61. 決意
「選抜祭に出られるのって、上級魔法が使える生徒だけって条件でしたよね?」
立候補できるのは一年生から四年生まで、そして上級魔法が使える生徒。
前者は「子ども」であるためで、後者は冒険者の護衛つきとはいえダンジョンに潜ることになるので最低限の自衛能力が必要なため、とのことだ。
選抜祭という名のテストによって、候補者の中から一人が選ばれる――それが当代の獣鎮めの子というわけだ。
「僕、上級魔法使えるなんて一言も――」
「いやいや、お前が上級魔法使えないなんて誰が信じんだよ?」
マスクの奥でほくそ笑む気配がする。もしやグルソンの件も薄々クロの嘘を見抜いているのか。
「そうじゃぞ、小童。儂の攻撃を受け止めた貴様が上級魔法も使えぬひよっことなれば、この〝這い寄りし悪夢〟の称号を返上せねばならん」
「すげえな坊! その年で上級魔法まで使えんのかよ!」
マリィにかいぐりかいぐりされて髪から顔までぐしゃぐしゃに。
「締切は今週いっぱいまでだが、すでに十人が手を挙げてくれてるぜ、お前を含めて。そのうち一人は一年生だぜ、お前を含めて」
「まだ含めないでもらっていいですか」
「お前と同じビジャット組の子だな。えっと……ポクハムくん、か?」
「いや個人情報……え、ポクハムが?」
立候補すること自体はそう意外でもないが……上級魔法が使えるというのは初耳だ。使えるならとっくの昔にひけらかしていてもおかしくなさそうなのに。
「まあ、そりゃあみんな立候補するよなあ。多少リスクはあるとはいえ、同行するだけで魔法師協会のE級と冒険者ギルドのD級の資格が手に入るんだぜ。卒業後は引く手あまただろうなあ、それに参加するだけでも学園の成績にも多少色がつくぜ」
ぴくっとクロの耳が動く。協会やギルドの階級はどうでもいいが、成績は喉から手が出るほどほしい。
「ダンジョン潜入も大したリスクじゃないわい。同行する儂らが傷一つつけさせるものか」
「冒険者の資格って、意外ととるのむずいんだぜ。あたいもペーペーの頃はそれなりに苦労したもんだ」
ダンジョンヘは幻獣との契約を結ぶ校長の他に、現役の冒険者であるニャニャプ先生とマリィらも同行するという。
獣鎮めの子の選考さえクリアすれば、安全面という意味では消化試合のようなものだろう。
「それに小童よ……たとえ冒険者になれたとて、幻界に入れる機会などは人生で数えられるほどしかないぞ。めったに得られぬ貴重な経験じゃ」
「そうだぜ、坊。あたいも一回しか行ったことねえけどさ、すっげえキレーなとこなんだぜ。幻獣も可愛いんだぜ、もふもふしてたりグネグネしてたりベチョベチョしてたり」
「うーむ……」
それも魅力的ではある。百足山羊やビジャットなどと関わったことで、クロ自身も幻獣や幻獣の力に興味が芽生えていたところだ。
さらに言えばそもそも、ダンジョンという場所にも興味がある。迷宮での立ち回りや魔物との戦闘など、得られるものは多いだろう。
そう考えると、立候補しないという手はないのかもしれない――目立つ、というデメリットに目を瞑ることができれば。
「お前が底知れねえ力を隠してんのはもうわかってんだよ。それに……学園の主が一生徒にこんな風に言うのはルール破りかもしれねえが……俺は個人的にお前を信頼してる。性根の部分も含めてな、へへ」
「……校長先生……」
照れくさそうに狐マスクの鼻を掻く校長。
「お前が無用な注目を浴びんの嫌がる気持ちはわかるぜ。けどな、本当に力のあるやつはどうあがいたって目立っちまうもんなんだ、それが学校ってとこさ」
校長の仰るとおり、今日は二度も目立ってしまった。一つは光盾魔法の授業で、もう一つは全校集会で――いやそれは落ち度はないが。
「いやなに、このフォクシーなお耳にも届くくらい、、最近の生徒たちの話題はお前でもちきりだぜ。あれやこれや噂がどんどん尾鰭ついて、このままじゃお前エルミィス七不思議に加えられて八不思議にされちまうぜ」
「一つも知らないうちに加えられるのはちょっと」
「簡単な話さ。噂が広まんのは、誰も実体を知らねえからだ。目立ちたくねえって無理強いはしたくねえが、みんなにほんとのお前ってのを見せるチャンスなんじゃねえか?」
(……なるほど……)
この提案は校長先生なりの気遣いでもあったのか。クロが最近の悪目立ちで悩んでいたことも知ったうえで、いっそのことぐうの音も出ないほど目立ってしまえと。
(とはいえ、なあ……)
バレるわけにはいかないのだ。
魔法使いではなく超能力者です、などと。
理解してもらえるかどうかも怪しく、なにを馬鹿なと鼻で笑われるだけならまだしも、むしろ信じてもらったが故に学園からつまみ出されるなんてことになったら最悪だ。
「つーかさあ、ぶっちゃけさあ」と校長。
「はい?」
「実際この目で見てみてえんだよ、闇の組織の狩人をばったばったと薙ぎ倒したお前の上級魔法がどんなもんか。なんたって〝異色の魔法使い〟の上級魔法だもんよ、もうこの場で見せてくれてもいいんだぜ?」
「儂も! 儂にも見せよ!」
「あたいも! あたいも!」
みんなして犬のように手を上下に振る。
「なんせお前の推薦状にはそのへん書いてなかったからなあ。お前の鑑定士ってあの有名なフェルディナンド・アザラだろ? あの人の社会的信用なら詳しく書かねえでも全部パスになっちまうもんなあ」
アザラ氏の名を耳にした瞬間、
(…………!)
クロの脳みそに電気が奔る。
「……そうか、そうだった」
「「「?」」」
なんで忘れてしまっていたのだろう。
――この場所に至る、始まりの部分を。
(……そうだ、源流魔法だ)
となればむしろ、校長の言うとおり、
「……僕も出ます。出させてください、選抜祭」
これはチャンスだ――限りなく事実に近い虚構を、現実にするための。
無限に広がる噂を断ち切り、大手を振って魔法使いを名乗るのだ。
――源流魔法使いとして。
「あと確認なんですけど……成績ってどんくらいもらえるんですか?」
次回、週末更新予定です。




