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Trans Lover's  作者: 霊雨
16/20

ep15

力技。

「前……世?」


 天笠の言った言葉を繰り返すように俺が呟くと、俺の表情が困惑していたのか天笠はワタワタと冷や汗を垂らしながら慌てふためいた。


「お、可笑しいこと聞いちゃったっ、ご、ごごごめんね!」


 視線をあちこちに泳がしながら必死に弁明をし始める天笠を他所に俺は先ほど天笠が言った言葉について思考を張り巡らせる。

 前世を信じるか……だと? 信じるもなにも、俺自信が前世を経験しているから信じるというよりかは知っているという方がしっくりくる。

 そもそも、何故こんな話を俺にしてくるんだ……? 実は天笠は電波おn……男だったということだろうか。それでも俺にそれを話す意味が分からないが……もしかして俺から電波臭でもしたのか?


「あ、あの……黙られると凄く辛いんだけど……」


 俺が思考の海に深く潜っていると、キョドキョドしていた天笠が言葉通り辛そうな表情で俺を見つめていた。


「あ、あぁ……すまん」

「い、いや……こちらこそ変な事聞いてごめんね……さ、さっきのことは忘れてね!?」

「ちょ、ちょっと待て!」


 そう言い残したあと慌ててその場を後にしようとする天笠を俺はそう言って引き止める。何故か引き止めなければならないような気がした……というよりも気になる、このまま行くと眠れない。

 俺が引き止めると、天笠は何かを期待するような目でこちらを振り向いてきた。目からキラキラしたビームが出てきそうな勢いだった。


「信じる」

「え?」

「前世だろ? 信じてるよ」


 信じるもなにも、俺に前世の記憶があるのは事実だけど。

 俺がそう言うと天笠はキュッと表情を引き締めた。しかしそんな表情も直ぐに解れ、へにゃりと笑った天笠はそばにあった机をはさんだ対面のソファーを指差した。


「ちょっと長くなるかも知れないし、座ろっか」

「ん、そうだな」


 気を利かせてくれたのか、俺も特に反論はなく天笠が座った対面のソファーに腰掛ける。それなりの柔らかを持ったソファーに座ると、同時に無意識にしていた緊張もほぐれて息が出た。

 消灯時間が迫っているため、長くなるといってもそれほど時間はない。見回りの先生が来るまでに天笠の意図を知っておきたかった俺は、すぐに核心を突くような質問をした。


「それで、なんで天笠はいきなり俺にあんなことを聞いてきたんだ?」

「あんなことって……前世を信じるかって言ったこと?」

「それ以外になにがある」

「だよね。まぁ、それを聞いたのはすごく単純な理由だよ」

「理由?」

「うん……日野原さんってさ……前世で男の子だったりする?」

「へぁっ!?」


 逆に俺がいきなり正解を言い当てられて、鼓動が一跳ねする。

 汗が出てきたのか、少しだけ張り付いた服が微妙に不愉快に感じる。服の中に空気を取り入れるように裾をパタパタと扇ぐ。


「な、なんでそう思うんだ?」

「日野原さん、よく男の子のグループを懐かしそうに眺めてたでしょ?」

「そうか?」

「そうだよ、それ以外にも……いろいろね」


 天笠が何を考えているのかは良くわからない。恐らく、俺がここでそんなことはないと言えばそれでこの話は終わりになるだろう。天笠はちょっと痛々しい子だった……で終わりだ。


「で……正解は?」

「……」


 天笠が期待と自信に満ちた目でこちらを見つめてくる。

 俺は一つ、短く息を付いた。


「そうだ、当たってる」

「……そっか」

「あんまり嬉しくはなさそうだな」

「いやいや、嬉しいよ……どっちかと言うとホッとしたっていう方が大きいかな」


 天笠はそう言ってやんわりと微笑んだ。


「で、天笠も同じなのか?」

「そうだよ、お察しの通り……僕は前世で女だったよ」




「……は?」

「え?」


 あ、ごめん。そこまではお察ししてなかった。


「え、なにお前……女だったの?」

「そ、そうだけど……」


 天笠の顔から視線を外して、下から上へと視線を上げていく。

 ……おぉう。


「納得したわ」

「えっ!?」

「妙に女っぽいなと思ってたんだ、そういうことだったのか」


 俺も女になっていろいろと苦労したがそれなりに女らしい格好が真似できるようになってきた。だがしかし天笠はどうだ……やはり受け入れきれていないのだろう、その結果が……これという訳か。


「良し、いつか一緒にタイに行ってやるよ」

「ど、どういうこと!?」

「女に戻りたいんだよな……タイは性転換手術大国だから」

「いや別に戻りたい訳じゃないよ!?」

「は?」


 天笠からそう言われ、再度下から上へ……天笠の現在の服装と顔を見る。

 無いな。


「素直になれよ」

「違っ!」

「いや……その服装と顔を鏡で見てこいよ、女だよ」

「こ、これは親が勝手に入れ替えてたというか……! 本当はもっと普通の服だったんだよ!?」

「そ、そうか」


 天笠の気迫に圧されて、俺は一歩後ずさる。その必死の弁明がさらに怪しい。


「コラァ、そこ、もう消灯時間過ぎてるぞ!」


 すると、後ろの方から先生を大声が聞こえてくる。慌てて時計を見ると既に10時を大幅に過ぎていた。


「じゃ、じゃあな、天笠……さん」

「あ、ちょっと待って! 絶対誤解してる!」


 俺はさっさと先生に一言言ってからその場を跡にする。

 天笠を俺を追おうとしていたがその前に先生に止められていた。


「先生! ご、誤解が!」

「何を言って……天笠、お前その服……」

「ちょ、あの日野原さんを追わせて下さ……!」

「天笠……タイに行く時は先生に言え、旅費くらいなら出してやる」

「先生!? いやあの……」

「だがすまん! 今は男として扱わねばならんのだ! 許せ!」

「先生!?!?」


 そんな茶番を繰り広げながら天笠は先生に連行されていった。


「それにしても……」


 いやぁ……まさか天笠が女だったとは、あれか、俺があいつに対して例の症状が出なかったのはアイツが元女だったからなのか……


 その夜は悩み事がなくなったせいなのかいつもよりも快眠だった。




「僕は全然眠れなかったけどね……」


 次の日、天笠は少し目の下に隈を作り、ジト目で俺を睨んできた。


「いや……ごめん」

「はぁ……いいよ、別に」


 俺が何も言えずに平謝りすると、天笠も溜め息を付きながらも俺を許してくれた。


 合宿2日目、昼過ぎには学校へと戻る手はずになっているが、その前にレクリエーションという名の長めの休憩時間を俺たちは過ごしていた。

 この時間を利用して俺と天笠は昨日の話の続きをすることにした。杏子たちに聞かれると頭の可笑しい奴だと思われかねないので、少しだけ離れたところに座っている。杏子と薫がじっとこちらを見つめていて非常に話始めづらい。


「日野原さん……昨日のは」

「分かってる分かってる、冗談だよ」


 昨日の夜の事については8割方は冗談だ、前世を経験していないならまだしも、俺も前世を経験しているし天笠と同じように性別も変わってるからそれについては大方信じている。残りの2割は……まぁお察し。


「で、なんで俺にこんな事言ってきたんだ?」

「なんでって……」

「だって別にこんなこと言わなくても良いだろ、黙ってりゃバレるわけないんだし」


 いや、バレたとしても一種の病気として扱われるだけなんだけどな。昔なら兎も角今の世の中じゃ特に珍しいものじゃない。


「そうだなぁ……敢えて言うなら、秘密を共有してくれる人が欲しかったんだよ」

「共有ねぇ……不安とかそういうのか」

「まぁそんなとこ」


 確かに、こういうのは誰に言っても信じてもらえる訳じゃないし、下手をすれば迫害される危険だってある。俺は兎に角体が自由に動くだけで満足だったから特に深く考えたことはなかったけど、不安に思っても仕方ないのかもな。


「僕ね」

「うん?」

「前世では武道をやってたんだけど」

「武道?」

「柔道とか合気道とか、剣道とか……それ以外にも海外の格闘技もやってたなぁ」


 随分とやんちゃだったんだな……俺からは考えられない世界だ。


「赤ん坊になったときはビックリしたけど、それならそれで今度は女の子らしく生きよう! って決めたんだけど……」

「男になってたって訳か……」

「そういうことだね」


 なるほどな、それは辛い……んだろうな。でもそれなら天笠の行動にも頷ける、ショーウィンドを眺めていたのも憧れとかそういう感情によるものなんだろうな。


「でも実際はどうでも良かったんだよね」

「ん?」


 あれ、話の展開が……


「女の子らしく生きようって思ったのは良いんだけど、僕自信、そういうの良く分からないし」

「おい」

「ははは、日野原さんはどう思う?」

「どうって言われても……自分の好きにすればいいだろ」

「だよね、僕もそう思うよ。女だったころは良く男っぽいって言われてて……それが引っかかってたんだと思う、けど日野原さんを見てたらそういうのが馬鹿みたいに思えてきちゃって」

「俺ぇ?」

「そうだよ、日野原さん、女らしくなるつもりなんてゼロじゃん」

「……」


 いや、まぁそうなんだけど。元男っていうのもあるけど、女物の服は何か嫌な感じしかしない。男物を着るのは母さんにも苦い顔をされるので、仕方なく女物を着ているがそれでもほとんど男物と似通ったものばかりだ。スカートなんて制服以外に持ってないしな。


「だから僕も吹っ切れようかなって思って」

「自由な奴だな」

「いやー……ごめんね、悩みをぶちまけるだけぶちまけておいて」

「いや、良いんじゃないか、それで」

「うん、ありがとね。これからは自分の欲望に忠実に生きていくよ」

「聞こえようによっては最低な宣言だな」


 天笠はそんな俺のツッコミにも満面の笑みを浮かべた。その表情は何か憑き物が落ちたように晴れやかだった。


 その日からだろうか……天笠のガタイが徐々に良くなっていったのは……これで、良かったんだよな?

気が付いたら一週間、早いですね。どうもです。

描くのが楽しくなってきそうです(投稿ペースが早くなるとは言ってない)

そして今回で超絶美少女(♂)の天笠くんは退場致します、ごめんね。


読了感謝です! 次回更新も毎度毎度のペースです、次回もよろしくお願いします!

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