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月を染めゆく緋色のベルベット  作者: 藍スミレ
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断ち切る

ヴァルドレッド……元王国の大騎士。王国に反逆を起こし、今は行方不明という事になっている。


ロウ……元奴隷。奴隷商人から逃げて、やがてヴァルドレッドと旅をする事になる。


レイス……王国の大騎士。ヴァルドレッドのかつての同胞。陽炎の騎士と呼ばれている。

 ヴァルドレッドは肩肘をついて、なんともいたたまれない表情で考え込んでいる。

 無理もないだろう。

 反逆したとはいえ、彼女とて元騎士なのだ。

 助けるべき者を助けられなかった後悔の味は、嫌という程知っているし、身に染みている。

 だからこそ、彼女は心底悟っていた。

 彼の騎士とは二度と、道を歩めまいと。


 できる事なら、もう二度と顔を合わさずに事を成し得たかった。


 無論、それは不可能だと彼女は分かっている。

 しかし、そう思ってしまう程に辛い。


 しかし、どんなに辛くとも決断をしなくては前に進めない。


「仕方ねぇ、あまりコレは使いたくなかったんだけどなぁ」


 バチンっと、手のひらを膝に打ち付けて、何かを決心したヴァルドレッド。

 どうやら、腹を括ったらしい。

 ヴァルドレッドは人差し指を肩の鎧に当て、何か文字のようなモノを書き始めた。


「何をしてるんです?」


 彼女は何も答えない。

 どうやら、黙って見ておけという事らしい。


 ロウは終始、不思議そうに首を傾けてその光景を眺めている。

 やがて、動作が終了したのか、彼女は肩の鎧から指をそっと離していく。

 すると、何かを書いていた肩の鎧に、枝分かれした木の枝のような、光輝く文字が浮かび上がった。


「魔術だ、人の視覚に影響を及ぼすタイプのな」


 途端、ロウから見たヴァルドレッドの姿に異変が生じる。

 さっきまで、彼女は煌びやかな鎧に包まれていた。

 しかし、今ではその煌びやかな鎧が、そこらの武器で安く売られている一般的な防具と、なんら遜色のない普通の鎧としか認識できないのだ。


 まるで、希少な宝石がそこらに転がっている石ころと大差ないと思ってしまうように。


「これで、問題なくアイツに近づける」


 アイツとは、無論レイスの事を言っているのだろう。

 ロウはその言葉の意味を理解した。

 もはや、何をするかは明白なのだから。


 今もなお、彼女の足下には無数のしがらみが蔓のように複雑に巻きついている。

 彼女はその一部を、己が剣で断ち切る事を決めたのだ。


「言わなくても分かるな、すぐに準備しろ。 お前に命をかけた決闘ってモノを見せてやる」


 彼女の瞳は、燃えるように赤く、滾っていた。

もしもお気に召して頂けたら、ブックマーク等して頂けると幸いです。



皆さんの心に響くような作品が書けるようになるまで私は執筆をやめません!

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