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岩の如く
「ふん、あんな騒ぎを起こしておいて、よくもまぁ生きのびられたもんだ。で、要件はなんだ」
言って、男はヴァルドレッドの前を通って、荷物の詰まった皮袋を壁のフックにかけ、たてつけの悪い木製の窓をこじ開けた。
ガタガタという歯切れの悪い音と共に、外のほんのり冷たい風が部屋の中へ入って、ヴァルドレッドとロウの頬を優しく撫でてゆく。
開けた窓の向こう側は灰色の壁で、どうやら昼間であろとも太陽の光とは無縁らしい。
男は反対側にある窓も、力ずくでこじ開けた。
こちらは日光を遮るものが無いらしく、一息に開けられた窓から、輝かしい光が洪水のように入ってくる。
男の近くに立っていた二人は、あまりの眩さに眼前を手で覆う。
その時、覆った指の隙間から、ロウはようやく目の前の男の全体像を見る事が出来た。
男は老人だった。
背は低く、顎髭は柳の葉の如く伸び、着ている衣服は所かしこにささくれが飛び出ている。
しかし、そこから覗く手足は岩の如く隆起が激しく、ロウ達を見据える黒い双眸は、猛牛のような獰猛さを宿していた。




