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危うく
部屋の中に一切の明かりはない。
部屋はほんのりと薄暗く、剥き出しの地面に製鉄の際に使うであろう道具の数々が、所狭しと散らばっている様子だった。
どうやらここは住宅ではなく、仕事場らしい。
「ちっ、留守か。 しゃあねぇ、一旦買い物を済ませてから……」
踵を返し、そのまま買い物に向かおうとした途中。
「ちっ、今日は厄日だな。 もう見る筈のねぇ亡霊の顔が見えやがる」
野太い男の声。
まるで、大地を底から震え上がらせるような酷く雄大な声だ。
男は開いたドアの前に立っていた。
キィキィと開いたドアが前後に揺れ、壊れたオルゴールじみて音を発している。
手には大きな皮袋。
何が入っているかは定かではないが、皮袋がパンパンに膨らんでいる事から、ギッチリと何かが詰め込まれているようだ。
「おお! 危うく入れ違いになっちまう所だったぜ」




