脇役剣聖、全力を見せる①
書籍3巻本日発売です!!
さて、残る戦いだが……ちょっと疼く戦いが続いたせいで、久しぶりに俺も昂っていた。
サティが目を覚まし、立ち上がってルシオたちの元へ。
俺は、三人の弟子に言う。
「三人とも、いい戦いだった。七大剣聖の未来は明るいな」
「し、師匠?」
「ルシオ。お前の成長には驚いた……というか、マジでびっくり仰天。生きててこんなに驚いたことないってくらい驚いた。この摸擬訓練が終わったら、本格的な実戦訓練を始めるぞ」
「は、はい!!」
「イチカ。お前もだ。お前はもともと戦いの才能があるし、殺しの経験も豊富だ。今回はひたすら相手が格上だった……でもお前は喰いついた。お前の牙の鋭さ、さらに研ぎ澄まし鍛え抜けば、神器の覚醒も早いだろうな」
「……承知」
「サティ。お前も成長している。以前より遥かに雷の威力が高い。でも、まだまだ足りないな。そもそも今のイフリータとの戦い、磁力を使ってないだろ」
「あ」
「無意識に、雷と磁力を組み合わせた戦術が出るようになれば、イフリータに勝てたかもな」
「……うう、修行が足りませんでした」
がっくり肩を落とすサティ。だが、俺はサティの頭を撫でた。
「でも、強くなってる。まだ十六歳……いや、もうすぐ十七歳か。これからもっと強くなる」
「師匠……」
「終わったら、みんなでメシ食いに行くか。俺の奢りでな」
「え、ホントですか!? やったー!!」
「ああ。それと……ルシオにイチカもよく見ておけ。七大剣聖『神眼』のラスティス・ギルハドレッドが、どれだけ強いのかを見せてやる」
俺はマントを翻し、舞台へ上がる。
そして、昂った感情を吐き出すように叫んだ。
「ランスロット!! ロシエル!! ラストワン!! アナスタシア!! フルーレ!! 予定変更だ。お前ら全員でかかってこい!!」
ゾワリと、殺気が充満した。
ふわりと、ランスロットが舞台に上がる。
「冗談、では……ないのですね」
「ああ。子供にあんな戦いさせちまったら、大人としてはさらに熱いの見せないとな」
ロシエルが無言で上がる。いつの間にか、手には大きな水色のナイフが握られていた……この感じ、ロシエルの『神器』で間違いないな。
「…………」
「無言でもわかる。キレてるな?」
ロシエルはすでに構えている。
そして、ラストワン。
「いやー、こうも馬鹿にされるとはなあ」
「してねえよ。わかるだろ?」
「ああ。お前、本気でオレらとやりあえるつもりか? 団長以外の五人と同時にやるなんざ、正気の沙汰とは思えねーぜ」
「いいんだよ。それに、俺ならできるしな」
アナスタシアが静かに舞台へ上がり、蛇腹剣を鞭のようにしならせる……なんか女王様みたいだな。
「不思議ねラス。今なら……あなたを殺せそう」
「そりゃ怖い。でも、俺を甘く見るなよ?」
「フフ、子供たちの戦いを見て熱くなってるわね。まるで、若いころみたい」
最後……冷気を纏ったフルーレが舞台へ。
「こうもコケにされると、怒りを通り越して尊敬の念が沸くわ」
「ははは。そりゃすげえな」
「普段ならランスロットも、ロシエルも、五対一なんて絶対に認めないと思うけど……今はもう、あなたしか見えていないわね」
「だな。サティたちに感謝。お前も、熱くなってるだろ?」
「ええ。私の場合は……冷えるんだけどね」
ぴきぴきと、フルーレの周囲に氷の結晶が浮かぶ。
五人が武器を抜き、構え、俺に殺気を飛ばしてきた……いいねいいね、この威圧感。
仮にこの場にビャッコがいても、瞬殺できるくらいこいつらは強い。
全員が、神器に臨解を得た、歴代最強の七大剣聖だ。
俺は団長を見る。
「……ラスティス!! 貴様……どこまでやるつもりだ」
「当然、マジでやりますよ」
キィンと、世界が切り替わる気がした。
俺の瞳に、羅針盤のような文様が浮かび上がり、瞳の中にある歯車が回転する。
「「『第二の黄金時代』!!」
黄金の輝きに包まれ、身体中に力が漲る。
だるい部分が消え、活力がみなぎり、肌にハリが戻っていく。
身体が若返り、二十歳ジャスト……俺の剣技が完成した年代に戻った。
「……なんと」
「……!」
ランスロット、ロシエルは初めて見るんだな、俺の神器『万象眼』の力。
左目は、俺の時間を自由自在に操る時の瞳。
俺は、冥狼斬月を肩に担ぎ、五人に言う。
「お前ら、そしてこの場にいる全員に見せてやるよ。俺が一番強かった二十代の全盛期、団長と、ルプスレクスにしか見せたことのない本気の本気をな」
◇◇◇◇◇◇
サティ、イチカ、ルシオの三人は、若返ったラスティスから目が離せなかった。
「師匠、若い頃ってやっぱりカッコいいですね……!!」
「……」
サティの口から出た「カッコいい」に、ルシオが少しだけムッとした。
イチカはどうでもいいのか、姿形よりも気になることを言う。
「師匠。なんと言えばいいのだ……『圧』と言えばいいのか、何かが、増した?」
言葉では説明しにくい何かを、イチカは感じていた。
すると……なんと、ボーマンダが近づいてきた。
「あ、師匠の師匠、ボーマンダさん!!」
世界広しといえど、ボーマンダにこんな口を利けるのはサティだけかもしれない。
ボーマンダはチラッと三人を見て言う。
「弟子であるお前たちには、教えておこうと思ってな」
「へ?」
「……ご教授願います」
「えと、ボクはよく意味が」
イチカはぺこりと頭を下げる。ルシオ、サティは顔を見合わせ、一緒に下げた。
「あの姿は、ラスティスの全盛期……『閃牙』が完成した頃の姿だ」
「閃牙って、師匠の技ですよね」
「そうだ。今よりも遥かに『斬れて』いた時の姿だな。一度だけ、全力の『閃牙』と相対したことがあるが……死を覚悟した」
「……なんと」
「全盛期。あの五人をしても、全盛期のラスティスの相手になるか……奴は否定するが、全盛期のラスティスと『冥狼』に大きな差はなかったとワシは思う」
「そ、そんなに……師匠は、強いんですか?」
ルシオがごくりと唾をのみ込み、ラスティスを見る。
「ああ、強い。感じるだろう? 奴は……七大剣聖で最強だ」
ボーマンダが認めた。
ラスティスは、肩で剣を担いだまま、楽しそうに言った。
「さーて、始めようぜ。お前ら五人、俺を殺す気で来な。全力の俺がいかに最強か、魅せてやろうじゃないの」
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