ep19
お待たせして申し訳ありません。続きです。
あと、前話の最後に若干加筆があります。
【前回のあらすじ】
杏子の点数がやばいことになってた。
井上がボロ雑巾になった。
「今日は……とても良い天気ね」
机に両肘をついて手を組みながら、杏子は青々とした空を見上げてそう言った。
すこぶる健やかな表情をしてらっしゃる、俺とは大違いだ。
「そういえば、来週球技大会があったわね、楽しみ。2人もそうは思わない」
「「思わないなぁ……」」
少なくとも俺と薫が手に持つ杏子の解答用紙を見た後にそんな楽しい気分にはなれそうにもない。と言うか杏子、お前はなっちゃだめだろ。
「杏子ちゃん、現実から目を背けないで?」
「……」
容赦ない薫の追撃に杏子はその目から光を失う。
そしてギギギとぎこちなく首を前に戻した後に机に額をぶつけながら突っ伏した。ゴンと鈍い音が教室に響き渡る。
「お前、これはヤバいだろ……」
先日、杏子の家に行って両親を抑え込んできたばかりだが……これはダメじゃないか?
抑え込むといっても、俺が杏子の学力を引っ張り上げると確約して、それに杏子の両親が納得しただけなのだけども。
ほぼ全教科赤点はマズイのではなかろうか。
「というか中学の時はここまで酷くなかっただろ」
素朴な疑問だが、さすがに高校とはいえまだ一年の最初の中間、まだあまり難しくはないはず。中学のときの杏子は真ん中……の少し下あたりだったように思っていたんだけど。
「ほ、ほら、前に月乃がまだあんまり難しくないなって言ってたじゃない?」
「言ったな、多分」
「だから勉強しなかったの……?」
「すみません……」
「「えぇ……」」
難しい難しくないの前にテスト勉強はするものではなかろうか。
発想が完璧に頭が悪い学生の発想になっていってるなぁ、これは勉強の前に意識から変えていかないとダメかもしれない。
「何が良い天気だよ……空は青くても点数が赤いとダメだろ……」
ボソリと漏れた俺の言葉に杏子の肩が震えた。
「お、なんだ。夕焼けの話か?」
重苦しいムードになっていた俺たち3人の中に入ってきたのは井上だった。
テストが全部返ってきたこともあってか、他のクラスの連中の大半と同じく清々しい顔をしていらっしゃる。
杏子は井上が来た瞬間、すぐさまに顔を上げ、キラキラとした視線で井上を見つめた。あ、あれは……期待をしている目だ! 井上は自分と同じような境遇であることを期待しているのか……!?
「て、点数……」
「んぁ?」
「あ、アンタの点数は……?」
「点数、テストのか?」
杏子の状態に若干引きながらも井上は「どうだっけかなー?」と思い出そうと頭を捻る。息が荒くてにやけている杏子はどこか変態っぽかった。
「詳しい点数は忘れたけど、取りあえず平均点は全部超えてたぞ」
ピシッという音ともに杏子が石になったような気がした。
「お前そんなに頭良かったっけ?」
「井上くんが……意外だね〜」
「2人とも酷くない? 俺の印象どうなってんの?」
「「頭が弱いスポーツマン」」
「酷くない!?」
井上に2人して冗談を良いながら盛り上がる。杏子はもう放っておこう。
「へい、きん、てん」
途切れ途切れにそう聞こえた方に視線を移すとそこには影を背負った天笠がいた。そういえば杏子の前の席だった、存在感が薄くなってて全然気が付かなかったぞ。
「どうした天笠、お前も杏子と同じような点数なのか?」
笑いながら、冗談で……冗談で言った、つもりだったんだ。
ビクッと震えた天笠を見て、俺の表情は死んだ。
お前もか、お前もなのか、天笠。
「あぁ、こいつ頭悪いからな」
「止めて! もう僕のライフはないの!」
顔を覆ってそう叫ぶ天笠、バサリと床に落ちた数枚の解答用紙に刻まれた数字は、杏子ほどではないにしろ、良いものではなかった。
「仲間ね」
杏子、天笠を見て元気になるんじゃない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えーでは、来週の球技大会での――」
HRの最中、2人の進行委員が教壇の上に立って、各種目の選手を募る。種目はほとんど男女に分かれていて、分かれてないのはソフトボールくらいだった。
女子が出られる種目は、ソフトボールとテニスとバスケの3つか。男子はあとサッカーが追加されている。サッカーか、そういえばあまりやってないな、ずっと男子を避けざるを得なかったし、遊びでサッカーできるほどの女子はいなかったし、仕方ないといえば仕方ないか。
「どうしよっかな〜」
隣で薫が頬杖を突きながらそう言葉を漏らす。
薫以外の女子もあまり乗り気じゃないみたいで、大半は興味なさげに周囲の友人と話しながら適当に決めている。
「薫って別にスポーツ苦手じゃないだろ?」
「うーん、まぁそうなんだけど、あんまり激しいのはちょっとね……」
そう言った薫はそこで言葉を切って、俺の耳元で小さく「痛いの」と顔を若干赤らめながら言った。
痛い? 何が。
「なんだ? 筋肉痛にでもなるのか?」
「筋肉痛というか肉体の痛みではあるんだけど……」
何がおかしかったのか、苦笑いを浮かべながら薫は「あはは」と乾いた笑い声を漏らした。
「月乃ちゃんは何にするの?」
「バスケかな」
「あ〜好きそう」
好きそうとは。
「じゃあ私もバスケかな、他のも思い入れとかないし」
「杏子はどうすんだろ」
杏子の席に視線を向けると、杏子と目があった。ちょいちょいと黒板を指差している。
「あ、何か言ってるよ? バ、ス、ケ、だって」
「「好きそう」」
肉体派だもんな。
と、いう訳で結局いつもの3人はそろってバスケになった。というかバスケの人数多くないか? まぁソフトはあんまり人気がないみたいだったし、テニスは人数制限がある、結果的にバスケに人が集まってくる訳か。とはいえバスケにも人数制限はあるため何人かはソフトの方に回されて心底嫌そうな顔をしていた。そんなに嫌か、ソフトボールは。
「いやぁ、楽しみね」
放課後になって杏子が開口一番にいった言葉がそれだった。
「楽しむのは良いけど、追試のこと忘れるなよ?」
「追……試?」
なんだその反応は……いや、まさか――
「赤点とった生徒はもう一回同じようなテスト受けるんだよ?」
「そ、そんな……」
嘘だろお前、だから球技大会楽しめそうな雰囲気醸し出してたのか!?
球技大会の間が悪いため、球技大会が終わったあとに追試が来るというスケジュールになってしまっている。そのせいで追試をする生徒は満足に球技大会を楽しむことが出来ずに追試の影におびえるらしい。
「あぁ、そういえば高校って追試とかあったっけ……」
天笠……お前もなの?
気が付けば8月も半ばじゃないですか……!
何かしなきゃなぁと思えば思うほど、何もしなくなってしまう……怠惰ですね、勤勉になりたいです。
まぁそれは置いておいて、何か月も前の話にはなりますがご感想ありがとうございました。返せなくて申し訳ないです!
今後ともよろしくお願いします。




