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月を染めゆく緋色のベルベット  作者: 藍スミレ
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それだけの事

「それだけの事って、十分な大事じゃないですか」


「まぁな、けど狼狽る事ぁねえよ。 こういう時こそ冷静に、かつ五感を最大限にまで高めて事に当たるしか方法はねぇんだよ、大概はな」


 言って、ヴァルドレッドは悠然と廊下を闊歩していく。

 ロウは慌ててヴァルドレッドについていった。


 廊下の向こうはどこまで行っても暗く、饐えた匂いとジメジメとした空気が漂っていた。

 まるで生き物の長い胃袋の中を歩いているような。


 歩いている床材すら、水分を含んでいて音がならなかった。

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