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王妃の階段  作者: 桜 詩
23/59

敵は鮮やかに笑う

エリアルドが、フェリシアに執心しているという噂はまことしやかに広まっている。何故なら一番一緒に多くいるからだ。

例えば、朝の散歩を、昼のお茶を、乗馬を…。


そして、フェリシア自身は相応しい教養を身につけていると、日々知らしめなければならなかった。

まずは、立ち居振舞い。常に見られている意識を持って、一人でいるときも気を抜かずにいた。

そして、外国語はエリュシア語、フルーレイス語、セルリナ語と交流のある主要国の歴史や関連する、王宮にしかない本を読んだ。

令嬢なら出来る、ピアノやダンスもレッスンを欠かさずに過ごした。だから、王宮でのフェリシアの振る舞い方はきっと、完璧な令嬢として人々の目に映ったはずだ。


それもそのはず…両親は…そのように教育をしてきたのだから。




そんな中フェリシアは晩餐を同席した時に、そっとメモを渡して、翌朝早朝の温室にアイリーンを呼び出した。


待っていると、コツっと靴音が耳に入り、


「私を呼び立てるなんて、けっこうなご身分ねフェリシア」


名前を呼び捨てるのに含みを感じる。

アイリーンは朝のドレスをきっちりと着た隙のない令嬢の姿。


「一言……お礼を言いたくて。貴女が殿下に伝えたことを」

「……別に、貴女を助けたくてした訳じゃないわ」


アイリーンはフェリシアから顔を背けた。


「私はね、両親が大嫌いだから、あの人たちの思惑通りに運ぶのが許せないの」

「レディ アイリーン……!?」


「だからって、貴女と馴れ合うつもりは全くないわ。どこに、父の目があるか分からないから」


フェリシアはハッとした。

「いい?フェリシア、私は貴女と対立しているのよ。そのつもりで振る舞って」


「わかったわ…そうね…」


アイリーンにはアイリーンの、立場とそして意図がある。

詳しくは聞けないけれど、そういうことだ。


アイリーンはもしかすると、今、とてもフェリシアと近くて、そして反対側にいる立場なのかもしれない


「せいぜい、頑張るのね貴女も」


美しい微笑みにフェリシアも微笑んで返した。


「アイリーンこそ」


「貴女に言われる必要はないわ」


アイリーンはそう言うと、颯爽と元来た道を歩いていく。



***



王宮での暮らしが一月ほど続き、隙間時間に少しずつしていた複雑な紋様の刺繍は完成し、その生活にも馴染んだ頃、シュヴァルド王の執務室に、フェリシアは呼ばれた。


正面の椅子にはシュヴァルド王が座り、背後には宰相のベルナルド・ウェルズと、それから側近たち。そして、エリアルド。

その面々にフェリシアは気を引き締めた。


「春に、大舞踏会がある」


いきなりの言葉にフェリシアははい、と頷いた。


「そこで、エリアルドとの婚約を発表する」

「慎んでお受けいたします」


フェリシアは身を低くして正式なお辞儀をした。


急に…こんな風に進展するなんて、なにかがあったのだろうか?

そう思い伺うように見ると、


「君に実害はなかったはずだが、カートライト侯爵側の様々な画策の証拠を掴んだ」

ベルナルドがそう言った。


彼のいうように、フェリシアの日々はとても平穏だった。それはエリアルドが言った通りに守ってくれていたから…。そして、その証拠にして手を引かせたのだろう。


「これ以上何かをすれば、表沙汰にせざるを得ない。そうなれば地位はなくなるだろう。どちらをとるかはあちら次第、発表すれば君は王家の一員というべき存在だ」


新政派を抑える布石が整った。

つまりは…分かりやすい敵であるフェリシアをエサに、新政派の尻尾を踏んだということか…。


さすが…鮮やかな手口である。


「他の候補者も、君も一度家に帰らせる事となった。次に…来るときは…妃の部屋で」


エリアルドが微笑みを向けた。


「待っているよ」


ついに…やって来る…。その時が…




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