暗躍 (E)
事実、アイリーンの忠告通りに狙われたフェリシア。
彼女を護るなら、エリアルドの目の届きやすい範囲で、となると王宮に滞在させたい所だが……それを王宮のプライベートエリアで相談をする。
「フェリシアだけと言うのは如何なものか……」
シュヴァルドはほとんど無表情ながら、息子であるエリアルドには渋面が見てとれる。
「アイリーンとエリー・マクラーレンも呼びましょう、それなら前の妃選びと同様の3名に絞ったと公言出来るわ」
クリスタが言い、アイリーンはともかくエリーを利用するようで心苦しくもあるが……。
「エリーは侯爵家の娘です。そういう事はわかってるはずよ」
あっさりとクリスタが言い、その思い切りの良さに改めて女性の強さというものを思い知る。
「……カートライト家はスキャンダラスな埃だらけだが……押さえ込めるか……」
シュヴァルドの言葉にアルベルトが瞳を煌めかせた。スキャンダル……カートライト夫人の不貞の証拠。それにナサニエル自身の事。それは……求めればすぐに手に入る。しかし、それを出してしまえば、こっそりと伝えてくれたアイリーンを傷つけかねない。
「……証拠の一つや二つ……つくって見せますよ」
エリアルドの言葉にシュヴァルドは頷き、アルベルトは黒い笑みを浮かべた。
「お手並み拝見、といくか」
三人の令嬢の迎え入れの準備はクリスタに任せる事にして、エリアルドはまずは、フェリシアの元へと向かったのだった。
お忍びの様相で向かったエリアルドは、昨夜の無事を知ってるとはいえ、フェリシアの凛とした姿に……しかしその中に、無理を感じ取って胸が痛む。
しかし……もはや逃れさせてあげる事は出来ない。
会う度にエリアルド自身が彼女を手放せそうになくなったからだ……。
***
「だからって……また変装して動くとか……。必死か」
ジャックに笑われて、エリアルドは憮然とした。
必死と言われればそうなのだろう。
フェリシアを護りたいし、早く落ち着いて向き合いたいという焦燥感がありいてもたっても居られない……。それを必死と言うのならそうなのだ。
時間を作ってはジャックの仕事にくっついて行くエリアルドにジャックは呆れがちだ。
「兄上……、少しは休まないと体に障る。俺が代わる」
ギルセルドも同じように黒騎士の姿に身をやつせば、二人はよく似ていた。
「あまりにも上がこそこそ動き回りすぎると、落ち着いて仕事が出来ない。どっしりして……いつものように」
「……わかった……」
「こっちに動き回るより……大事なお姫さまの近くにいて護ってろ……俺らの行動は、あんたの手と足だ。自由に使え」
ジャックにさえ言われて、エリアルドは頷いた。
「頼む……。証拠が難しければ……でっち上げてもいい」
「心得た」
ニヤリと口を笑みの形にしたジャックと、そしてギルセルドが連れだって去っていくのを、悔しい気持ちで見送った。
しかし……彼らの言うことももっともだというのも事実だった。
王宮の春の棟には、フェリシアとアイリーン、それにエリーがそれぞれ入宮していた。
まずは危険を犯して伝えてくれたアイリーンに話を聞くべきだ……。
目立たないように話をするには……どうするべきかと悩み、これはストレートに一人ずつ挨拶をする、という体裁を整える事にした。
まずは年長で侯爵家のエリーの部屋へ。
大人しげな容貌と、内気ながらもしっかりとしたエリーに言葉を交わし、続いてはアイリーンの元へと向かった。
「アイリーン、先日の舞踏会は素晴らしかった」
どこかにナサニエルの目があるかも知れず、警戒しつつの言葉だった。
「こちらこそ……このようにお招き下さってとても嬉しく思います」
「……それは良かった。楽しい日々を過ごせるよう……私たちも心がけている。何か不自由があれば何なりと」
アイリーンは微笑んで
「ここに来れただけでも……ずいぶんと楽しめそうですわ、殿下」
思わせ振りな言葉に、エリアルドは笑みをもって対応した。
アイリーンの本音は……どこにあるのか……。
ナサニエルはアイリーンをエリアルドの妃にして、実権を握りたい筈だ。だがアイリーンの瞳にはそのようなそぶりは見えない。
「では……また」
試しに、手を軽く唇をつけるふりをした。
なるほど……アイリーン自身は妃の座を望んではいないらしい……。
礼儀をわきまえたやり取りの中でエリアルドはそう結論づけた。
(親の思いと娘の思いは……違うと言うことか……)
忠告をしてきた事といい、アイリーンの意思は明らかだ。
少なくともフェリシアをアイリーン自身は殺すのか傷つけるかしてまで排除しようとはしていない。
「殿下、これはいつまで……続けられますか?」
「……私が、納得するまでです。ただ……長引かせない……とはお約束をします」
「その時を楽しみにしています」
エリアルドはその言葉に軽く頷いて、アイリーンの部屋から立ち去った。




