14. 組分け
サティ教頭がさっと腕を上げると、彼女の背後にある校章の旗の下に、バサッと三枚の旗が現れる。青黄色オレンジの三色で、それぞれ白抜きで獣のようなマークが描かれている。
『こちらがそれぞれの組章です。穢れと敗北を知らぬ蒼き水竜をシンボルとするチュニード組、暴風の翼を持つ空の王者たる聖鷹フィゾフ組、そして現と夢の間で無限に草を食む幻兎のビジャット組。みなさんにはこれらのいずれかに属する形となります』
「竜がいいな俺」
「鷹もカッコいいよな」
「兎だけこれじゃない感」
主に男子がざわざわとしだす。クロも健全な男の子として気持ちはわかる、やはり竜がいい。
「どうやって決めるんかな?」
「魔法学園だろ? 魔法に決まってんじゃん」
「もしかして決闘とか?」
「魔法道具が決めてくれるのよ。なんか喋る帽子とか?」
『選別方法は――』
ドン、とサティ教頭の前に大きな箱。
『くじ引きです』
「「「…………」」」
『能力や身分などに関係なくみなさんを運命の篩にかけてくれる、くじ引きほど平等な魔法はこの世に存在しません。というわけでサクッと決めてしまいましょう』
という流れで長い行列ができる。我先にと前に出る層と「くじ引きなんだから急いでも意味ないじゃん」と傍観する層とで分かれ、クロはというと単純に乗り遅れて後者だ。
それでも間もなく順番は回ってきて、ドキドキしながら箱に空いた穴に手を突っ込む。中に入っているのは、かたい紐で結ばれた小さな紙片だ。
「紐はまだほどかないように。ほどけないと思いますが」
「はあ」
魔法でもかけられているのだろうか。
『――全員一つ手にとりましたね?』
パチン、とサティ教頭が指を鳴らすと、紐が緩んでふにゃりとなる。
『それでは、紐をほどいてください』
みんな一斉にもぞもぞしはじめる。紐をほどき、紙を開き、
「おおっ! 俺、竜だ!」
紙には組章と同じマークが描かれている、ようだ。
「私、鷹! フィゾフ!」
「僕、兎……名前なんだっけ?」
各々が悲喜こもごものリアクションを示す中、
「……あの、先生」
クロはこそこそとサティ教頭の元に行き、
「白紙……なんですけど」
真っ白。なにも描かれていない。これは不手際か、それともいじめか。早くも新入生いびりが始まったのか。
「えっと……」とサティ教頭。「君、名前は?」
「マッティです。クロフレッド・マッティ」
「ではマッティくん、その紙に息を吹きかけてみて。それから手でごしごしして」
「え、はい……」
言われるままにふうっと息を吹きかけ、てのひらでごしごしこすってみる。すると――
「……あ、出てきた。すごいうっすら、これ……兎?」
「ビジャット組ね。よかったわ」
「はい、ありがとうございます」
なんだったんだろう、と不思議に思いながら踵を返すと、
「……魔力感圧紙、不良品……?」
「……魔力不足? まさか……」
「……鑑定士の完全紹介制ですよ、そんなわけが……」
サティ教頭と別の教師たちがひそひそ話すのを、クロは聞こえないふりをしてそそくさと下がる。
(……ん?)
よく見ると兎の組章の右下に、これまたうっすら文字のようなものが浮かんでいる。
『えー、みなさん、そちらの用紙をもう一度見てください。右下に数字が書かれていると思います。そちらは同組の班分けの数字です』
目を凝らしてみると、それは数字の1だった。
『各組二十名を四つに分け、五名ずつの班をつくってもらいます。班とは授業での実技や実験、宿題の提出などを共同するチームの単位です』
いわば学園生活で行動をともにする小隊か。
『それではみなさん、入学最初の課題です。この場で同じ班の者を見つけて集合してみてください。さあ、急いで!』
パンッとサティ教頭が手を打ち鳴らしたのを合図に、広間は一気に混沌と化す。紙を手にうろうろする者、「◯◯組◯班! こっちー!」と声を張り上げる者、肩と肩がぶつかって小競り合いに発展しそうな者たち――。
クロもどうしたものかとキョロキョロしていると、
「あ、あのー……兎1班、兎の1班の人、いるー……?」
震えるような小声だが聞こえた。
「あ、はい。僕、ビジャット1班」
「あっ! ……げっ」
ぱっと花開いたかに見えた表情が、一瞬で萎む。
「あー、君、あのときの……」
「あんときの貴族……同じ班かよ……」
馬車でウィナー・ポクハムにシメられそうになっていた独り言少年だ。まさか六十人もいて同じ班になるとは、すごい縁だ。
「――あんたたちがうちの班員? なんかパッとしないわね」
「はう! わたしも! よ、よろしくです!」
続けて現れたのは開口一番きつそうな赤髪の少女と、クロより頭一つくらい小さいニット帽をかぶった褐色肌の少女だ。彼女らも同じ班のようだ。
「四人揃ったな。あと一人――」
「君たち、ビジャット1班って言った?」
後ろから声をかけられる。
「よかった、見つかった。何度も足踏まれそうになって大変だったよ。存在感ないのかな、僕」
ひょろりと背が高めなこと以外は、確かに印象の薄い少年だ。茶色の髪にそばかす、切れ長の細い目つき。
「自己紹介って終わった? 僕、ライナー・ヴァース。よろしくね」
すっと手が差し出される。
反射的にその手を握ったとき、クロは気づく。
「僕、クロフレッド・マッティ。よろしくね」
前髪に隠れたその左目は、色素欠乏症のように真っ白だった。
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もし俺が総理になったら、飛び石の月曜日も休みにするんだ…




