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しずるとなちると弟クン(2)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校三年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。入学してきた新一年生の勧誘活動中。お茶を淹れる腕は一級品。

・那智しずる:文芸部所属の三年生。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。舞衣の暗躍の所為で、今では学園のアイドル的存在に。実は『清水なちる』の筆名で活動する女子高生小説家。重度のブラコンでもある。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の二年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして金の亡者。『文芸部の守銭奴ロリ』の異名を持つ。毎度毎度、しずるをダシにしては金儲けを企んできた。しずるの平穏を乱す存在。

・那智忍:弟クン。文芸部に入部した一年生。しずるの弟。一人称は「ボク」。姉思いで、幼馴染み達からは「シノブ」と呼ばれている。しずると同様に背が高い美形男子。舞衣に下僕としてこき使われようとしている。


・里見大作:大ちゃん。二年生で千夏の彼氏。千夏に首ったけ。怒りが頂点に達すると、熊をも殴り殺すアングリーパワーを発揮する。











 放課後、晴れ、図書準備室、開け放たれた窓、微風(そよかぜ)、樹と草の香り……。


 文芸部の部室には、心地よい自然の産物以外に、人工のモノが二つあった。

 蛍光灯の光と、<カカカカカッ>というキーボードを打鍵する音だ。


「しずるちゃん、もう三年生になったのに、作家さんのお仕事をお休みできないの」

 わたしは、テーブルの隅でノートパソコンに向かっている美少女に声をかけた。


 その白く細いしなやかな指は、QWERTYの配列の上で軽やかに踊っていた。

 背中まである艷やかな黒髪は、一本の三つ編みに編み込まれている。それは、意思を持つように、打鍵の音に反応したり、微風に遊ばれたりして、複雑な動きをしていた。少しほつれた三つ編みの先の穂は、蛍光灯の光を受けて、微細な光量子を辺りにばらまいている。

 やや伸びた前髪がかかりそうになっている丸渕眼鏡には、液晶ディスプレイの映像を受けて、そのミニチュア版が投影されていた。レンズの奥に覗く涼やかな黒瞳は、電子処理された文字列をどのように捉えているのだろう。

 絶妙に配置された顔の部品は、視神経を通って脳内で認識された時には、高名な芸術家も嫉妬を覚えかねない肖像となって、わたしを魅了した。

 この季節でもやはり乾燥は免れないのか、深い赤に彩られた唇を、時たま艶めかしい舌が濡らしていた。その度に、濡れ光る舌や唇、そこから覗く白い歯の煌めきが、どうしても煽情的な気分を煽って止まない。

 今、風が吹き抜けた。それは彼女の周囲を巡り、たっぷりと色香(フェロモン)を含んで、風下に居るわたしに迄運び至る。

 彼女の香りに包まれたわたしの耳には、キーを叩く音が無限に反響していた。そのリズミカルな打鍵の音は、やや単調で、心の奥底に潜む原初的な何かを煽って火をつけようとしているに違いない。わたしは、どうしても鼓動が早まって息が上がるのを抑える事が難しかった。

 今、わたしの耳、赤くなってる……。


千夏(ちなつ)、お湯、湧いているわよ」


 高温域だが少しハスキーな声が、わたしを現実に引き戻した。

「あ、……へ。ああ、お湯、沸かしてたんだっけ。ありがと、しずるちゃん」

 室内に鳴り響くキーの音の中では、水が沸点を超えた時の音は微かなものであろう。そんな些細な音を聞き分けられる程に、彼女の耳は敏感で精細な聴覚を持っている。

 わたしが急いで電気ポットの様子を見に行くと、果たして、それは元気な湯気を吹き出して、『遅いよ』とわたしを叱っているようだった。

「うわっ、チチチチチ。ふぅ、危ないところだった。……しずるちゃーん、すぐお茶にするね。少し、休憩しようよ。皆も、もう来るだろうし」

 わたしは、お茶のセットを用意しながら、依然としてタイプを続けている彼女にそう言った。

「そうね。ありがとう、千夏。お願いするわ」

 キーを叩く音は消えなかったが、そう言う彼女の声が室内に響いた。

「うん、そだ。今日はアールグレイにするね。ちょっとアクが強いけど、その分ガツンと脳神経に来るよ」

 わたしは、つま先立ちをして、戸棚の奥から紅茶の缶を引っ張り出していた。

「ええ。楽しみだわ」

 しずるちゃんの声はいつも通り冷静だったが、本当に『楽しみ』にしている事は、わたしには分かった。もう一年も一緒に居るんだよ。それくらい分かるさぁ。


 わたしは、沸かしたお湯でティーポットが温まる間に、カップの用意をしていた。


(そろそろ、かな)


 わたしは、まだ熱を持っているポットのお湯を、一旦カップに移すと、紅茶の缶の蓋をこじ開けた。久し振りに封を切られた茶葉は、強い香りを放ってわたしの鼻腔をくすぐった。


(ん。良い香り)


 その匂いに満足したわたしは、手順を進めると、最後に砂時計をひっくり返した。

 茶葉が蒸れるその間は、至福の時間だ。

 そろそろかな? と思った時、部室の扉の開く音がして、元気な声が聞こえた。

「部長ー、こんちわーっす」

 この声は、

「あら、舞衣(まい)さん。やっと来たのね」

 打鍵音を一時も途切れらせる事もなく、少しイラッとした声が小柄な少女を出迎えた。

 わたしが部屋の中をちょっと覗き込むと、入口の扉のところに舞衣ちゃんが来ているのが見えた。

「あ、舞衣ちゃん。やっと来たね。今、お茶、淹れてるところだよ。すぐに出来るから、座ってて」

 わたしがそう言うと、

「わっかりやしたぁ。ほれ、弟クンも来るっすよ」

 と彼女に促されて、長身の男子が入って来た。

「ども……」

 少し遠慮がちな彼は、那智(なち)(しのぶ)──しずるちゃんの弟クンだ。

 その声を聞いた途端、今まで響いていたタイプの音がピタリと止んだ。

「なんだぁ、忍クンも来てくれたのね。姉さん、嬉しいわ」

 先程とは打って変わった猫なで声に、一瞬、舞衣ちゃんが微妙な表情を見せる。

「姉さん、もう来てたの。……って、またパソコンやってる。あれ程、根を詰めるのは止めてって言ったのに」

 少し責めるような彼の言葉に、姉はといえば、

「だってぇ、年末に出版予定の書き下ろしなのよ。バレンタイン篇に続く上下巻になるの。前から姉さんが書いてみたかったネタなの。やっと作品に出来るのよ」

 と、朗らかに応える。

 でも、その話って、どこかで聞いた事があるような……。

「しずるちゃん、それってもしかして、二月に言ってたお話?」

 わたしは、思うところがあって、彼女に尋ねてみた。すると、高校生作家先生は椅子から立ち上がった。

「そうよ。よく覚えていたわね、千夏。あなたが主役のお話よ。やっと小説(ほん)に出来るわ」

 と、わたしの方を向いて応えた。わざわざ左手で眼鏡の位置を整えて、キッとした眼差しをわたしに送っている。その姿は、窓から射し込む温かい光を背景に、凛として佇む『知性の女神』そのものに、わたしの眼には写った。

「っとぉ。確か、主役って、わたしとしずるちゃんの二人だったよね」

 いきなり、さも当たり前のように大役(ヒロイン)に就任させられて、わたしは少し恐縮して仕舞った。

「何を言っているの。私小説でもないのに、作家が自分を主人公になんか出来ないわ。主役は千夏で、あくまでキュートに朗らかに。そして、恋する乙女なの。……まぁ、そうね。強いて言えば、登場する女の子、皆が主人公と言う事も出来るわね。うん……、でも、やっぱり主役は、千夏しかいないわ」

 厳しい口調でわたしに語る彼女は、敏腕プロデューサーのようにも、高名な映画監督のようにも見えた。

「うー、そんなの恥ずかしいよぉ。前の『萌える惑星』でも、わたしのキャラクター、使われてたし。わたしなんて、しずるちゃんと比べたら、全然ダメダメのチンクシャだし……」

 わたしは、彼女の入れ込み様に気後れすると、主役を辞退するべく言い訳をしようとしていた。しかし、彼女は譲らなかった。

「千夏! また、そんなことを言って。千夏はチンクシャじゃ無いわ。小さくて可愛い素敵な女の子よ」

 と言って、わたしを上空から威圧した。

「だってぇ、わたし、ちっさいし、しずるちゃんみたいに背も高くないし。ボン・キュ・ボンでもないし」

 下から彼女を見上げて異議を唱えたものの、語彙や文章力でプロの作家さんに敵う訳がない。

「何を言っているのよ。いい加減にしなさい、千夏。あたしみたいに背が高くったって、何の良い事も無いわ。服だって下着だって、市販には可愛いものはないし。良いかな、っていうのを見つけても、お高くついたり。高コストな上に、バランスシートも良くないのよ」

 ううう、そうかも知れないけどぉ……。

「それって、わたしは、しずるちゃんと比べて安上がりって事だよね」

 高飛車な彼女に、尚も抵抗を続けるわたし。

「ちがいマス。一見どこにでも居るように見えて、千夏は誰よりも輝いているの。そんな千夏が主人公なのよ。きっと読者は皆、千夏に共感して憧れるに違いないわ」


(ううううううー。それって、わたしが、読者の身の丈に合ってる、どこにでも居る平凡な女って意味じゃないかなぁ)


 自分の設定に酔いしれているしずるちゃんに、これ以上楯突くことをわたしは諦めた。

「ふぅ、もう良いよ、しずるちゃん。せめて名前は匿名にしてね。本名は恥ずかしいから」

 最後の抵抗をしたわたしに、

「大丈夫よ。主人公の名前は、『ちなつ』。全部平仮名で、『ちなつ』だから」

 と、高校生美少女作家は、胸を張って応えていた。

「ええぇ。それって、全然匿名になって無いよう。もう、しずるちゃん、恥ずかしいから名前は変えてくれると嬉しんだけど」

 わたしの最後に最後の抗議にも、

「ダメよ。『ちなつ』って言う音の響きが、今進めている文章の中では光輝いているのよ。今更、変更出来ないわ」

 と、彼女はにべもなく却下した。

「…………」

 わたしは、それ以上、何も言えなくなって肩を落とした。「ふぅ」と溜息を吐いて、お茶の準備の続きをしようと、振り向いた。

「あ、何、千夏。お茶の用意ね。あたしも手伝うわ。えっとぉ、忍クン。姉さん、お茶の準備のお手伝いをするから、座って待っててね」

 そう言うしずるちゃんの言葉は、前半と後半とで、声のトーンが全く違っていた。

「ええっ。姉さん、大丈夫なの? それぐらい、ボクが手伝うよ。ボクは新入部員なんだし。姉さんは、座って静かに休んでいてよ」

 弟クンは姉を気遣ってか、そう発言した。しかし、姉の方は、それを許さなかった。

「忍クン。ここでは、あたしは先輩なの。だから、後輩の忍クンは、いい子だから言うことを聞いてね」

 ニッコリと微笑む彼女は天使のようで、明るい窓を背にして後光を放っているようにさえ見えた。

 彼は、これを毎日家庭で経験しているのだろうか……。


(まさに、光の牢獄だね。まぁ、知らない人は羨ましがるだろうけど)


 わたしがそのやり取りを聞いて苦笑いを浮かべていた時、背中の方から、驚くほど軽い微かな足音が追いかけて来た。

 しずるちゃんは、わたしの横に並ぶと、

「ごめんね、千夏。あんまりお手伝いも出来なくて。しばらくは二足の草鞋(わらじ)だけど、夏休みが終わるまでには、下巻まで終わらせれられるから。部活も、受験勉強も、本格的にお手伝い出来るようになるわ」

 と、斜め上方から、そんな言葉をくれた。

「分かってるよ、しずるちゃん。どう転んでも、わたしはしずるちゃんに敵わないって分かってるから」


(今、わたし、どんな顔してるのかな……。こんなわたしが友達で、しずるちゃん、損してないかな)


 それだけが、わたしの気がかりだった。

「もう、千夏ったら。あなたは、あたしが羨ましくなるくらいの、素敵な女の子よ。せ、……背も小さくて、可愛らしいし……」

 そう言って、彼女の言葉は途切れた。

 わたしは、「え?」ってなって、隣のしずるちゃんを見上げた。

「もしかして、しずるちゃん、背ぇ高いの、気にしてる?」

 わたしは傍らに立つ長身の彼女を見上げた。きっと、わたしは不思議そうな顔をしていたろう。

「そ、そんな事、あたしが気にする訳ない、じゃない……」

 そう言って、しずるちゃんはそっぽを向いた。少し耳が赤い。

「…………」

 わたしは、自分の言った事が的を射ていたのに驚いていた。

「あ、あたしだって、ちっちゃくってカワイイ女の子でありたかったわよ。でも、……背がどんどん伸びちゃうんだもの。し、仕様が無いじゃない」

 そっぽを向いてそう言う長身の美少女が、何故かその時のわたしには、愛くるしくて可愛く見えて仕舞った。

「しずるちゃん、カワイイな」

 わたしは、思わずそう口に出していた。

「むぅ。千夏の意地悪ぅ」

 まだ、そっぽを向いたままだったが、わたしは今のしずるちゃんの顔を想像して、「キュン」てして仕舞った。


(ヤバイな。しずるちゃん、可愛すぎぃ)


 そんな彼女に、わたしは少しイケない感情をいだきながら、お茶の準備を続けた。

「はいは~い。お茶がはいったよ。今、持ってくからね」

 わたしは、気持ちを入れ替えようと、元気な声で部室の皆に声をかけた。

「はい、これは忍クンの分ね」

 姉は、手ずから弟クンにお茶を運んでいた。

「姉さん、ありがとう。もう、いいから、後はボクが手伝うよ。姉さんは、座って休んでいて」

 飽く迄姉を気遣う弟クンは、お茶を受け取ると彼女を椅子に座らせた。それから、しずるちゃんの持っていたお盆を持ち上げると、他の部員──と言っても今は四人しか集まってないけど──に配り始めた。

「弟クンは、よく働くねぇ。関心関心」

 舞衣ちゃんは、分かったような事を言いながら、頬杖をついていた。そんな二人を、しずるちゃんは不思議そうに交互に眺めていた。

 そして彼女は、ふとこんな事を漏らした。

「そう言えば忍クン、お昼休みは大活躍だったわよね。姉さん、見てて感動しちゃった」

 ああ、それって猫を助けた事だよね。しずるちゃんも見てたのかぁ。

「ね、姉さん、どうしてそれを……。岡本(おかもと)センパイに聞いたの」

 少しドギマギする弟クン。ま、そだよね。舞衣ちゃんにいいように使われてるとこなんて、姉に見られたく無いよね。

「いいえ。偶然、通りかかって。頑張ったわね、忍クン。……時に、忍クン」

 急に、しずるちゃんの声が硬くなる。

「な、何だよ、姉さん」

 応える弟クンの表情も、硬い。

「あの……、こういう事を訊くのもなんだけど。……舞衣さんの下着って、何色だった?」

 そんな訳の分からない事を尋ねる姉は、自分で言っておいて頬を赤らめていた。

「い、いや、見てないから」

 当然のように弟クンは、慌てて否定していた。

「隠さなくて良いのよ。やっぱり、忍クンも男の子だから……」

 責めるでもなく、怒るでもない姉の口調には、微妙な響きが含まれていた。

「ほんとだから。青の水玉なんて、全然見てないよ」

 ああ……。嘘が吐けないんだな、弟クンは。かわいそうに。

「やっぱり……。良いのよ忍クン。姉さん、忍くんがロリコンの変態さんでも、怒らないわ。まだ、若いんだもの。少しずつ治していきましょうね。姉さんが、いっぱいお手伝いするから」

 そう言う、訳の分からん事を仰るお姉さまは、実弟から顔を背けると、取り出したハンカチで目尻を押さえていた。

「ね、姉さん。誤解だよ。ボクはロリコンじゃないし、センパイのなんて、姉さんのに比べたら。姉さんの方が、よっぽとオシャレだし、大人っぽいし、清楚だし、魅力的だもの。ほんと、誤解だから、姉さん」

 姉を説得しようとする弟クンは、必死の形相をしていた。

「アッハハハハ。弟クンは姉萌っすね。姉弟の禁断の恋。おいしい、おいしい。ところで、しずる先輩は、弟クンの言うように、いつも下着姿なんすかぁ」

 へっ、お前はアホの子か。なんて事訊くんだよ。

「舞衣ちゃん。人ん家のプライベートに踏み込むのは、失礼だよ」

 わたしは、もう呆れて仕舞っていた。

「変な事言わないでよ、センパイ。姉さんが、そんなだらしない訳がある筈無いでしょ。家では、ボクが洗濯担当なんだよ」

 弟クンの力説も、舞衣ちゃんには逆効果のように見える。

「へぇへぇ、ナイスなポジションすね、弟クン。して、しずる先輩は、どんな下着を履いてるんすか。センパイにだけ教えるっす」

「どうしてそんな事知りたがるんですか、センパイは。姉さんは、お肌が繊細なんだ。高級シルクじゃないと、ダメなんだぞ。センパイみたいに、三枚千二百円の安物とは違うんだ」

 それを聞いた舞衣ちゃんは、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。スッと音もなく弟クンに寄り添うと、

「弟クンは嘘が吐けないんだぁ。カワイイっすよ。……さぁて、あっちで舞衣ちゃんセンパイに、色々教えるっす」

 と、言葉だけは色っぽく話しかけた。まぁ、小中学生にしか見えない彼女に詰め寄られても、何のダメージも受けないんだろうけど。でも、舞衣ちゃんの武器は、それだけでは無かった。どこにそんな腕力が秘められてるのか、彼女は弟クンの左腕を絡め取ると、部屋の隅までズリズリと引きずって行ったのだ。

「う、わぁぁぁ。助けて、姉さん」

 何処かへ連れ去られようとする弟クンを目で追いながら、姉は心から嘆いているように見えた。

「嗚呼、忍クン。やっぱりロリコンだったのね。でも、姉さん、負けないから。いつか忍くんを、まっとうな男の子に戻してあげるからね」


 ……ど、どこの新喜劇やねん。


 テーブルに、よよと泣き崩れるしずるちゃんを見て、わたしは更に頭が痛くなる思いだった。


(こ、こんなとこ、他の誰にも見せられないぞ。しずるちゃん、極端なんだから。那智姉弟の心のケアまでは、到底手がまわんないよぉ)


 それでも、「今年は姉弟で舞衣ちゃんのオモチャにされるんだ」って思うと、同情を感じてしまう。

 なんだか、去年の二の舞になりそうな、嫌な予感にわたしは囚われかけていた。




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