際
破城の聖剣が振り下ろされ、紅蓮の刃が鎧を断ち切る刹那、レイスの脳裏に、まるで蜃気楼のような、遠い日の記憶が走馬灯めいてよぎった。
「あ……」
それは、忘れもしない忌まわしきあの日。
彼女、ヴァルドレッドがレイスを陥れた、その時の記憶。
何気ないいつもの会話。
普段となんら変わらぬ凛々しい笑顔。
その上で語られる、偽の任務の話。
場所は遠い異国の果て。
我が国に仇なす敵勢力が、着々と軍備を整え、日に日にその力を増しているとの事。
レイスの任務はつまり、敵勢力についての情報収集と、あわよくば敵の拠点を破壊、もしくは壊滅。
レイスの聖剣の力を使えば、やってやれぬ仕事ではない。
その剣に斬られた物はなんであれ、たちまち春に芽吹く草花のように、岩石が生え、その者に治癒不可能な致命傷を負わせる。
戦場で兵士をその場で回復させて、すぐに戦闘復帰させる例は極めて多い。
ましてや、重軽傷を問わずに、傷を治せる凄腕の医療魔術師がいるならば尚の事。
レイスはそれらの魔術、及び魔術師を封殺できる。
傷口が全て無機物に覆われれば、さすがの医療魔術も手が出せない。
出血は止まるだろうが、その代わりに体は重く、体内にまで生えた岩石が肉を抉る。
少なくとも、もうまともな生活は送れないだろう。
唯一、ヴァルドレッドの持っている最上級の聖剣であれば、また話は別になってくるだろうが。
レイスはヴァルドレッドの話に、何か妙な違和感を抱いていたが、今までの彼女の武勲と人柄から、最終的に気のせいだろうという事に収まる。
後にこれが、彼の人生最大の汚点となる事も知らずに。




