリウスという若い継承権をもち……エリアルド自身は焦ることはないと思っている。

それよりも……、重責を担うフェリシアに少しでも心安く居て欲しいとその願いが強くあった。


ブロンテ伯爵家は仲が良く、朝食は共に摂っていたと聞いてエリアルドは同じようにこの冬の棟でも過ごせるようにと思っていた。


社交的な会話となれば、身についたそれはそつなく口をついてでる。しかし、24にもなっているのに立場上特定の女性と親しくしてこなかったエリアルドには、年の離れた妻であるフェリシアとどういう会話をすれば良いのか、がわからない。


こういう不器用な所は父親であるシュヴァルドに似てしまったのかも知れない。

二人きりのテーブルと、そして周りには給仕する従者たち。

当たり障りない会話を終えてしまえば、ゆるりと時が過ぎ行くだけだった。


(いっそ……知らなければ)


フェリシアが誰かを思っている事など、気がつかなければ……。

名も顔も知らぬ相手に、じりじりと苛立つような心地さえしてしまう。


しかし……どの行動にもあるのは……、嫌われたくない。

その思いゆえに、エリアルドは焦れったいほど大人ぶって紳士らしく振る舞うために、どの時を過ごすよりもフェリシアといるときは、神経を使っていた。


「エリアス」

こう呼ぶのは、エリアルドの母クリスタだ。


「お茶でもしながら少し話しましょう」

微笑むクリスタは、美しく、完ぺきな王妃だ。

性別の差はあれど、エリアルドはよく似ていた。


その口ぶりから、これは叱責かな?と心中で苦笑いが出てしまう。


「母上のお誘いなら断る理由はないでしょう」


王妃のガーデンのローズガーデンは美しく、そして静かである。

「情けないこと」


前置きなく、責める言葉にエリアルドは危うく目を見開きそうになった。

「それは力不足で申し訳ありません。努力しましょう」

「貴方は頑張っています。完璧な王子です、今だって露ほども動揺が現れもしない」

「……完璧な人などおりません」

「そうよ、人としては完璧ではない」


「何が仰りたいのですか」

「フェリシアとの事です。分かってるでしょう?言いたいことは」

「……私たちの事は、暖かく見守ってくだされば幸いです」

「貴方はそれでいいかもしれない。でも、フェリシアはここに来たばかり、王太子妃としてきちんと務めて居場所を整えたいはずです。その事がエリアスには分かっていない

フェリシアは、若くても王太子妃です。そしてその教育をきちんと受けてきています。覚悟が足りないのはお前です、デビュー間もない令嬢を迎え入れたのですから、覚悟を決めて男らしくきちんと導きなさい」


つまりはうじうじと男らしくないと、いう叱責だ。

「母上の仰る事は、わかりました。お話は以上で?」


「ええ」

エリアルドは、やや気持ちは憮然としながらテーブルを離れて立ち去った。


珍しくエリアルドは苛立っていた。

二人の事はもう少し放っておいてくれないだろうか、と。そのほんの少しの期間さえ与えられないのかと。



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