表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月を染めゆく緋色のベルベット  作者: 藍スミレ
7/101

だから私は

とりあえず、次回からはここにキャラクター紹介を書こうと思います!

「はーい、どちら……」


 刹那、ドアを開けようと伸ばしたロウの手首を、ヴァルドレッドがガッシリと掴む。


 彼女は人差し指を唇に当て、静止の合図を見せた。


 つい先程まで、無邪気な笑顔で遊んでいた彼女だったが、もう既にその面影はない。

 戦士の目だ。

 獲物を捉えた獅子の如く、貪欲に襲撃する機会を窺うような獰猛な眼。


「……俺が開ける、退がってろ」


 ロウは終始、訳が分からず困惑している様子だったが、迫力に負け、とりあえず従う事にした。

 常人が戦士の気迫に敵う道理など、ある筈もない。

 ヴァルドレッドはドアノブに手をかけ、再度ノックされたドアを、ゆっくりと慎重に開けていく。


「ああ! すみません、部屋を間違えました!」


 見れば、ドアの向こうには一人の女性が立っていた。

 髪は淡いブロンド、中肉中背、端整な顔立ち。

 別段、珍しい格好といった訳ではなく、街中を歩いている雑踏と、なんら遜色のない格好をしている。

 ただ、肩から下げている大きめのバッグは、その格好とは似つかわしくない、何か異様な不気味さを醸し出していた。


 女性は若干、慌てふためいた様子で、その場を去っていく。


「……ふん、今度来やがったらタダじゃ置かねぇ」


 鼻で笑って、ヴァルドレッドは嫌悪感丸出しにドアを閉めた。


「部屋を間違えただけじゃないですか」


 呆れた様子で溜め息を漏らすロウ。

 だが、ロウのその物言いに、ヴァルドレッドは呆れて溜め息を漏らした。


「そんな訳あるか」


 ベッドに座り、腕を組んで、ヴァルドレッドは先程の女性の正体を明かした。


「あれは空き巣だ」


 眉を(ひそ)めるロウ。

 無理もない、外国へよく行く者や旅人でなければ、あまり気づかないタイプの手口なのだから。


「え、でもそんな風には……」


 普通に考えてみれば、なんて事のない、ただ部屋を間違えた宿の客人だと思うだろう。

 だが、少し考えてみれば最初からおかしいのだ。


 部屋を間違えるのは別段、変わった事ではない。

 しかし、部屋に入る者はあくまで


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だとすれば妙だ。

 果たして、人は自室に入る時にノックなどするのだろうか。

 無論、通常はしないだろう。

 ましてや、人がいるか確認するように、二度もノックなどする筈もない。

 例え自室に人がいるとしても、それは大抵、家族や友人などが殆どであり、やはりおかしい。


「初見ではなかなか気づかない、地味に巧妙な手口だからな。 気がつかねぇのも無理はねぇ」


 言って、ヴァルドレッドはベッドから降りた。

 そして、ロウの手を握って、ドアノブに手をかける。


「出かけるぞ、買わなきゃいけねぇ物が山程ある」


 言って、二人は部屋を後にした。



 ♤



 久しぶりに、この町を訪れた。

 最後にここへ来たのは、王国に反逆を起こす三日前だったのを覚えている。

 来たるべき出陣に備えて、最後に必要な道具を一式買い揃える為だ。


「変わらねぇなぁ、ここは」


 絶える事のない人混み。常に騒がしい喧騒。所狭しと建てられた店の数々。

 私はこの町の在り方が好きだ。

 秩序は確かにそこに存在しているが、人々は良い意味でそれに囚われていない。


 一方で、私の国の騎士達はどうだ。

 常に取り憑かれたように歪曲した騎士道を重んじ、少しでも刃向かう者がいれば、その場で処刑する。

 その容赦のなさは、私でさえ恐れを抱く。


 あの王は既に人じゃない。

 人じゃあ無いから、合理的に物事を裁定できる。


 しかし、かといって外道でもない。

 王がただの外道だったなら、私が行動を起こさずとも、勝手に自滅していただろうから。


 強いて言うのなら、アレは神だ。


 人としての倫理で物事を見ず、常に合理的な発想と超常の力で理想を実現していく。


 だから、私は王を裏切ったんだ。

もしもお気に召して頂けたら、ブックマーク等して下さると幸いです。


皆様の心に響くような作品が書けるようになるまで、私は日々精進します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ