不敵に
すみません、やはりここは空白にしておきます。
「驚いた……よもや生きていたとは」
誰もいない、町から外れた森林の広間。
辺りに人の気配はなく、常に清らかな風が葉を揺らし、小さなさざめきが辺りを包んでいる。
彼女はそこを、決闘の場に選んだ。
「まぁな、流石に死ぬかと思ったぜ!」
真っ白な歯を見せて笑うヴァルドレッド。
まるで無邪気な子供を思わせる、太陽のように明るい笑顔だ。
しかし、一方でレイスの表情は次第に曇っていく。
「……その笑み程、癪に触るもの無し。 良かろう、我が剣にて、裏切り者を切り捨ててくれる」
カチャリと、腰の鞘に収められた剣を一息に抜いて、切っ先をヴァルドレッドへ向けるレイス。
「私の岩芽吹く聖剣と貴方の破城の聖剣、果たしてどちらが血で濡れるか、いざ尋常に勝負!」
二人はほぼ同時に駆け出した。
二人は酷く鈍重な鎧を物ともせず、波のように走っていく。
最初に仕掛けたのはレイスだ。
膝下まで垂れ下げた、岩芽吹く聖剣と呼ばれる聖剣を、袈裟斬りに振り下ろす。
ヴァルドレッドは咄嗟に横へ飛ぶ。
空振った聖剣は、そのまま生えていた草を無残に散らした。
「やはり、まともに受けてはくれぬか」
見れば、レイスが散らした草の切れ端から、無数の小さな岩が生えていた。
まるで、季節に芽吹く花の蕾のように、もぞもぞと次第に大きくなっていく。
「ったりめーだ。 岩芽吹く聖剣とまともに打ち合ってたら、汗だくになっちまう!」
聖剣と呼ばれる大騎士の武器には、それぞれ精霊が宿っている。
精霊は、宿った武器の持ち主とその武器に加護を与え、代わりに持ち主の魔力を糧としてその武器に宿り続ける。
一種の、鳥籠と鳥のようなものだ。
一方で聖剣は、その宿った精霊の力を自由に引き出して、自在に操る事ができる。
レイスの聖剣に宿っている精霊は岩の精霊。
その刃に触れた物は、そこから岩がたちまち蕾のように生え、やがて全身を岩で覆い尽くされてしまう。
「汗だくになるほど、立ってられるかな?」
言って、レイスは不敵に笑む。




