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Trans Lover's  作者: 霊雨
17/20

ep16

えっと……一ヶ月経ってましたね!

これからはできるだけ速度を上げていけるよう頑張っていきます!

 最近は気温も上がってきて服の枚数が数枚減りはじめる5月、全国的にも12月や1月に続いて渇望される月ではないかと俺は考えている、その理由はもちろんゴールデンウィークだ。

 学生たちが追い求めてやまないゴールデンウィークだが、俺は例年と同じように杏子や薫、それに加えて香苗と聡子(北条の下の名前)の5人でショッピングを楽しんでいた。

 ちなみに俺が香苗と聡子のことを苗字ではなく名前で呼ぶようになったかというと、2人に懇願されたからだ。別に俺自信もずっと苗字なのは友達としてどうかと思っていたのでそれからは名前で呼ぶことになった。


 そしていま、その2人は俺たちの目の前で蹲っている。


「お前らほんと飽きないよな」

「うぅ……最近杏子のパンチの威力が増した気がします」

「あらそう? 成長期かしら」

「成長はして欲しくないです……」

「お前らが絶叫しなけりゃ良い話なんじゃないのか」

「「月乃ちゃん(お姉さま)がそんな格好してるのが悪いんです!」」

「えぇ……」


 香苗と聡子に言われて自分の服装を軽く見直してみるがそれほど変な感じはしない。

 黒っぽいシャツにその下にTシャツ、下はベージュのチノパンにこれまた茶系の靴。


「え? 格好良い感じにしてきたんだけど似合ってなかった?」

「似合ってる……似合ってるけど……!」

「むしろそこらの男よりも似合ってますけど……!」

「「なんで格好良くしちゃうんですか!?」」

「いいじゃん別に」

「ダメです! せめてもうちょっとボーイッシュにするとか……これはまごうことなき男装です!」

「せめて黒系はやめてください!」

「んな理不尽な……」


 2人の理不尽な要求には苦笑いしか出てこない。

 俺も少し前に一度、女の子っぽい服を選んで試着したことがあるけどそのときは違和感しか出てこなかった。制服でスカートを履いているにも関わらずヒラヒラとしたスカートを履いている自分には違和感しか出てこなかった。即ちこの格好は必然ということだ、男とみられるならナンパが寄ってくることもないだろうし、杏子たちから男を遠ざける虫除けにもなる、まぁ杏子なら大概の男よりも強いだろうから大丈夫だろうけど。

 その代わりと言っちゃなんだけど、男の代わりに女の人からの視線が多くなった気がする。かと言って逆ナン――になるのかどうかは分からん――されたりとかはないし、別に触れられても問題はないから俺としてもこっちのほうが有難い。


「じゃあ今から月乃ちゃんの服を買いに行こうよ」


 おっと、流れ変わったな。悪い方向に。


「待て、早まるんじゃない」

「月乃ちゃんが女の子っぽい服を遠ざけてるのは分かるけど、たまには良いんじゃない?」

「いや……でもな」

「まぁまぁ、香苗ちゃんと聡子ちゃんのためと思って」

「ぐぅ……」


 チラリと香苗と聡子の方を向くと、俺と薫の会話が聞こえていたのかこちらにキラキラとした視線を向けてきている。ぐっ……まるでサンタを信じている純粋な子供のような目だ……!


「良いんじゃない、たまには。私もその格好はどうかと思うし」

「杏子まで……」

「その格好をやめろとは言わないわよ、でも一着か二着くらいは持ってたほうがあとあと便利よ?」

「あーわかったわかった」

「ほんとですか!?」

「お姉さまぁ!!」


 承諾した途端に香苗はさっきまで蹲っていたのが嘘のように元気に立ち上がり、聡子に至っては俺に抱きついて胸に顔を埋めている、ちなみに聡子のも当たっているが他意はない。


「あ、でもあんまし高いのは勘弁な」

「それは安心してください、これは言わば私の我が儘のようなもの……月乃ちゃんの服代は私の方から出します」

「あ、私もそうします!」

「そこまでして俺に服を着せたいのか……?」

「「勿論!!」」


 こいつらの潔さには呆れを通り越して笑いすら出てくる。俺は小さく笑いながら香苗たちに連れられて服屋を訪れることになった。




 のだが。


「やっぱ帰っていいすか」

「逃がしませんよ!」

「そうです、ここまできたからにはお姉さまの可憐の御身を拝見するまで帰ることなど到底出来ません!!」


 引き返そうとする俺の両腕に香苗と聡子ががっしりと腕を絡めてくる。

 冷や汗を垂らす俺の肩にぽんと手が置かれる、振り返ると杏子が穏やかな目で「諦めなさい」と言ってきた。

 く、くそ……聞いてないぞ、服屋とかもっとシンプルな感じじゃないのか……!?


 目の前に広がるのは煌びやかな内装に照らされる様々な服、肌着からドレスまでなんでも揃っていそうだ。しかも高級そう。雰囲気が俺の知っているものと違う。


「ほ、ほら……ほかのお客さんが俺のことを変な目で見てるし……」

「それは店の前で立ち止まっているからですっ!」

「服装なら後から挽回できます!」


 言い訳も虚しくズルズルと店内へと引きずられていく。

 そしてついに店内に足を踏み入れてしまった。


「往生際悪いわよ」

「くそ……」


 俺が抵抗をやめると、香苗と聡子は絡まっていた腕を外してそのまま俺に似合う服を探すといって店の奥に消えていった。あいつら変なもの持ってこないだろうな……

 ちなみに後ろには異様ににこにこしている薫と仁王立ちの杏子が待ち構えているため逃走は困難だ、別に逃げないけどな、流石にここで逃げるとあの2人が不憫過ぎる。たまにはいいだろう。


 しかし、またしても俺の予想は裏切られることになる。




「きゃああああっ! かぁいいです!」

「ふぐっ! 抱きしめたいですぅっ!」

「わぁ〜……!」


 香苗と聡子が持ってきた服を更衣室で着替え、まずは香苗が持ってきた服を着て俺は更衣室から出てくる。俺の額には青筋が浮かんでいることだろう……


「なんでメイド服なんてあるんだよ……!」

「給仕して貰いたいです」

「じゃ、じゃあ私は膝枕を所望します!」

「じゃあ私は添い寝〜」

「「しまった、それがあったか!」」

「うるせぇ! 全部やらねぇよ!」


 店内にいるお客さんの視線がこちらを……というか確実に俺と俺の服装を見ているのに気がついて自然の顔に熱が篭るのが分かった。


「んん……! 襲ってしまいそうです!」

「あ、鼻血が……」

「大丈夫? ティッシュあるよ?」

「自由か! もういいだろ!」

「待ちなさい月乃、まだ写真撮ってないから」

「撮るな!」


 杏子がカメラをこちらに向けてきたのでシャッターを切る前に更衣室のカーテンを俺は閉めた。

 パシャリという音と共にカーテンを閉めたけど恐らくとれていな――


「羞恥で顔が真っ赤なメイドの写真が撮れたわ」

「さすが杏子です!」

「うっ!」

「あぁ〜ティッシュが一瞬で真っ赤に〜……」


 俺は何も聞いていない。




 その後もどこから持ってきたのかマニアックな服が続く……

 チャイナ服があったときはその民族の方には申し訳ないがこの服を持ってきた香苗を殴り倒しそうになった。


「くそ……遊ばれてるんじゃないか……?」


 このままでは納得がいかない、カーテンを開けるたびに香苗や聡子、他2人に加えて店内の他のお客さんまで観客になってしまっている。まるでペットショップの愛玩動物にでもなった気分だ……

 流石にこのままで終わるのは悔しい……最後に残ったのはシンプルなワンピースだった。これは聡子が選んできた服だな、聡子が選んでくるものはセンスはいいのだがいかんせん可愛くて小っ恥ずかしい……まぁ変な服しか持ってこない香苗に比べたら雲泥の差だけどな。


「ん……?」


 どうしようか考えていると、俺はあるものを見つけた。


「これ持ってきたの絶対に香苗だな……」


 俺はそれを手に取って身につけてみる。

 姿見で確認してみるがとても懐かしい気分になった……

 俺はそんな懐かしい気持ちを胸に秘めたままチラリとワンピースの方を見やった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「遅いですね……」


 月乃が最後に更衣室のカーテンを閉めてからはや十数分、最後に残った服を考えても些か時間がかかりすぎている。

 既に観客と化していた店内の客たちも半分ほどは店を後にしていた。


「大丈夫でしょうか……もしかして何かあったんでしょうか……」


 聡子がそういうも他の3人も何も言い出さない、言いようがない気まずい雰囲気が4人の間に流れていた。


「月乃ちゃんには悪いですが……ちょ、ちょっと覗いてみますね……!」

「あ、嬉しそうな顔してます! お姉さまの着替えを覗く気ですね!?」

「ち、ちちち違います! 私は決してそのようなことは……」

「月乃? 大丈夫?」

「「杏子(さん)!?」」


 香苗と聡子が言い争っている間に杏子がごく自然にカーテンの隙間に顔を入れて、すぐに顔をカーテンから抜いた。

 その顔は赤く染まっており、杏子はそのままガクッと膝を付き額に手を当てた。杏子には珍しく息を荒らげて苦しそうに胸に手を添えたりしていた。


「きょ、杏子ちゃん!?」

「ふ、不意打ちだった……油断したわ……!」


 そんな杏子をみて香苗と聡子は察しが着いたのか、2人は同時にゴクリと喉を鳴らし、互いに目を見合わせてコクリと小さく頷いた。

 何故かソロソロと更衣室に近づき、その怪しい雰囲気を醸し出したまま月乃がいるであろう更衣室のカーテンの隙間に上下に並んで顔を入れた――



「「天使……!」」



 2人は同時にそう呟いた。

 視界の先にあったのは香苗が半分冗談で持ち込んだ長い黒髪のウィッグを被り、聡子が選んできた清楚なワンピースを着た月乃の姿だった。

 姿見を見ている月乃は何を思い出しているのか儚げな雰囲気を出しており、それが月乃の外見と合わさり言い様がない美しさを滲み出させていた。


「お、お姉さま……? で、出来ればこちらを履いてもらっても……」


 聡子はさらに月乃に履いてもらおうと上品なハイヒールをどこからともなく持ってきた。

 普段の月乃ならそんな聡子を冗談交じりに怒るところだが、今日の月乃はどこか可笑しく、フラフラと聡子に近づいてきて、聡子が持ってきたそのハイヒールに両足を収めた。

 少し可笑しい気もしたが、香苗と聡子にはそんなことに気を使うことができないまま月乃のその姿に見入っていた。それは店内にいた他の客も同じで、加えて店員までもがその手を止めて月乃の姿に見入っていた。


「わぁ〜、わぁ〜!」


 薫も興奮して月乃の手を取って小躍りしている。

 ただ、興奮からいち早く立ち直った杏子だけは月乃の不安定な部分を敏感を感じ取っていた。


「月乃? その服気に入ったの?」


 杏子がそう月乃に問いかけると月乃はコクリ頷き肯定の意を示した。杏子はそんな月乃に「そう……」と心配したような顔で返事をする。

 一方香苗と聡子は月乃が気に入ったと聞いてすぐさま月乃がきているものを買い取った、決して安い金額ではなかったが2人にとってはそれでも安いくらいだった。


 杏子は月乃が来ていた服を整理して店の紙袋に入れさせてもらった、靴もしかり。

 そして薫、香苗、聡子に囲まれた月乃は存分に目立っていた。それはもう道行く人間を老若男女構わずその視線を釘付けにした。

 しかし、だからこそ可笑しい、月乃の過去とトラウマを知っている杏子はそう思う。普段ならこの時点で月乃は立てなくほどに怖がるはずだが、いまの月乃はそれがどうしたと言わんばかりに3人に連れられてツカツカと歩き続けている。いや……そもそもいまの月乃が正気なのかどうかもわからないが。そういえば昔の月乃は長髪だったと聞いたことがあったが――

 そんな杏子の思考は、数人の不届きものによって遮られた。


「ねぇカノジョ、いまヒマ??」

「オレらヒマしてンだけどサ、ちょっとそこの店で話さない?」

「あ、あの……困ります!」

「いーって、いーって、お代はオレらで持つからァ……ネ?」

「結構です、では……私たちは先を急ぎますので……」

「ちょ、ちょっとまってよ!」


 月乃たちを囲っていたのはいかにも馬鹿そうな時代遅れのファッションに身を包んだナンパ集団だった。いつもなら目つきの鋭い杏子と服装が男の月乃のお陰で遠目にジロジロと見られることはあってもどこか話しかけづらうい雰囲気があったのだろうが、いまはそのいかにも弱そうな外見の女子4人が、特にいまの月乃の影響もあってか遂に手を出されてしまったのだろう。

「チッ」と舌を鳴らしてから杏子は直ぐに男たちに近づいた。いまナンパ野郎が早まらないことを祈りながら。


「そこらへんにしときなさいよ」

「ぅン? 何? 君もこの娘たちのオトモダチ?」

「はぁ?」

「まぁまぁ落ち着けって、取り敢えず店に行こうゼ」


 ナンパの主犯格と見られる男が月乃に手を伸ばした。

 しまったと、こんなことなら初めからこいつらに手を出せばよかったと、「マズイ」と思って手を伸ばしたが既に遅かった。


「ちょ、ちょっと何するんです!」

「ちょっとだけだからさァ」


 全く話の聞かないナンパ集団のリーダー格は月乃の手首を持ちながら(・・・・・・・・)そう言った。

 月乃はそれに反応して男を見上げてキョトンとしながらその視線を自分の手首に移す。

 月乃の顔を真正面から見た男は想像以上の顔に一瞬たじろいだがすぐに体勢を元に戻す。しかし、彼にとっては不覚にも、少し昂ぶってしまった。


 キョトンとした表情で自分の手首を見つめる月乃だが、どこか虚ろげな目はだんだんと知性を取り戻していき、次第に瞳孔は開き、顔の血色が悪くなり、全身から冷や汗を吹き出す。


 そしてーー


「ああああああああああああああああ!!??」


 絶叫した。



 甲高い少女の悲鳴に思わずリーダー格の男も月乃の手首を離す。と同時に月乃は両手で頭を抱えながらそのまま地面にうずくまる。涙を流して小刻みに震えながらブツブツと何かを呟く月乃に、薫ら3人も唖然とする。普段の明るい気さくな月乃からは想像も出来ない状況だったからだろう。


 しかし唯一状況を完全に理解している杏子だけは素早く行動を開始する。まず手前にいた男の手首を捻りあげて後方に投げ飛ばす。

 受身すら取れない男は投げ飛ばされた先で全身を打ち、その痛みに地面をのたうち回る。


「テ、テメェ!!」


 仲間が投げ飛ばされて我に帰ったのか、さらに一番近くにいた男が杏子に襲いかかるが、杏子も一切の手加減をする気はなく、そのまま男の鳩尾に一発入れたあと、同じように横に投げ飛ばす。

 しかし、その間にもリーダー格の男も我に返り、その場を後にして逃げようとする。杏子も追いかけようとするがしかしその必要はなかった。


「おげぇ!?」


 その先に立っていた青年が土手っ腹に一発、強烈なパンチを繰り出してリーダー格の男をノックダウンさせていたからだ。杏子はその顔をみて、苦々しく顔を歪める。


「谷坂……!」

「何だ、何が起こってる。ちょっと待て……ヒノ? ヒノか!? おい大丈夫か!?」

「待ちなさい!!」


 その青年、谷坂佐介は蹲っている少女が月乃だと分かると、すぐに月乃に寄り添おうとするがそれをみた杏子が絶叫にも似たような声で制止する。


「なんだよ……」

「アンタはだめよ、これ以上月乃の容態を悪化させたくないならね」


 杏子を睨む佐介を他所に、杏子をそう言いながらも月乃に近づいていく。そしてそのあとに小さく「もし近づいても私が阻止するけど…」と付け加える。


「何だ……何なんだよ!?」


 佐介がそう声を荒らげると月乃の身体もびくりと反応して一層その震えが強くなる。杏子は何をいうでもなく月乃の身体を起こして自身の身体で隠すようにして抱いた。


「ぼけっと突っ立てないで、この電話番号に緊急通報を入れてくれないかしら、もう分かってると思うけど……なるべく女性の方に来てもらうようにして」

「あ……あぁ……」


 杏子はなるべく月乃を刺激しないように、佐介に一切れの紙を手渡して落ち着いた声でそういった。月乃の惨劇を見た佐介はさすがに少しは状況を理解して、戸惑った声を上げながらも素直に頷いた。


 数分後、運転手以外全員が女性で構成されたレスキュー隊員が到着し、杏子のみが付き添いという形で月乃はそのまま病院へと搬送されていった。


 この間、薫、香苗、聡子の3人は終始何をするでもなく、呆然とその場を眺めていた。

気がついたら一ヶ月経っちゃってました、実は4月から学校に入学したんですが時間を作れなくてこんなことになってしまいました。

これからはできるだけ執筆速度を速めていくのでよろしくお願いします!

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