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もはや
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このままでは埒があかないと彼は踏んだのだろう。
意を決して、陽炎の騎士レイスは強行突破を試みる事にした。
「へぇ、いい度胸してるじゃねぇか」
ヴァルドレッドは、さらに火力を上げていく。
もはや、周囲は生き物が住めるような環境ではない。
漂う空気は吸うたびに喉を枯らし、粘つくような熱気は肌に触れると滝のような汗を噴き出させる。
レイスは勿論の事、遠くから二人を眺めているロウでさえも、もはや脱水症状になる寸前にまで追い込まれていた。
しかし、当人のヴァルドレッドは汗粒一つ流していない。
「熱を遮る何かが、彼女にはあるのか」
遠い。
避ける事に専念していたレイスは、改めて彼女との距離を再確認した。
距離にして、約十二メートル。
普段であれば、ほんの数歩跳べば届く距離だ。
「近づこうにも、逆巻く炎と火柱が邪魔だな」
柄を握るレイスの手に、じっとりと汗が滲む。
歴戦の騎士だけあって、誤って手が滑ってしまう事は無いが、不快だ。
額や首筋からも、滝のように流れていく。




