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月を染めゆく緋色のベルベット  作者: 藍スミレ
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選んだからには

 奴隷時代のロウは、とにかく必死だった。

 毎日、体を忙しなく動かして働いているのにも関わらず、生きている心地がしなかった。

 心が常に死んでいた。


 いずれは肉体も動かなくなる。

 ロウはアルビノという先天的な病が起因し、他の奴隷達とは見た目が大きく異なっていた為、毎日の強制労働は他の奴隷に比べて軽く済まされていた。


 理由は高く売れる為。

 馬車馬の如く働かせて動けなくなったら、後は異国の金持ちに高値で売ろうという主人の思惑だった。

 ロウは顔立ちも端正な作りをしていた。

 奴隷商人からしてみれば、宝石を掘り当てたようなモノだったのかもしれない。


 奴隷を買う人間には、珍しい人種を好んで買う者も決して少なくない。

 一度買い手がつけば、もう人として戻れなくなるかもしれない。


 そうなれば、ロウは密かに考えていた、血縁者を探す旅に出れないだろう。


 ならば、今からでも逃げるしかない。

 できる事なら、もっと絶好に近いタイミングで計りたかった脱走だったが、既に時間は迫りつつある。

 肉体的にも、ここらが限界だろう。


 ロウは強く決意した。

 捕まって死ぬとしても、逃げきって生きながらえるとしても、どちらにしても後悔だけはしまいと。


 そこからのロウの行動は、恐ろしく迅速だった。

 ロウは火事場の馬鹿力を出しきって、足に繋がれた鎖を掌だいの岩で少しづつ、慎重に削りきった。


 鎖が切れると、そこからは看守の目をあの手この手で掻い潜って、無我夢中で走った。


走って。疾って。奔った。

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