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月を染めゆく緋色のベルベット  作者: 藍スミレ
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プロローグ ひび割れの騎士

皆様、初めまして、藍スミレと申します。


今回初めて、ハイファンタジーのジャンルで小説を執筆させて頂きました。

以前から書いてみたいと思っていたので、なんとか執筆できて良かったです。


なにぶん、まだまだ未熟な腕前ではありますが、何卒、ご容赦下さい。


毎日投稿ですので、お時間が空いている時などにも読んで下さると幸いです。


それでは、どうぞ宜しくお願いします

 砂塵が飛び交う異邦の果て。


 水気のないひび割れた大地を、おぼつかない足取りで、ただひたすらに、歩く。


 ここは地獄だ。


 植物はおろか、生きていくのに必要な水さえ無い。

 あるのは、元がなんだったのか分からない動物の骨と、果てが見えない干ばつした地表。

 そして、焼けるように熱い太陽の光だ。

 この光景のどこに、楽園などと呼べるモノがあるのだろうか。


 かつて、仕えていた王は言った。


 ここを楽園に変えてみせると、国民の誰もが飢えや貧困から解放され、笑顔に溢れる王国を築きあげてみせると。


 その誓いには、心から賛同できた。


 しかし、乾ききったこの大地では作物は育たない。

 そもそも、唯一の水源である国の付近を流れていた川は既に干上がっており、今ではただの九十九折のなだらかな道に成り果てているのだ。

 国を築くどころか、人など住める筈もない。


 故に、人々は王に願った。

 枯渇も甚だしいこの国は捨てて、新しい王国は別の土地で築いていこうと。

 口には出さないものの、他の騎士達の多くも、何の生産性も利用価値もないこの土地では、もう人は暮らせないと諦めていた。

 歴史や伝統だけでは、人は食べていけないのだ。


 故に、ここを離れる事こそ、今抱えている飢えや貧困を軽くする一番の解決策なのだと、皆が信じて疑わなかった。


 だが、王はその案を良しとしなかった。

 先祖代々から受け継いできた由緒あるこの土地を、みすみす手放す事を頑なに拒んだのだ。

 王は人の命よりも、歴史と伝統を選んだ。

 のみならず、他の土地に移ろうとする者達を一人残らず処刑するとまで宣言した。


 混乱と絶望が、民草と騎士達に伝染していく。


 横暴余りある行為に、民草は堪らず猛抗議をした。

 無理もないだろう、既に民草達の中には、餓死する者達も出ていたのだ。

 今ここで、王が決断を下さなければ、今よりも多くの命が失われる事は火を見るより明らかな事。

 にもかかわらず、王は最後まで首を縦に振ろうとはしなかった。


 その結果、一人の大騎士を筆頭に民草達は、武器の代わりに鍬や鎌などの農具を手に取って、大規模な叛乱を起こした。

 一方で王も、暴徒鎮圧の為に大軍の騎士を国中に送り込んで、防衛を開始する。

 誰も、その戦端を止める事はできなかった。


 その日の王国は、まさに混沌としていた。


 崩れていく家屋に上空を昇る黒い煙。

 飛び交う怒号と哀れな悲鳴。

 金属同士が擦れ、弾きあう甲高い音。


 その日の光景は、まるで昨日の事のように鮮明に覚えている。

 いや、忘れようにも忘れられる筈が無い。

 戦場に、幾度となく足を運んでいる者だからこそ知っている、あの地獄絵図を。


 ──歩を進める度に、ひび割れた鎧の一部が破片となって、悲鳴のようにパキパキと音を立てて、下に零れていく。


 ロクに手当てをしていない傷口からは血が漏れ、鎧の隙間からポタリポタリと休む事なく赤い雫が落ちていく。

 放っておけば失血死は免れないだろう。

 なにせ、鎧ごと横腹を貫かれているのだ。

 自分でも、こうして歩けているのが不思議に思えてくる。


 のみならず、右腕は既に感覚がない。

 垂らしたロープのように、常にダラリと力なく下を向いて、歩いた振動で右往左往とするだけだ。

 もう腕として機能していないのは一目瞭然で、体の一部というよりは装飾品の一部のように感じる。


 意識が遠退く。目が霞む。体は岩のように重い。


「ちく……しょ…」


 頰に固い地面が激突した。

 どうやら力尽きて、倒れたらしい。


 そこで、意識は完全に闇に飲まれた。


 ただ意識を失う直前、目の前に人の足が見えた気がする。

もしもお気に召して頂けたら、ブックマークやお気に入り登録して頂けると幸いです。


皆様の心に響くような、素晴らしい作品を綴れるようになる日まで、私は執筆し続けます。


これからも、どうぞ宜しくお願い致します。

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