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Trans Lover's  作者: 霊雨
18/20

ep17

暑い時期になりましたね(白目)

いやー……3ヶ月って早いですね……

 一定のリズム保った電子音が耳に入ってくる。

 なぜだかとても長い時間その音を聞き続けたかの如く、俺の耳には聞きなれた音で、それほど変わった音でもないのに嫌気が指してくる音だった。

 それよりも……さっきから体が動く気配がない、全身が冷めた鉄にでもなったかのような錯覚をするほどに。

 そもそもなぜこんな状態になっているのだろうか、こうなるまでの記憶が非常に曖昧で頭に靄がかかったかのようで思い出すことが出来ない……俺の中に残る最後の記憶はワンピースとウィッグだ、どういうことだ。俺も分からん。


「―――――」

「―――」


 誰か来たみたいだけど、小さい声で良く聞こえない……しかしどこか懐かしい声だ。

 いや……この声は……!


「良かった……! 良かった……!」


 母さん……!?

 俺の悲鳴じみた声は口から音として放たれることはなく、俺の心で響くだけだった。

 いや、母さんといっても|前世≪・・≫での母さんの声だ。さすがに十数年聞いた声だし忘れるわけもないし、懐かしいはずだ。

 そして、先ほどから俺の心臓がうるさい、破裂しそうなほどに鳴り響いている。実際俺をその現状を受け止めたくなくてジッと目を閉じてこうして唯一まともだった頭の中で考え続けている。

 だが……


 そんな頭も否応がなしに気づけといっている、|息をしていない≪・・・・・・・≫ということに。


 厳密には、呼吸はしている、肺はきちんと空気を取り込んで酸素を得続けている。だけどそれはどこか機械じみたもので自分でしているのは言いづらい、そう……言うならば無理やりさせられているのと同じだった。


 もし、もしも……この部屋が俺の病室だったなら……俺が瞼を開けると全体が見渡せるように鏡が置いてあるはずだ。


 俺、ゆっくりと、自分の予想が外れているように、そう願いながら瞼を開けた。




 そこに映っていたのは胸の辺りから管を伸ばした前世を俺の姿だった――






「ッ……!」


 ……息が荒い、全身が汗でグショグショになっていて気持ち悪い。反射的に顔に張り付いた髪を払おうとして腕がキチンと動いたことに心から、心底ほっとした。

 夢だった、いや……夢で良かった、本当に。俺が延命措置を施されていて、今までが夢でした……なんて未来も決してないとは言えない。あの夢のような最悪な現実も、決してゼロとは言えない。もしあれが現実だったかと思うと、寒気がしてくる。

 しかしだ、先ほどから体が重い。鉄になったかのような重みではなく、明らかに誰かが乗っかっているような生物的な重さを感じる。


「誰だよ……絶対これが原因だろ……」


 素早く愚痴を零しながらまだ怠い体を起こして足元を確認する。


「月紫かよ……」


 そこにいたのはスヤスヤと眠りこけている我が妹、月紫がいた。

 それに加えて何故か俺が病室にいた。なにを言ってるか分からんと思うが俺も分からん、服屋から一瞬で病院に移動したぞ。

 病院独特の薬品くさい潔癖な匂いはあまり好きじゃない、これのあの夢をみた原因の一つだな。

 俺がぼんやりとそんなことを考えていると月紫がもぞもぞと呻き声を小さく上げながら身動ぎした。


「ん、誰……?」


 どうやら寝ぼけているらしく若干だが呂律が回っていない、俺の顔を見るなり目元をゴシゴシ擦りながらそう呟く、そしてようやく目が覚めたかと思うと、今度は俺の顔をマジマジと見つめて、目をパチクリとさせてから再度目を擦った。


「あ、あれ!?」

「どうした?」

「え、いや……お、お姉ちゃん……?」

「そうですけど……」


 人を死人が生き返ったかのように話す月紫に、いきなり何を言うんだと言うようにそう返すと月紫は行き成り俺の胴に抱き着いてきた。体を起こしただけだった俺はそのまま抱き着いてくる月紫の勢いに負けてそのままベットへと後ろに押し倒される。


「ど、どうした!?」


 月紫はそのまま俺の胸に顔を埋めたまままるで何かを確認するかのようにそのままグリグリと押し付けてからサラサラと涙を零しながら嗚咽を漏らし始めた。


「良かった……! 良かったよぉ……!」

「お、おぉう……」


 月紫の言葉にちらりと夢の中で投げ掛けられた言葉を思い出したが、あの声とこの声で、同じことを言われてこうも違うのかと自分で思ってはそのままクスリと笑ってしまった。




 とまぁ、そんなに気楽で居れたのも束の間。

 いつの間にか月紫が連絡を回していたらしく、続々と病室――しかも個室――に母さん父さん始め杏子たちが入ってくる。薫たちも居たがあいつらは何故か雰囲気が暗い。

 何故か重苦しい雰囲気の中心部で冷や汗を流す俺……なんだこれ、なんだこれ!


「月乃……心配かけてもう……!」


 そんな中、母さんが真っ先に俺に駆け寄って俺を抱きしめる。

 母さんがキツク抱きしめる中、俺の頭の中は今置かれている状況がどうなっているのか推理することでいっぱいだった。


「月乃……?」


 反応がない俺を変に思ったのか、母さんが抱きしめる腕を緩めて腫らした目をこちらに向けてきた。

 腫れた目……いろいろなことが安易に想像できたが、残念ながら何があったのかは全く分からず、もとい思い出せず「大丈夫だよ」と笑いかけることしかできなかった。


 妙な距離感を保つ父さんにも気になったが、それよりも俺のこの状況がいつまでも呑み込めないのも不味いと思ったので思い切って聞いてみることにした。


「あのさ……悪いんだけど、俺何があったのか覚えてなくて……状況説明誰か頼んでいい?」

「「「え?」」」

「は?」

「あ、あんた今なんて……」

「どうした杏子、なんか震えてるぞ……? 顔色も悪いし……」


 いや、杏子だけじゃない、全員震えてる。


「ナ、ナースコール!!」

「ちょ、ちょ待っ……!」

「精密検査しなきゃ!」


 なんか大事になってきたぞ……




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「脳には得に異常はないみたいですね」


 だろうな。

 あの後俺の記憶が若干飛んだ事が判明し、急遽精密検査を行わされた。

 結果は異常なし、そりゃそうだ。


「そ、そうですか」

「強いショックによる一時的なものでしょう、安心してください」


 俺を担当した女医さんにそう言われて付き添ってくれている母さんと父さんから安堵の息が漏れていた。

 それと、精密検査後に一応大まかにだけど俺に起こった事を杏子から聞かされた。確かにいまだに男性恐怖症が治りきっていないがナンパに手首つかまれただけで発狂するのか……いや、状況が状況だったみたいだしな、そもそもワンピースを着た記憶がない。

 薫たちが病室で暗い雰囲気を纏っていたのもこれが原因っぽかった、ほとんど関係ないのにな……


「じゃあ退院とかは……」

「そうですね、特に目立った外傷もみられないですし、もう少し検査をすれば今日にでも退院できますよ」


 母さんの質問に女医さんは穏やかな笑みを浮かべながらそう返した。




「じゃあ後でね……」

「うん、ありがと」


 いろいろな手続きがあるみたいで、俺は病室の前で母さんと父さんと別れた。

 病室に入ると相変わらず暗い雰囲気の薫たちとそれをジト目で見つめる杏子の姿が目に入った。


「あれ、月紫は?」

「月紫ちゃんならちょっと席を外してるわ、すぐに戻ってくるわよ」


 用事? まぁトイレかなんかだろ。

 月紫のことは置いておいて……俺は薫たちの方に視線を移した。


「おっす」

「月乃ちゃん……」


 俺がそう言って反応を返したのは薫だけで香苗は気まずそうにサッと目線をそらし、聡子はなんか……うん。


「聡子?」

「あぁ、その子はダメよ」

「ダメ? 何かあったのか?」

「まぁあれよ……」


 そう言って杏子に聡子に何があったのかを聞いた……が、その内容の軽さに呆れることになった。

 仕方ないなと思いつつ、こんなんでも俺の大事な友達な一人でもあるし、俺は聡子の前に移動して聡子の目線に合うように中腰になってから両手で聡子の頭を掴んだ。


「聡子」

「ぬぇ……」


 大丈夫かこれ、有り金全部溶かしてそうだぞ……

 俺は溜息を一つついてから聡子の顔を力ずくで上に向けた。


「聡子っ」

「ぬぇ……?」

「お前……」


 そこから頬を叩いたり、引っ張ったりしてしばらくすると、やっと聡子の意識がこちら側に戻ってきたようだ。


「あれ……お、姉さま……」

「この状況でもそこは変わらないのか……」

「な、なんで……」

「いや、なんでって言われてもあれくらいで別にお前の事嫌いになったりしないしというかあれ俺の責任の方がデカイし」


 そう、聡子は何を思ったのか俺に嫌われたと思い込んでずっと放心状態になっていたようだった。

 何がそうなってその結論に至ったのかは理解出来ないけどそんなに俺は冷たくないぞ。


「で、でも……」

「でもも、へったくれもねぇよ。ナンパ数人のせいで大事な友人失ってたまるか」

「お、お姉さま……!」

「おっと……」


 聡子は俺の言葉を聞くや否や両目からドバドバと涙を溢れさせた。


「薫と香苗も同じような理由か……?」


 俺の問い掛けに薫と香苗も小さく頷き返した。


「はぁ……そうだな、じゃあ……今度アイスでも奢ってくれよ」

「え?」

「ん? 何も無しじゃお前ら納得しなさそうな雰囲気だし、おすすめの店あったら奢ってくれよ」

「月乃ちゃん……!」

「つ゛き゛の゛ちゃ゛ん゛……」

「うわっ、香苗汚い……」


 薫も聡子と同じような状況になったが、香苗は顔面汁塗れになっていた、どこのラストシーンだこれは。

 こいつって良いとこのお嬢様なんだよな……こんなんで大丈夫なのか。


 ともかく、これで変な蟠りもなくなるだろう。

 明日からまた学校だ、悪化してなけりゃ良いけどな……


は、果てしない難産でした……という言い訳は置いておいて。

どうも、お久しぶりです。

3ヶ月の間にご感想をくれた方々有難うございました! 5、6月は私生活が忙しかったんですけど7月はずっと遊んでました。パソコンこわい……

ともかく、俄然創作意欲沸いてきたので頑張ります。あと、やっぱり戦闘シーンが欲しいので新しい小説描き始めるかも知れないです。詳しいことは活動報告の方をどぞ……

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