表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/39

25 家族

 和花が家に帰ると父親が和花の前に回った。

「お帰り、和花ちゃん」

 父親が両腕を広げる。

 和花は自ら、腕の中に飛び込んでいった。父親の腕の中は暖かくて、安心した。

 祭りを行うことが出来る。

 今更のように現実感が出てきた。和花は嬉しい気持ちと悔しい気持ちとを抱えながらも、良かったと息を吐き出す。

「偉いぞ、偉いぞ~っ!」

 父親は甘ったるい声で言いながら、和花の頭をぐしゃぐしゃと撫で回している。

 いつもなら、子供扱いされている気がして嫌がるのだが、今日は違った。酷く甘えたい気分だったのかもしれない。父親の抱擁を大人しく受け入れることにしたのだった。

「ほらほら、いつまでやってるのよ?」

 母親が呆れ顔で奥から出てきた。

 その段階になって、父親が和花から離れた。

 和花は母親にも抱きついた。母親はちょっと驚いた顔をしていたが、すぐに抱き返してくれた。

 優しい抱きしめ方と母親の匂いはひどく心地が良かった。

 嬉しいはずなのに、灰色の瞳に涙が浮かぶ。

「ほらほら、泣かないの。ちょっとしたご馳走を作ったんだからね」

 母親が微笑んで、和花の目尻に溢れかけた涙を指ですくってくれた。照れくさくなって、和花はそっと視線を逸した。

「龍現もおいで。ほらギューってしてやろう、ほら」

 和花が感動している後ろで父親が龍現ににじり寄る。龍現は溜息を付きながら、面倒そうに金色の瞳で父親を見つめている。

 父親が龍現に飛びかかる。

 龍現がひらり、と身を返す。そのまま、バランスを崩している父親の横を通り抜け、母親に頭を下げてから部屋の中へと入っていく。

 相変わらずだな、と和花は苦笑を浮かべる。

「本当、いつまでたっても子供ね」

 母親がぼやく。だが、言葉に反して、母親は嬉しそうな顔をしている。だから、和花も追及しない。

 それがきっと両親の愛の形なのだろうから。

 父親の愛情表現は鬱陶しく感じる時もある。それでも、それが、親からの愛なのだろう。

 優しくて暖かくて。大事な感情だ。

 和花は踏み出した。

 とにかく、これで、スイの為に祭りを開くことが出来る。

 スイを救える。

 和花は信じていた。スイが言った言葉の全てを。

「ほら、食事にしましょう」

 母親に手招かれ、和花は食堂に入った。机の上には美味しそうな母親の手料理が並んでいる。

 和花は顔を輝かした。

「少し早い気もするけど、お祝いよ」

 母親が笑う。

 気持ちが嬉しかった。

 祭りの準備はここから急ピッチで進めなければならないだろう。祭りが成功するか否もまだ分からない。

 いや、絶対成功させると決めているが。

 弱気を覆い隠してでも、前に歩を進めるしかないのだ。

 不安は大きい。まだ、先が見えない感じは続いている。

 それでも、こうして祝ってくれるのが嬉しかった。それと同時に現実を突きつけられる。

 自分一人ではうまく物事を運べなかった。和花の考えは足りなかった。いや、颯太と父親がいなければ、祭りは開くことすら出来なかっただろう。

 自分は何もしていない。

 和花は俯く。

「あんたが居なかったら誰も動かなかっただろう」

 龍現が和花の気持ちを見透かしたように言葉を紡いだ。

 相変わらずの強面で、表情もほとんど動かない。それでも龍現は優しいのだ。

 和花にとってはお兄さんのような存在で。居てくれなくては行けない存在だ。

 龍現もまた、和花のことをよく見てくれている。悩みがあるときや、落ち込んだ時はいつだって気が付いてくれる。

 父親や母親が忙しいからと、和花に気を配ってくれるのはいつだって龍現なのだ。感謝してもしきれない。

「誇りをもて。あんたが成し得たことだ」

 龍現が小さく笑った。

 笑顔は一瞬で消されてしまうが、確かに和花を見て微笑んだ。とてもめずらしいことだった。

 和花は龍現の笑顔を見て、頷いた。

 都合のいい解釈かも知れないが、そう思うことにしたのだ。和花が動いたから祭りが出来るのだ、と。

 今はスイの為に前に進むほうが先だ。

「ほら、和花ちゃん、食べよう! なっ?」

 何処までもマイペースな父親が笑う。

 はいはい、と二度返事をしながら、和花は椅子へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ