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32 反撃

 村の歩道には色とりどりの屋台が並び、提灯が明かりを照らしている。

 しかし。

 浄化の炎は少しずつ消えていく。一つ、また、一つと。

 異変に気がついた、祭りを楽しむ人々が少しずつ静まる。

 舞殿からのお神楽の音だけがより一層大きく響いた。

 ザワッと一際大きな風が吹き抜けて行った。

 境内にある池の水面が揺れた。

 次の瞬間、空へと巻き上がり消えていった。



「スイ」



 和花はスイの名を口にしていた。

 灰色の瞳から透明な雫が溢れるのをそのままに、ガクを見つめながら、和花は言葉にした。

 ガクの手が伸びてくる。指の隙間から、狂気に満ちたオレンジ色の瞳が見えた。

 助けてほしいと心の底から思った。スイを絶望させたくなかった。

 だって、スイは和花が神になったとしたら、手を差し伸べても応じてくれない。

 結局、消える道を選ぶのだろう。

 同じように消えるなら、最後までスイの望むあり方で居たい。

 和花はガクの手が迫った瞬間、強くそう思った。

「さあ、これで終わりだよ」

 ニッコリと笑って、ガクが和花に触れようとした時。

 社が揺れた。

 和花もガクも立っていられない。床に放り出され、フライパンの中にいるかのように転がった。

 白い空間にヒビが入り、大量の水が流れ込んでくる。

 驚いた表情をしていたガクが大量の水を跳ね返そうと、神気を使う。

 ガクが手を伸ばし、何かを掴むような動きをする。すると流れ込んでいた水は渦を描いて、その場にとどまった。

 水は押し留められたようにみえた。少なくとも、和花の目にはそういう風に映った。

「攻撃の内にも入らないよねぇ」

 くすくすとガクが笑みを零した。

 和花は何が起きたのかを整理しようとした。

 しかし、目の前にガクが迫ってきている。とにかく逃げるしか無い。

 と、社が再び大きな揺れに見舞われた。

「何っ!?」

 ガクが声を上げると先程の倍以上の水が大きな波となって押し寄せてきていた。

 ガクの神域が外から壊されたのだと理解する前に、和花は大きな波に飲まれたのだった。

 大量の水が口や鼻から入ってくる。

 和花の口から空気が漏れて気泡になって上へと向かっていく。

 和花は波に抗えず、沈んでいく。

 意識が闇に吸い込まれるようにして消えていった。

 最後に見えた光に手を伸ばす。よく知っている暖かさに触れたような気がした。


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