表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trans Lover's  作者: 霊雨
19/20

ep18

大分お待たせしました。

以前の18話は展開に無理を感じたので削除致します。

これからもよろしくお願い致します。

 日本列島特融の無駄に高い湿度がうざったい。梅雨に入ったせいで最近は雨続きな為ジメり具合は拍車をかけて酷くなっていた。

 特に俺の右腕付近だけが周囲に増して暑い、蒸れる。というのも――


「薫、暑い暑い……ちょっと離れて」

「だめだよ」

「俺の右腕を蒸し焼きにする気かな?」


 右腕に自らの腕を絡ませて密着する薫。

 俺の言葉にも耳を貸さず、玩具を取り上げられそうな幼子のように薫はさらに絡める腕に込める力を強くした。

 こんなことになっているのも、今日はあの事件から初めての登校―ーといってもただの週明けの月曜日だが――どういうつもりか薫が右腕にしがみ付いて離れない。こころなしか杏子との距離もいつもより近い気がする。そのせいで俺の周囲だけ妙に湿度が高い気がする。

 俺の事を思っての行動だとは考え付くのでそれは嬉しい、だが何度も言うが暑いのだ。申し訳ないがいつも通りの距離で思っていてほしい。

 ちなみに香苗と聡子は違う学校なのでこういったことが出来ないと嘆いていたが、代わりに私兵(黒服)を向かわせるとかほざいていたので額にチョップをしておいた。


「諦めなさい、あなたが危なっかしいのがいけないのよ」


 薫を剥がそうとしている俺に杏子が距離を詰めながらそういった。


「俺が? そんな危なっかしいか?」

「もう気付いてない時点で重傷ね」

「月乃ちゃん……」


 俺の発現はあまりにも素っ頓狂なものだったのか、二人ともが呆れたような視線を俺に寄越した。


「あんた|あんな風≪・・・・≫な割にはガードが妙な所で緩いから」

「あ〜わかる〜」


 当事者を除け者にしながら二人して俺の話題で盛り上がる。俺のことなのに俺自身が分からないっていうのもどうかと思うが。言われっぱなしもアレなので反論はしておくけども。


「ガードが緩い? んなバカな」

「一応スカート履いてるのに動き回るわ直ぐ胸元開けるわゆっるゆる極まりないわよ」

「ガードできてないというか〜誘惑しまくりというか〜」

「えぇ……」


 スカート、確かにスカートは履いている。だが下に短パンを履いている。だから動き回っても大丈夫だろ? モーマンタイじゃん。というかそうじゃなければ履きたくないし。

 胸元っつっても暑いからちょっとパタパタさせてるだけだし……そんな解放感凄そうなことは一切してないし……


「その頭の中では花でも栽培してるのかしら」


 自身満々に語った俺に投げ掛けられた杏子の一言だった。酷い。







 昇降口に近づくにつれて集団の騒ぎ声のようなものが耳についた。視線を向けるとどうやら下駄箱を越えた所にある廊下で数名の生徒が集まっているようだった。


「なんだあれ」


 検討もつかずに疑問をそのまま口にする俺に薫が思い出したように「あぁ、そういえば」と言葉を漏らす。


「成績上位者はああやって掲示されんのよ」

「そういえばそんなこと言ってたな……」


 すこし前にあった中間テスト……とまぁ言ってもまだまだ高校が始まったばっかりでそれほど難しい内容ではなかったけど。そのテストの成績上位者50名はああやって名前と点数付きで張り出されるらしい。一学年の生徒数は300人程、50位ってことは上位15%くらいか。

 それにしても本当にこういうことをする学校てあるんだな、空想上の産物かと思ってたが。この学校が進学校なのも関係しているのかもしれないけど。


「もしかして月乃ちゃん載ってるんじゃない?」


 薫が思いついたように俺の腕を引っ張りながら声を弾ませた。

 張り出された紙の前には俺たちが早めに登校していることもあってか数は少ない、俺はその方が嬉しいけど。

 右から1位、左端に50位と横長の紙に一列にずらりと並べられた名前と点数の中で自分たちの名前を探した。


「あっ、私の名前がある」


 嬉しそうな声を出した薫。薫が軽く跳ねながら指差す方向を見ると丁度50位のところに薫の名前があった。


「月乃ちゃんは?」

「まだ見つけてない」

「1位とかじゃないの」

「まさか」


 軽い冗談に笑い合いながら二人して俺の名前を探す。

 そして見つけた、右端で。


「「1位……」」


 まぁ、一回目だしな、次からどんどん難しさが加速するし。

 2位、3位と見ていくが10位から上はほとんど点数の差が僅差だった。今回は1位を取れてたけど次は危ういな、せっかくとれた学年首位だ、これからもキープさせてもらおうか。


「ふふふ、勉強に身が入りそうだ」

「私もこの紙に名前が載り続けるように頑張らないと」


 互いの順位で盛り上がる俺達だったが、さっきから杏子が全く会話に入り込んでこないことに気が付いた。

 クルリと杏子の方に振り返ってみるとそこには表情を失くした杏子が此方を見つめていた。怖い、もともと眼光が鋭いのにラスボスのような威圧感まで持ち合わせている。


「ど、どうした」

「……なんでもないわ」


 俺の問いかけに杏子は俯きながらそう返す。

 何だろうか、今日は不自然なほどの杏子の元気がない、表情に影が差している。しおらしい杏子を見ていると昔の……出合ったばかりの杏子を思い出すが何分気味が悪い。


「杏子ちゃん、なんだか元気ないね」


 心配そうに見つめる薫をよそに杏子は深刻そうに頭に手を当てて深く溜息を吐いた。

 俺たちは今日の一時限目に、その原因を知ることになる――




「じゃあ、テスト返すんで」


 教壇に立つ英語担当の先生の言葉にクラス中がざわつき、杏子の口から絶望の声が漏れた。


「あ、ああぁっ……ぐあぁぁあ……!」


 先生の言葉を聞いた瞬間に頭に手を当てながら机に突っ伏す杏子を尻目に俺は隣の薫に声をかけた。


「合点がいった」

「あ〜」


 そう、杏子は頭が悪い。

 馬鹿ではない、馬鹿ではないが紛いなりにもお嬢様である杏子が取っていい点数ではないのは確かだ。

 でも中学の頃は「力さえあれば良い」とか覇者的な考えを持っていた杏子がなぜ高校になったとたんに……と、ここまで考えてとても重要なことを思い出したのだ。


「赤……点」

「杏子ちゃん後輩になっちゃうの?」

「まて薫、肝心の点数がまだだ」

「そ、そうだよね」


 そう言って二人して教壇の方向に視線を戻す、そこには丁度項垂れながら教師の元へ向かう杏子の姿があった。

 そして、意を決したらしい杏子は教師から解答用紙を受け取って目を見開いた、そして――




「「う、項垂れた!?」」




 落ち込んだ様子でどよどよと雨雲を背に背負いながら自らの席へ戻りストン、と魂が抜けたように座った。


「月乃ちゃん、あれダメだったんじゃ……」

「……とりあえず俺たちが貰った帰り際に確認してこようか」

「そだね……」


 先生から自分の解答用紙を受け取った俺は、魂が抜けた様子の杏子の机を横切って件の点数を見てみる。


「こ、これは――」




 授業が終わり、教室内で各々の点数で盛り上がっているさなか、俺と薫は隣して掌で顔を覆っていた。原因は勿論杏子の点数。

 悪い意味で予想通り。外れて欲しかった、点数が高い方向に。


「「19点……」」


 大原杏子、英語19点。赤点確定おめでとう。







「うわぁ……」

「これは、ダメなやつだよ……」


 俺と薫の言葉に俯いて小さくなっている杏子がさらに小さくなった。

 時刻は5時前、今日の授業も終わり生徒もゾロゾロと部活やら下校やらを始めたころ。今日帰ってきたテストは6科目、誰も居なくなった教室でその解答用紙がすべて杏子の机の上に並べられていた。


「どうしよう」

「どうしようと言われましても」


 全滅しているといっても過言ではない解答用紙たちを見て俺と薫は困り果てたように顔を見合わせる。


「一番いいので現代文か」

「あ、それは赤点回避したやつ……」

「赤点回避が目的になってきてるね〜」

「それダメなやつだぞ杏子」


 ダメだ、ほっとくと本当に留年しかねないな……

 杏子も杏子でいつもの天真爛漫さはなく、萎れた向日葵のような印象を受けるほど落ち込んでいる。落ち込むなら勉強しろと。


「づぎのぉ、勉強教えて」

「な、泣くなよ」


 まさかの泣きをみせた杏子。理由を聞けばどうやら杏子の両親が関係しているらしく、杏子の実力テストの出来栄えをみた杏子の両親が、娘に高校を留年してもらいたくはないため「赤点を取ったら……分かるな?」と言ったらしい、俺と薫はさっぱりだったが杏子には完璧に伝わり大慌て。しかも杏子、どういう思考回路をしているのか中学でもほどほどだったのに、「いける」と思ったらしい。

 中学からランクアップした高校のテストはそう甘くなく、見事撃沈、そういう訳だった。


「はぁ、仕方ねぇなぁ」

「つ、月乃……?」

「何があるのかは知らないけど、親父さんには俺から何とか言ってみるから。そのかわり期末は全教科赤点脱出な、俺が杏子の点数を引き上げるよ」


 ガタガタ震えながら縮こまる杏子の肩に手を置いてそういった。

 杏子はふらふらと立ち上がりながら俺に抱き着いてきた、締め付ける力が強くてちょっと痛いけど。


「づぎのぉ……」

「もぉほら、泣くなよ……」


 普段から世話になってる分、こういうとこで返しておかないとな。


「落ち着いたら帰るぞ」

「うん」


 いつになく素直な杏子の返事を聞いたあと、唐突にガララと音を立てながら教室の扉が開いた。そこに立っているのは井上だった。

 井上は「あっ……」という声を上げた後、小さく「失礼しましたぁ」と言いながら扉をゆっくりとしめた。

 その後に残ったのは、不自然なまでの静寂、そして俺の中で震える杏子。


「もう、大丈夫よ。ありがと」

「お、ぉう……」


 俺から離れた杏子は手早く荷物を纏め、顔を軽く拭き、そして教室の扉を開けた。


「荷物、お願いしていいかしら」

「校門前でいい?」

「えぇ、ありがとう、頼むわね」

「杏子……えっと、やりすぎないようにな?」

「……分かってるわ、死なない、死なないわよ……多分!」


 そう言い残して杏子は扉の前から消えた。


「行こっか」

「そだね」


 朱くなってきた空に、井上の悲鳴が響き渡った。




「なぁヒノ、昨日の俺知らない?」

「どうした井上、頭でも変えたのか?」

「どこのあんぱんだよ。違ぇよ、昨日の俺の記憶がないんだよ、しかも朝起きたら身体中が妙に軋んでるし、どうなってたか知らねえ?」

「あぁ、ボロ雑巾みたいになってたな」

「昨日の俺になにがあったんだよ!?」


 井上、思い出さない方が良いこともあるんだぞ。

 

次回更新は未定です(頑張ります)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ