だから私は
とりあえず、次回からはここにキャラクター紹介を書こうと思います!
「はーい、どちら……」
刹那、ドアを開けようと伸ばしたロウの手首を、ヴァルドレッドがガッシリと掴む。
彼女は人差し指を唇に当て、静止の合図を見せた。
つい先程まで、無邪気な笑顔で遊んでいた彼女だったが、もう既にその面影はない。
戦士の目だ。
獲物を捉えた獅子の如く、貪欲に襲撃する機会を窺うような獰猛な眼。
「……俺が開ける、退がってろ」
ロウは終始、訳が分からず困惑している様子だったが、迫力に負け、とりあえず従う事にした。
常人が戦士の気迫に敵う道理など、ある筈もない。
ヴァルドレッドはドアノブに手をかけ、再度ノックされたドアを、ゆっくりと慎重に開けていく。
「ああ! すみません、部屋を間違えました!」
見れば、ドアの向こうには一人の女性が立っていた。
髪は淡いブロンド、中肉中背、端整な顔立ち。
別段、珍しい格好といった訳ではなく、街中を歩いている雑踏と、なんら遜色のない格好をしている。
ただ、肩から下げている大きめのバッグは、その格好とは似つかわしくない、何か異様な不気味さを醸し出していた。
女性は若干、慌てふためいた様子で、その場を去っていく。
「……ふん、今度来やがったらタダじゃ置かねぇ」
鼻で笑って、ヴァルドレッドは嫌悪感丸出しにドアを閉めた。
「部屋を間違えただけじゃないですか」
呆れた様子で溜め息を漏らすロウ。
だが、ロウのその物言いに、ヴァルドレッドは呆れて溜め息を漏らした。
「そんな訳あるか」
ベッドに座り、腕を組んで、ヴァルドレッドは先程の女性の正体を明かした。
「あれは空き巣だ」
眉を顰めるロウ。
無理もない、外国へよく行く者や旅人でなければ、あまり気づかないタイプの手口なのだから。
「え、でもそんな風には……」
普通に考えてみれば、なんて事のない、ただ部屋を間違えた宿の客人だと思うだろう。
だが、少し考えてみれば最初からおかしいのだ。
部屋を間違えるのは別段、変わった事ではない。
しかし、部屋に入る者はあくまで
その部屋を自分の部屋だと思い込んでいるのだ。
だとすれば妙だ。
果たして、人は自室に入る時にノックなどするのだろうか。
無論、通常はしないだろう。
ましてや、人がいるか確認するように、二度もノックなどする筈もない。
例え自室に人がいるとしても、それは大抵、家族や友人などが殆どであり、やはりおかしい。
「初見ではなかなか気づかない、地味に巧妙な手口だからな。 気がつかねぇのも無理はねぇ」
言って、ヴァルドレッドはベッドから降りた。
そして、ロウの手を握って、ドアノブに手をかける。
「出かけるぞ、買わなきゃいけねぇ物が山程ある」
言って、二人は部屋を後にした。
♤
久しぶりに、この町を訪れた。
最後にここへ来たのは、王国に反逆を起こす三日前だったのを覚えている。
来たるべき出陣に備えて、最後に必要な道具を一式買い揃える為だ。
「変わらねぇなぁ、ここは」
絶える事のない人混み。常に騒がしい喧騒。所狭しと建てられた店の数々。
私はこの町の在り方が好きだ。
秩序は確かにそこに存在しているが、人々は良い意味でそれに囚われていない。
一方で、私の国の騎士達はどうだ。
常に取り憑かれたように歪曲した騎士道を重んじ、少しでも刃向かう者がいれば、その場で処刑する。
その容赦のなさは、私でさえ恐れを抱く。
あの王は既に人じゃない。
人じゃあ無いから、合理的に物事を裁定できる。
しかし、かといって外道でもない。
王がただの外道だったなら、私が行動を起こさずとも、勝手に自滅していただろうから。
強いて言うのなら、アレは神だ。
人としての倫理で物事を見ず、常に合理的な発想と超常の力で理想を実現していく。
だから、私は王を裏切ったんだ。
もしもお気に召して頂けたら、ブックマーク等して下さると幸いです。
皆様の心に響くような作品が書けるようになるまで、私は日々精進します!




