ep9
鮮やかな緑色をした葉をつけた木々からは、鬱陶しくもこの季節を意識させる虫の、蝉の鳴き声が聞こえてくる。
「あづ……うぇぇ……」
離れのジムでいつも通り、日課をこなしたあとに、その蒸し暑さから出てきた額の汗をタオルで拭いながら俺は呻き声を上げる。
既に双葉中は夏休みに入っている。入る前はいろいろと不安だったりしたがすぎてみるとあっという間だな。
1学期は何も行事がなかったのが原因かもな、テストが2回あったくらいだぞ。
久しぶりに中学校のテストを受けてみたがやはりいい気分にはなれなかった、難しくはないんだけど。中間は5教科、期末は9教科のテストはもれなく学校全体の雰囲気をどんよりさせていた。
結果は……まぁまぁだな、まだ中1の1学期のテストだし、半分小学校の生易しいテストと同じようなものだ。加えて付属小は周囲の小学校よりもレベルが高かったらしく、かなり簡単に感じた。ほとんど満点に近い点数だった、理科と英語に関しては満点だ。
「水……」
汗をかいたらそく水分補給、喉が渇いたら遅いというのを何かの本で見たことがある。
ごっきゅごっきゅと喉を鳴らしながら冷たい水を流し込むと、身体全体が冷えていくような感覚に陥る。
俺は水分補給を終えると、ジムから自宅に戻ってシャワーを浴びる、そのままにしておくとベトベトになるしなにより寒い、こんな時期に風邪はひきたくない。これから来客もあるしな。
服も着替えてさっぱりした俺は、クーラーが程よく聞いたリビングでソファーに腰掛ける。キッチンには母さんが立って昼食の準備をしている。横を見ると、月紫といつもなら忙しく仕事に追われていて、こんな真昼間にはいないはずの父さんが同じように上を見上げながら涼んでいた。
「行儀悪いな……」
「あ、お姉ちゃんお帰りー」
「お、月乃。今日も頑張ってるな」
2人は俺がいた事に気がついくと、ほぼ同時に姿勢を戻してそう言った。親子だなぁと思う、俺も同じ様なところとかあるんだろうか……中身こんなんだけど。
「もうこんな時間か」
「ねぇねぇ、もうすぐ来るの?」
「おぅ月紫、もうすぐだぞ」
それから数分後、インターホンの独特な電子音がリビングに鳴り響いた。
どうやら到着したみたいだ。
「俺が出てくる」
「そっちのほうが喜ばれるだろうから行っておいで」
父さんの言葉を後ろから受けながらリビングを出て玄関に向かった。
ガチャリと扉を開けると、太陽の光を背に浴びながら2人の老夫婦が立っていた。お爺さんの方は金髪碧眼、お婆さんの方は黒髪黒目の日本人だ。
『おぉ、ツキノ! 出迎えてくれたのか、ありがとう』
「あなた、それ母国語ですよ。久しぶり、月乃」
方や外国語で、方や日本語でそう挨拶される。まぁ俺はどっちも話せるから大丈夫なんだけど。お爺さんの方はまだ日本語に慣れてないらしいからな、ここは日本語で控えるべきだろうか。
というわけで、俺は日本語じゃないほうで老夫婦に話しかける。
『久しぶり、祖父ちゃん、祖母ちゃん』
俗に言う英語というやつだ。
「お久しぶりです」
「久しぶり、お父さん」
「おぉ、ケイイチ、それにメグミも、久しぶりじゃのぉ」
「お祖父ちゃん、私もいるよ!」
「ツクシか、大きくなったねぇ」
「お祖父ちゃんも相変わらずファンキーだね!」
「funky? そうかのぉ?」
「こっちではあなたの風貌は珍しいですからね」
「そうじゃったの」
老夫婦、もとい俺の母方の両親が父さん母さんと、月紫との挨拶を済ませる。
母さんの父さん……つまり俺の祖父になるわけだが……その外見と独特なイントネーションからわかるとは思うが、生まれは日本ではなく英国のイギリス人だ、つまり母さんはハーフ、俺と月紫はクォーターって訳だな。初めてみたときは誰かと思い、母さんの両親だと知ったときは驚いた、母さんも見た感じ日本人だからな、日本人に比べて顔立ちがスッキリしているが、普通に美人で片付けられる。それでもハーフだけあるのか一度金髪にしたときは凄い似合ってたけどな。
そして俺も月紫もクォーターな訳だが、母さんがあまりイギリス人っぽくないせいなのかは知らないが、限りなく外国要素が少ない、俺も月紫も若干目の色が違うそうだが自分で鏡を見て確認してみた限りでは分からなかったからその程度なのだろう、クォーターと言っても疑われるレベルだと思う。
ちなみに、俺がこの祖父ちゃんたちも例の事件のことを知っている、小五の夏休みにも来日してくれたが、その時の心配ぶりと怒りようはものすごかった、祖父ちゃん祖母ちゃんが怒りすぎて逆に俺が冷めるくらいには怒っていた。
俺が英語がペラペラな理由としては、何度か英国に行ってるのが一番の理由だろうか、それに加えて多少だけど英語の本も読んだことがあるからそれもあるな。
どっちにしろ日常会話程度ならすぐに覚えられた、今よりもさらに小さかったし、子供の学習能力がうんたらかんたらとかいうアレだろうな、多分。
「ほらツクシ、これお土産じゃぞ」
「はい、月乃も」
両親に何か土産的なものを渡したあとに、どうやら俺たち姉妹にも何かくれるらしく、可愛らしく梱包された割かし大きなプレゼント袋が手渡された。
軽いな……人形かなにかか?
「開けていい!?」
「ほほ、開けて見なさい」
本日も元気一杯な月紫が祖父ちゃんにそう訪ねて、祖父ちゃんも嬉しそうに答えていた。中身はおおよその検討はついてるけどな。
月紫がガサガサと音を立てながら袋を開け始めるのを見て、俺も袋を開け始める。
「わぁ!! テディベアだ!!」
月紫は有名なクマのぬいぐるみを袋から取り出して抱きついて嬉しそうにしていた。
「ありがとお祖父ちゃん!!」
「ほっほ、喜んで貰えて何よりじゃよ」
そうこうしているうちに、俺の袋の中身も判明した。
なんと……テディベアだ!
俺がそれとなくクマのぬいぐるみを眺めていると、祖父ちゃんが物欲しそうな目で俺を見つめているのに気が付いた。
「ありがと、祖父ちゃん」
そういってニッコリを笑顔を向けると、祖父ちゃんも満足にげにしていた。
俺は再度クマのぬいぐるみに視線を戻す。
いや、別にぬいぐるみが嫌いとかそういうわけではないんだが……未だに感性が男の部分があってぬいぐるみを貰ってどう反応すればいいのか困ることがある。さらにいえば、祖父ちゃんは事あるごとにぬいぐるみとかそういった人形の類を送ってくるからな、既に俺の部屋には大量のぬいぐるみが安置してある。
祖父ちゃん、ぬいぐるみを抱かないと寝れないのはイギリス人だけなんだ、日本人は大丈夫なんだよ、と言ってあげたい気もするが、毎度毎度俺たちの反応を楽しみにしている祖父ちゃんの悲しそうな顔は見たくないのでぬいぐるみは絶賛増殖中だ。
ちなみに、ぬいぐるみに混じってプラモデルを置いてある。小遣いを貰ったけど使い道があまりなかったから試しに買ってみたらそれなりにハマった、家とか車とか船とか……その種類は様々だが、中々に楽しいものがあった。大体一ヵ月から2ヶ月のペースで1つ出来上がるため、そろそろ俺の部屋はカオスになってきた。
ベッド周辺はぬいぐるみだらけだし、本棚周辺はプラモだらけだからな……理想と現実の違いというものが認識できるぞ。
未だに杏子を家に招待したことがないが、いつの日か奏と一緒に家に呼んだときにどんな反応するか楽しみだ。
「ほほ、実はそのぬいぐるみ、姉妹らしいんじゃよ」
「姉妹……」
「そうじゃ、ツキノが姉で、ツクシが妹のぬいぐるみじゃ」
「へぇー!」
祖父ちゃんからそんなことを聞いた月紫は、クマのぬいぐるみを両手に持って、俺の持つ姉のぬいぐるみに裏声で話しかけてくる。微笑ましい気持ちになりながらも俺も裏声でそれに答えた。
そのあと、当たり前のように俺は自分の部屋にぬいぐるみを持っていったが、これって姉妹を強制的に別れさせているんじゃないか、という気持ちになってしまいちょっと気持ちが沈んだ。
読了感謝です。
ストックなくなりました……早いね、書くの時間かかったのにあっという間だったよ……
次は大体一週間以内には上げようと思っています、一応ネタは出来上がってるのでなんとかなると思いまする。
それではまた。




