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月を染めゆく緋色のベルベット  作者: 藍スミレ
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赤天の大騎士

ご視聴頂きありがとうございます!


毎日投稿を心がけておりますので、もしお時間が宜しければ暇な時などにも、読んで下さると幸いです。


これからもどんどん投稿していきます!

 ロウがパンを食べ終えた頃、私ははたと重要な事を思い出した。


「そうだ、鎧は……私の鎧と剣はどうした!?」


 慌ててベッドから飛び降り、ロウの両肩を掴んで揺さぶりながら問いただす。

 ロウは揺さぶられながらに、なんとか伝える言葉を絞り出してくれた。


「とっ隣の部屋に、置いてっありまっす!?」


 それを聞いて、私はほっと胸を撫で下ろした。

 もしも、武具屋にでも売られていたらと一瞬肝を冷やしたが、どうやら杞憂に終わったらしい。


 あの剣と鎧はこの世に二つとない、尋常ならざる力を備えた魔剣と魔鎧だ。

 万が一失くしてしまったら、私は否応無しに弱体化を余儀なくされてしまう。

 そうなってしまえば、もう王国に反逆する事はおろか、かつての同胞達と相対する事すら、叶わなくなってしまうだろう。


 それは、絶対にあってはならない事だ。

 私はまだ反逆を諦めていない、この命ある限り何度でもあの王に牙を剥いてみせる。

 救われた命を、決しておごそかにしてなるものか。


 私は掴んでいたロウの肩を離して、急いで隣の部屋へ走っていく。


 たてつけの悪い、今にも壊れてしまいそうな木製のドアを強引にこじ開け、私は部屋へ身を投じた。


「……ねぇじゃねぇか! どこにも!!」


 部屋には装備一式どころか、家具の一つも置かれていない。

 それでも、くまなく目で部屋を探すがやはり無い。


「イタタ、そんな筈は……あれ?」


 肩を押さえながら部屋に入ってきたロウは、キョトンとした表情で固まっている。

 どうやら、この事態を飲み込めてないらしい。


「お前……(はか)ったりしてないよな」


 数多の戦場を駆けぬけて鍛えられた、歴戦の戦士特有のドスの効いた睨みでロウを見据える。

 その挙動が本当かどうか確かめる為に。

 もしも、全てが謀り事なのであれば、目の前のこの少年をふん縛って全て吐かせれば済む事だ。


 ロウは足をガクガクと震わせながら、身振り手振りも混じえて、必死に弁明の言葉を吐き続ける。

 やがて、収まらない恐怖に屈したのか、情けなく腰を抜かして後ずさりを始めた。


「してません! してません! 助けて下さい!!」


 ……どうやら、演技では無いらしい。

 今まで嫌という程見てきた、怯えた人間の仕草とほとんど変わらない。

 だとすれば、盗っ人の類か。


「おい、私は鎧を脱がされてから、一体どれくらいの時間寝ていたんだ!」


 焼けた木炭に冷水をかけるが如く、私は取り乱した自分を必死に押さえて、冷静に事に当たるように努力した。


 緊急事態だからこそ、常に冷静でいなければならないのは戦場の鉄則だ。

 それが、武器を盗まれたとなれば尚のこと。


「えっと、えと……十分くらいでしょうか。 思ったよりも重いし、外し方がよく分からなくて」


 十分か。

 鎧の総重量は相当なモノだから、分解して運んだ方が効率的だろう。

 という事は、おそらく盗っ人は複数人いる。

 だったら、ギリギリなんとかなるかも知れない。


「……とりあえず、鎧取り返したらまた来るからな」


 四角い窓から身を乗り出して、建物の屋根に登る。


 そこでようやく、私が流れついた町の景色を一望する事ができた。


 町の建物は全て、粘土質の土と草を混ぜて固めた、原始的な建造物ばかりが立ち並ぶ、華やかさなど微塵も見えない乾いた風景。

 植物はほとんど見られず、町中を歩く人も少ない。


 なるほど、お尋ね者や訳ありの人間には、何かと都合が良い場所のようだ。

 だから、ロウもここに身を置いている訳か。


「ここなら盗みも日常茶飯事って感じだな」


 手のひらを目の上に当て、辺りを入念に見回す。


 まだそこまで時間は経過していない。

 ましてや、盗っ人達は分解してもなお重たい鎧一式を持っているのだ。

 まだ、そう遠くへは行っていないだろう。


 そして、幸いにも今日は陽射しが強い。


「……………いた! ヤロウよくも私の鎧を!!」


 まるでここだと知らせるように、何度も明滅を繰り返しながら動く光。

 思った通りだ。

 鎧が焦がすように熱い陽射しを反射しているのだ。


 ここから二、三百メートルといった所だろうか。

 この程度の距離、私にとってさほど問題ではない。


 右手のひらを屋根につけて、足に力を込める。


「盗っ人風情が! 返して貰うぞ、我が鎧!!」



 ♠︎



 瞬間、屋根の一部が弾けるように消し飛ぶ。

 周囲には尋常ではない強風が押し寄せ、町行く人々の衣服と数少ない木々を激しく揺らした。


「へへっ、これで俺たちは金持……」


 言いかけた所で、盗っ人達のすぐ横を尋常ではない速さの何かが通り抜けた。

 同時に、凄まじい衝撃波と土煙が盗っ人達を襲う。


 まるで、目の前に隕石が降ってきたかのような衝撃と轟音だ。


 否、隕石ではない。

 人だ、それも生身の人間ただ一人。


「テメェら、一人も生きて帰さねぇからなぁ!!」


 広く抉れた地面の上に立っていたのは、額に青筋を浮かべながら、指をポキポキと鳴らす一人の女。


 風になびく金髪はさながら黄金のように美しく、はっきりとした顔立ちの上部から覗く双眸は、宝石のように欄として赤い。

 体は女性特有のくびれが目立つが、決して軟弱とは程遠く、無駄なく鍛えられた肉体美を誇っている。


 彼女こそ、比類なき暴君にその牙を剥いた者。


 赤天の大騎士ヴァルドレッド。

もしもお気に召したようでしたら、宜しければブックマークなどどうでしょう。


皆様の心に響くような作品が書けるようになるまで、私は執筆をやめる事はありません。

これからも、頑張って書いていきます!

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